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8割実話③

作者: 南天杏

「ねー、ホラー映画借りていい?」

「ダメ。絶対ダメ」


 レンタルショップに行くとほぼ毎回繰り返す会話だ。

 ホラー映画嫌いの旦那からOKが出るとは私も思ってないので、からかっているだけなのだが。


「昔はよく借りて観てたのになー」

「マジで?」

「うん。夜にリビングの電気消して、頭から毛布被ってテレビの前で観てた」

「その光景が既に怖い」


 旦那は信じられないとでも言いたげだったが、別にホラー映画に関わらず、私はそうやって映画だけに没頭して観るのが好きなのだ。


「でも1人の時しかそんな格好しないよ?」

「そりゃ見せられる格好じゃないもんね」

「そうじゃなくて、トラウマがあるの」


 首を傾げる旦那に私は語った。


 実家でまだ暮らしてた頃に、趣味のホラー映画鑑賞を楽しむべく、リビングの電気を消し、毛布を持ち込んでテレビの前に陣取って再生した。

 実はその時、リビングで母親が寝落ちていた。

 一応声はかけたのだがその日はビールも飲んでいたのでさっぱり起きる気配もなく。

 私も、まあそのうち起きるだろう程度にしか思ってなかった。

 というのも母親はホラー映画が苦手で、というか私以外は家族全員が苦手なので、ホラー映画を見ている時にリビングに誰か入ってくると文句を言われるか、観たくないからと慌てて出て行くからなのだ。

 一応、皆寝静まってからリビングを使っていたし、テレビの前にいるのも音量最低限にしていたのだが。

 何でリビングなのかといえば、私の部屋にテレビがなかっただけである。


 それはさておいて、その日もワクワクドキドキとホラー映画を楽しんだ。

 物語が進んで、画面いっぱいにグロテスクな映像と悲鳴が流れた瞬間。

 突然私の隣でも悲鳴が上がってガシッと誰かに足首を掴まれた。

 当然私も悲鳴をあげてそっちを見れば、いつのまにか起きて隣で映画鑑賞していた母親。その右手ががっしりと私の足首を掴んでいた。


 おいこらオカン。何してんの。何してくれてんの。


「だ、だって怖かったんだもん!」


 だもんじゃないよ。心臓飛び出るかと思ったわ。観るなとは言わんからせめて声掛けなさいな。


「邪魔しちゃ悪いかなって…」



「あの時は本当に寿命縮んだかと思ったわ…。悪気ないのはわかるんだけど、それ以来オカンとはホラー観ないようにしてる」

「俺、それやられたら反射的に殴りかねない…」

「同じ理由でお化け屋敷もダメだって言ってなかったっけ?」

「ん。驚かされるのマジ無理」


 無理無理と首を振る旦那。

 一緒にお化け屋敷に行ってみたいが、お化け役に暴力でも振るわれたら困るので連れて行っていない。


「あー、でも怖い話してると、色々寄ってくるって言うじゃない?」

「幽霊とかそういうの? 俺見えないからなぁ」

「私も見えないよ。でも、見えなくてもそういうのは場所を選んだ方がいいんだなーとは思った」


 首を傾げる旦那に、ホラー映画を指し示す。


「一人暮らし始めたばっかりの時に、これでゆっくりホラー映画鑑賞できるーって喜んで借りに行ったの」

「う、うん」

「そこ引かない。で、何本かレンタルして、家に帰ってさあ観ようと思って再生したんだけどさ、序盤で止めた」

「何で? 1人だと実は怖かったとか?」

「ううん。なんかね、お部屋の中みっちりで」

「みっちり?」


 どういうこと?と頭の上にはてなマークが飛んでいる。

 私もうまく説明できないので、ちょっと考え込んだ。


「その時住んでたのって7畳くらいの1Kだったんだ」

「うん、それで?」

「私以外誰もいないんだよ? いないけど、圧迫感がハンパなかったの。例えて言うなれば、部屋いっぱいに人が詰まっているような」


 私の言葉に旦那が固まった。


「私は見えないよ? 見えないけど、見えなくても感じるくらいには変な空気だった。ああ、ここでこういうのは観ない方がいいんだなって素直に思ってすぐ止めたんだよ。後から、そこ一帯が戦争の時の空襲で出た被害者の置き場所になってたってことと、戦国時代の処刑場がすぐ近くにあったんだって知ったよ」

「……」

「ちなみに引っ越すまで知らなかった。自殺の名所とかはネットで検索したらすぐ出てくるのにね」

「そだね…」

「ということで、ホラー映画借りてもいい?」

「ダメ。絶対ダメ」





まったくさっぱり見えないんですけどね。

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