2 スクランブル・【ルーミィ】 1
2 スクランブル・ルーミィ
606分室における不条理極まりない貿易文官と、軍人貴族の子弟による小競り合いが佳境に達した処で、以外にも程なくティアスが戻ってきた。
「あらや~だ、まだ続いてたのね。はい、はい、貴女方もたいがいな処でお終いにして頂~戴」
「あら?お早いお帰りですね、マッコード室長?」
アリュナールの軽い皮肉を込めた意外そうな声も意に介さず、ティアスは飛び交う罵声を払いのけるように真顔で皆に告げた。
「【アイズ・オンリー、FGI-160517】コード受領よ」
彼女から告げられた言葉の前に、忽ち彼女らの戦意は霧散する。
「総員、5テレス後に【ルーミィ】にて、OP・ブリーフィングに入る」
ティアスの受領した【アイズ・オンリー、FGIコード】とは、ソル系連邦最高幹部評議会最高情報調整局NSI主席審議官から発せられた最優先活動指令であり、連邦中央政府最高執行機関による《勅命》を意味する。
その《勅命》が持つ意義とは、ソル系連邦領域内だけでなく広くその友邦諸国にまで及ぶ安全を脅かす可能性を持った重大な危機、脅威の侵攻に対応する為に発せられた広範な調査活動と、最高機密性を有する最優先・最重要作戦発動コードであった。
「FGIだなんてホント、何とまた素敵だよゥー」
「そんでもってぇ、関係者限定極秘扱はぁ、ひっさしぶりだよゥー」
「だははハハ、ワクワクするねぇ、大物釣れるといいよねぇ」
それまで興味の的だった明利には一切視も刳れず、伽罹那と双生神の紅潮した顔が一斉にティアスに向けられた。
「さてと、明利・レイルズ調査官。着任初日に入った初仕事が、アイズ・オンリーFGIコード処置を引き当てるとはね。お見事よ、やっぱり貴男何か《持ってる》わね」
ティアスの声に合わせるかのように、アリュナールはキョトンとした表情の明利に目配せしつつ、姿勢を正してデスクからスッと立ち上がる。
「ラジャーです。マッコード統括官」
彼女の傍にいた明利は、思わずその動きに攣られ、立ち上がり際に思わずMID時代の癖を出してしまう。
無意識にもただ一人痛い程に、それは見事な軍式敬礼を返していたのであった。
「うわぁお、まぁ、それなりにとは思うけどね、軍制スーツじゃないとサマに為んねーゾ?」
「ひゃおゥー!持ってるゥ、持ってるゥー」
「そそられるゥー!ラッキーアイテムゥー」
「え?・・・レイルズ調査官?これからは敬礼、SIDでは不要ですから・・・控えて頂きたいのですが・・・場違い的に、少し下品です」
アリュナールは、何故だか不思議と気恥ずかしそうに明利に向かってアドバイスをする。
「クククク、でもそれって、結構新鮮なんだわ。レイルズ調査官、とっても凛々しくて私は好きだわよ?」
周囲の空気に比して、そのやや特異で滑稽とも思える恥ずかしそうな彼の姿を横目で楽しみながら、ティアスは全員に命じた。
「さぁてと、総員【ルーミィ】ヘ昇がるわよ!」
彼女の発する言葉を受けた途端、606分室のメンバーはバタバタと弾けるように一斉に執務室の外へと飛び出し、明利はその流れに巻き込まれる様に身を任せ、訳も分からず皆の後に続く他なかった。
画してSC606分室の一行は、数時間ほど前に明利自身が降り立っていた【リティラトゥール星域第Ⅳ惑星シルファード】衛星軌道上にある、SID専用衛星軌道宙港【飛天】へと向かったのであった。
「失礼ですが、フェナリィ専任分析主監。我々が向かっている【ルーミィ】の名称なのですが・・・」
サマリンダ地上宇宙港から飛び立ったダイナ=ソアSID専用衛星軌道港特別連絡001便の窓の外、次第に接近する巨大なSID専用衛星軌道宙港【飛天】のパプリカを模したようなシンプルな外殻を視界に捉えながら、明利はアリュナールにそう問いかけた。
「【ルーミィ】については、僕にも少し憶えがあります。確か数星歴年前、SIDからの特別発注を受けたリジュア・ヴォード開発公社九紫重兵器工廠第Ⅲ新領域局のTe-01八白ラボで建造されたという、幻の全域稼働高速ポケット・フリゲートの名前でしたよね?」
明利の問いかけに、以外にも浮かない顔をして軽く頷くアリュナールの横顔を、【飛天】から突き出たドッキングベイの影が徐々に覆ってゆく。
彼の発した言葉の所為なのか、機内は不釣り合いな程の不気味な沈黙に支配されいたが、彼は臆する事無く構わず言葉を続けた。
「何でも、初期起動試験時に見せたその単艦戦闘能力は、優に1ディビジョン(戦列艦3隻、複数のクルーザー、フリゲートにて構成されるソル系艦隊構成単位の第三段階)に匹敵する程の破壊力を有していたとか」
明利の発した言葉に、606分室のメンバーは一斉に奇異な目を向け、彼を凝視する。
「でも、実験艦であったためか実戦ロールアウトさせず、そのまま廃艦処分されたと記録に残っていた筈では・・・?」
「そうですか。でも、確かに【ルーミィ】は、私達SC606分室の専属特務艦として実在しています」
アリュナールは窓の外に広がる虚空に目を遣り、やや怪訝そうな顔をしながら明利の問いに答える。
「そして、私達の命を懸けた闘いの拠り所でもあり、また、最も頼れる存在でもあります」
やがて彼女の見つめる先には、【飛天】の巨大パプリカの内部にある第13船渠の複雑な構造体が姿を現してきた。
「ふん!MIDの情報収集能力もその程度なのか?高が知れてるな」
呆れ顔で吐き捨てるように伽罹那が明利に言い放つと、機内は一層気まずい空気に押し包まれ、明利の頭の中には少しばかりの不安が過る。
(何か不味いデータ記録でも、言ったかなぁ・・・?)
彼の単なるオタク的な興味心を察したのか、双星神の一方が明利に向かって真顔で語り始めた。
「明利・レイルズ調査官よゥー。実はね、ソル系統合宙軍やMID、ましてやワチらSID内部にもあんまり知られていない話なんだけどよゥー・・・聞くかぃ?」
「え、ええ。出来れば、いや、是非にもお聞かせ願いたいと思います」
明利の興味を一層奮起させようと目論んだのか、双星神のもう片割れが、引き攣った様に悲壮な表情を湛えて続け様に語りかける。
「聞きたいだろゥー?【ルーミィ】ってね、そうそゥー、そうだよゥー廃艦処分として放り込まれた先のブラックホールから、亜空間の暗黒魔属クゥ・トゥルー邪神団の呪いを受けて蘇生復活したのだよゥー。放り込まれた超重力の深淵に斃れて後に、再び因果律の地平から蘇ったと~っても怖いゾンビぃ艦なのだよゥー」
途中から、なんだか情報が意図的に少し逸らかされている気がしてきた。
いや、間違いなく確かにそんな気がする。
「そうなのだよゥー。闇の呪いを受けたる邪神団の統べる暗黒因果律の支配する地平、シュバルツシルト境界域から、血みどろの姿で這いずり出たのだよゥー。自らを欲望のままに生み出し、蹂躙の果てに凌辱し、そして最後に用無しだと《ポい捨て》した奴らへ、復讐の鉄槌を下すために甦ったのだよゥー」
「「ふフフフ。もうすぐ君も呪われちゃうかもよゥー」」
テミアとラミアの語る似非ホラー調談話は、シラケたその場を更に、そして確実に凍り付かせて行った。
「まーた、くっだらない事を次から次にベッラベラッと!何時かエアロックから発哺り出してやるからな!「ポい捨て」だぜ「ポい捨て」。この傍迷惑なおしゃべり双星神めが!」
更に呆れ顔をした伽罹那は、一層乾いた笑いで場を取り繕うとした心算であったのだが、双星神はそれに構わず、然も得意げに見事なコンビネーションで不気味な《ゾンビぃーダンス》を舞う。
「そりゃ、滴る血の味を求めてぇー、宇宙を彷徨うゥー。うりゃ、己が恨みをゥー晴らせよ暗黒のゾンビィー艦」
「「きぇーっ!キャッハハハハハ!!」それってひっどーぃ、テミア」
「おおぅ、恐怖の吸血戦闘艦だぞゥー。ほぅら、復讐の牙を研ぐゥー。それぇ、その邪神の狂気に駆られし、おおぅ、己が呪怨の赴く儘に、恐怖の大鉄鎌を振り下ろすよゥー」
「「くぇへー!ヒャッハはははは!!」そこってつまんねー、ラミア」
その途端、大人しく俯いたまま聞いていたアリュナールが、殊更語気を荒げて二人を制した。
「テミア!ラミア!そんな言い方やめて頂戴!」
これまでずっと温和な表情でいた彼女らしからない突然の反応に、一瞬明利も戸惑いを覚え、双星神のオチャラケも一瞬で凍り付く。
「やれやれ、お控えなさいなフェナリィ専任分析主監、まだ通常地上勤務中なのよ。そこのお二人さんもね、今のフィクション創作活動についてはチョット面白いけど、発言については注意指導よ」
ゆっくりと落ち着き払った柔らかな口調で、ティアスが3人を窘めた。
「失礼しました。マッコード室長」
アリュナールは、ハッと我に返ったように、ギュッと手を握り締めて再び俯く。
「「マッコード室長、ごめんなさいでーすゥー(泣)」」
流石の双生神も、デュエットで詫びを入れ羽目を外し過ぎたと思ったのか、それ相応に悄らしい仕草を見せて反省しているらしい。
やがて彼女達の乗ったダイナ=ソアSID専用衛星軌道港特別連絡001便の外には、複雑に絡み合った埠頭構造躯体がゆっくりと迫り、その話題となった艦は【飛天】第13船渠の最深部に、ひっそりと隠れるように係留されていた。
ソル系連邦SID所属SC-606分室専属全領域稼動高速特務戦闘艦ポケット・フリーゲートSFR-SC-606【ROOMY】。
全長223Merのその姿は、鋭く鋭敏な剣のように金属鉱の様な縞紋をきらきらと輝かせながら、蒼星銀のシャネルのドレスを纏ったセレブのように静かに横たわっていた。
鋭い剣先状の艦首から中央部に続く膨よかで張りのある滑らかな曲線を描いたな艦体は、艦尾部手前でぐっと括れ、セクシーで妖艶なウェストラインを強く主張している。
そして、艦体中央部から伸びやかに流線型を描きながら流麗に膨らんだ艦尾ラインに位置するメインエンジンブロックの上下には、美しく七色の輝きを放つ巨大な4枚のバリアブル・フィンが、まるで天女の羽衣を纏っているように対を成して下折立つ。
明利の眼前にあったその瀟洒な存在感からは、とても戦闘艦とは思えない優雅さを醸し出していた。
「こんな艦があるなんて・・・なんて美しいんだ。リジュア・ヴォード社の造艦技師の設計思想は、その技術は、こんな奇跡とも呼ぶべき芸術作品を創造し得るのか?」
ターミナルに接舷したダイナ=ソアから、SID専用衛星軌道港【飛天】第13船渠接続ボーン・ブリッジへと乗り移った明利の足は、高まる心臓の鼓動に合わせるかのように次第に速くなる。
彼は、第13船渠の眼下に留まる【ルーミィ】ヘと、まるで魅入られ惹きつけられるかの様に一気に駆け抜け、その先にある【ルーミィ】係留用エアロックを目指す。
やがて重厚なドッキングベイの係留用エアロックに辿り着いた彼の眼前で、ゆっくりと静かな音を立てながら開いた遮蔽扉の先には、驚くべき【ルーミィ】の艦内が、いや、胎内ともいえるその神秘の空間が彼を待ち受けていた。
「たっだいまぁー、【ルーミィー】。元気にしてたかー?」
入艦認証セキュリティをパスし先頭を往くティアスは、まるで長い出張から久々に帰宅したサラリーマンのようにゆっくりと艦内へ歩を進め、彼女の後に続いた明利も、確かな足取りで最初の一歩を艦内へと踏み入れる。
【ルーミィ】艦内の空気はしっとりと仄かに暖かく、それでいて微かな潮騒の香りを感じさせるような、何処か懐かしく心地よい不思議な感覚を与え、明利の躰へと纏わり付くように包み込む。
続けて彼が目にした艦内空間には、思わず古き郷愁を誘う様な心地よい情景が醸し出されており、そこには遥か人類の故郷である地球中世時代の【アール・ヌーヴォー】と言われる様式を模して、見事にデコレートされた空間が広がっていたのである。
その【アール・ヌーヴォー】で調律されたルーミィの艦内は、構造体自体が発光する全天エレクトロ・ルミネッセンスの柔らかな光に映え、シンプルでいて且つ脈動する生命の胎動を感じさせるように演出されているのだろう。
それはまた、古代地球上に在ったと云われる七つの大海原を棲処として、その覇を競った巨大ガレオン戦列艦隊旗艦の艦尾に据えられた豪奢なゴシック・カテドラルの内部にも似て、観る者に何処か神聖なる雰囲気を与えるように主張していた。
「凄いな、これは見事だ。こんな設計施工なんてあり得ない。古代人類文化様式で内部艤装をした航宙戦闘艦なんか、これまで見た事がないぞ」
艦内通路を繁々と見渡しながら、その異様な光景に思わず絶句する明利。
「ふん。こんな気の利いた艤装設計が、そこいらの航宙造艦技師になど出来るものか。ティアの趣味を具現化したものだよ明利。けどさぁ、あたしだったらもっとガッツリとした真直古代バロック様式の、【城塞調】にでもデコレするんだけどねぇ~」
辺りを見回しながら呆然と只感嘆している明利の横を、追い抜ざまに伽罹那が一言投げかけて行った。
明利はその彼女の言葉遣いの中に、ふと何処となく違和感を覚える。
(あれ?今、マッコード室長や僕の呼び名が変わっていなかったか?)
「そうだよゥー、気難し屋さんな上に、この艦人見知りが酷すぎるのだよゥー」
続けて「トン」と、明利の肩を小突きながら双星神の片割れが声をかけて来る。
(うん?これはテミアなのか、まだよく判別できないな)
「こ奴、気に入った人の言う事しか聞かないんじゃよゥー。まーったく困ったもんじゃよゥー」
今度は反対側の肩を「トン」と、そっくりそのままの姿をしたもう片割れが小突く。
「ところで、明利ィ。ここから先は作戦勤務中となるのだよゥー。てなわけでぇ、当606分室では基本、作戦勤務中の役職呼称はお役御免の一切省略となる訳なのだよゥー。でもって、わったしの事はぁ、ラミア姉さんとお呼びなさいよゥー」
(ああ、こっちがラミアだったのか)
「そうそゥー。前回のオペレーションで、こ奴大ヘマやらかしちゃってよゥー、今まさに高次自閉モードの真っただ中なのだよゥー、気に障るかも知んないけど喋り方変だよゥー?」
ラミアの横からは、腕組みしながら姉のテミアが再び明利に向かって近づいて来る。
「由って、故に、従って。わったしの事は、テミア姉さんと呼ばせてあよゥー」
ダブルのニヤケた不穏な笑みを湛えて、ジックリじわじわと明利に迫り来る双星神。
「さあ、君は「明利くん」が好いか?単純に「明利ん」かな?でも、そんなんつまんねーかもゥー。プンスカピンよゥー」
と、姉が訳も分からず息巻き始め、明利の右腕を確りと抱きかかえる。
「そう、「明ちん」、「明ぽん」なんてのもどじゃらほい?いいかもよゥー?」
片や左腕に獲り付いた妹が、余計なアイディアを捻り出そうとする。
「ぷプッ。それってもう「メイプル」何ちってかぁ?プププのぷっ。妙に可愛いいかもよゥー?」
明利は柔らかな躰を押し付けて来る双星神の揶揄いに、どう対応したものかと困り顔をしながらジタバタと踠き始めた。
「いえ、其れはドッチも遠慮しておきます。僕は・・・」
困り果てていた明利の後ろを、丁度最後に通り過ぎようとしていたアリュナールが、見かねて振り向きざま彼に助け船を寄越した。
「あら、単純に「明利」で良いでーす。よね?自分でそう言ってましたもの。さあ、タクティカル・ブリーフィング・ルームへ急ぎましょう。きっとティアが待ち草臥れてる筈よ?」
アリュナールはサラリとそう言うと、絡み合う明利と双星神を残して独りアンダーブロックのリビング・デッキへと続くスロープを颯爽と降りて行った。
「なーんだ、つまんないのゥー」
「そーなんだ、芸がないのゥー」
「「じゃそゆうわけでぇ、行くよ明利」」
双星神はあっさりと明利を開放して、さっさとアリュナールの後に続いて下へと降りて行った。
【ルーミィ】のタクティカル・ブリーフィング・ルームは、ブリッジ直下に位置したアンダーブロックにある乗員共用のパブリック・エリアにあり、艦首艦底下部に突き出したラウンジ状の構造をしている。
その内部は専ら乗組員用のリビング・デッキとして使われているらしく、暖色系の明るいライトベージュで統一された内部の中央に、円卓状のもふもふソファとふわふわフロー材が、まるで宇宙空間に「ドーン」と浮かんでいる様な奇妙な感覚を憶える構造となっていたが、慣れて来ればそれはそれで存外居心地がよさそうにも見えてくる。
明利も彼女らに続いて急ぎ足でリビング・デッキへと入ると、既にもふもふの円卓状ソファー中央にはスラリと伸びた美しい脚を組んで座り、何時ものように寛ぎながら皆の到着を待ち構えているティアスの姿があった。
彼女は勢い駆け込んでくる皆の姿を、その視界に捉えるや否や徐に口を開いた。
「【ミドル・スターズ】の【クプリット=ライン】近傍。あの例の【六慾天】宙域、第四兜率天トゥー・スィタ星系にアディリア連合星系辺境航路調査船団と称する・・・まあ斥候艦隊ってとこね・・・武装艦隊が侵入した。それ自体はよくある事なんだけど、当該星域に侵入すると間もなく、その武装艦隊は突如として消息を絶った」
既に、タクティカル・ブリーフィング「レクチャー」が開始されていた。
「へぇ。アディリア連合さんらしくないねぇ、何かに遭遇して、とっとと尻尾を巻いてトンズら逃げ出したかぁ?」
伽罹那はティアスの横へと滑り込み、もふもふソファにバフンと思い切り寝そべりながら言う。
「いや、逃げる間もなく正しく瞬滅しているんだ。第四兜率天トゥー・スィタ星系付近におけるポータル・ゲート時空転移点の遷移反応は一切観測されていない。無論ゲートは閉じたままだった」
ティアスは寝そべる伽罹那に嫌がる風もなく、淡々と話しを続けた。
「突然消滅した。って事ですか?」
思わず、明利が口を開く。
「そうだ。その代り一瞬だが、僅か0.0002サットの瞬間、本来ならば巨大なエネルギー崩壊が起こるはずだったその空間で、不連続な多重空間震動断層が出現したらしき痕跡が観測されている」
「それって、定域重力打撃による瞬間拡散放射でしょうか。それにしても連続する空間振動波なんて事自体、有り得るのかしら・・・?」
ティアスの後ろに寄り沿うような姿勢で、もふもふソファの背もたれに手を掛けながらアリュナールが問い掛ける。
「いや、多重空間振動断層痕跡の形成過程解析マトリクスからは、この空間震動の直後に武装艦隊が素粒子雲へと還ってしまった事が想定されている。謂わば虚数空間側への瞬間的とも言うべき質量エネルギーの転換陥没崩落だ」
ティアスの語った言葉に、その柔らかなライトベージュの空間が一瞬凍り付くと、暫くの間リビング・デッキを静かな沈黙が支配した。
「や、やだぁよゥー。イッキなり【デュラックの海】に還ったってのゥー?何ーんもないとこで、一個艦隊が?突然虚数空間に沈んだってのゥー?」
「そ、そんな現象聞いた事がないよゥー。有り得なァーい、艦隊規模の原子レベル励起崩壊なのだよゥー?しかも、虚数空間側に瞬間陥没だよゥー?」
その沈黙を破る様に、怯えた双星神がティアスの両横へと転がりながら座り込む。
こんな時の「双星神」は、意外と機転が利いている。
「でぇ、アディリア連合星系中央経営機構統制部の動きは如何よ?まぁ、このまま黙っちゃいないでしょうけどね」
伽罹那は、もふもふソファの上で器用にコロリと寝返りながら、天井を仰いで呟く。
「いや、アディリア連合星系統制部はこの事態を前にして、何故か沈黙を続けている。どうかしら?明利。MIDのアナライズとしては、こんな時どう推論するの?」
丁度ティアスの対面に腰かけていた明利に対し、真顔で彼女が課題を振ってきた。
「とは言っても、元職ですから・・・」
遠慮がちに話し始めた明利の視線の先には、彼の力量を試すように瞳を向けるティアスの姿があった。
「そうですね、斥候艦隊の単なる遭難事故ではないとすれば、中央経営機構代表部勅命部隊直々のお出ましですね。取りあえず次の手としては、強力武装したリサーチ派遣艦隊の招請となるでしょう。無論、アディリア連合星系辺境統制軍自体は直接・間接的にも動けないし、本格的武力侵攻レベルに波及する事態となるまでは至らない・・・何せ実質的な武装偵察艦隊であっても、表向きは自国調査船団の遭難救助活動ですから。恐らく極めて限られた想定範囲内での対応になるかと推論します」
そして、彼の話に興味を唆られたのか、皆の視線も一斉に彼へと注がれる。
「ふーん。意外とセオリー通りの真っ当なアナライズを下したわね。じゃあ、アルはどうかしら?」
ティアスは明利の推論を聞き終えると、多少不満げな表情でアリュナールの方を見上げてSID統括分析主監の意見を求めた。
「私も、彼のアナライズの前半部には同意です。ただ、アディリア連合星系統制部国防議会調査局は、事前に何らかの不穏因子情報を掴んでいた筈です。そして、恐らくその不穏因子情報自体に危険視すべき何かが内在していた。従って、その不穏因子の確実な確保・若しくは排除を目論んでいたのではないかと推察します。そして異なる後半部ですが・・・だとすると、次の調査派遣艦隊の規模は大きいかな。そう、大規模侵攻に発展する可能性も十分にありますね」
「やっぱりか、・・・厄介事にならねばいいけど」
ティアは片手をそっと頬に充て、納得した様に軽く頷き、明利は、淡々と語るその確信的なアリュナールの分析に舌を巻いた。
明利の推論に不満はなかったものの、背景にある不気味な影の存在を感知したアリュナールの分析に、やはり双星神も興味を惹かれたらしく、早速余計な推測を挟み込んで来た。
「ややっ。こりゃは、御宝があるかもしれないですよゥー?オウバン・コバンがざっくざくゥー。きっと消滅艦隊の皆様は、その御宝を守っていた守護怨霊ブービートラップにでもヤラレタんだよゥー。すり潰されて血ぃみどろゥー。キャー、キャー、キャー!」
「いやいや、亡命者狩りかもよゥー?裏切り者を追い込んで、追い詰めて、容赦なき血の粛清だよゥー。そんでもって逆に亡命者の必殺返し技で、追手自体が消滅させられたんだよゥー。すっごぉーい血ぃみどろゥー。ヒュー、ヒュー、ヒュー!」
「どっちにしたって、何でそうなるかなぁ、いい加減そこから離れたらどうだい、スプラッター・ポンコツ双生神さんよ。で?ティア、うちらソル系中央政庁の動きはどーよ」
あっけに取られる伽罹那が、離脱しかけた話の軌道をキチンと修正して来た。
(上手いな)
流石に伽罹那の往なしも慣れている、これも積み重ねられたチームワークなのかと明利は思った。
「既にSID第3課303分室レジル・クレイン室長が、この消滅艦隊事件の追跡オペに着手しているらしい」
ティアスがそう告げると、一斉に皆の気色が研ぎ澄まされる。
戦略軍事情報領域を専門とする303分室が出張っているとなれば、超一級品のFGIと言える訳だった。
「そうね、皆の察しの通り、消滅艦隊の件もちょーっと怖いんだけど、これって「前座」なのよ。さて、ここからが我々に与えられたスペシャリティ【コア・コマンド】だ」
静かに語るティアスの瞳は、獲物を追い詰める肉食獣の如き輝きを放っていた。
「この消滅艦隊事件の起こる2ディル程前に、第四兜率天トゥー・スィタ星系の上層に位置する、第五化楽天ニェルマーナ・ラーナティ星系に到達していたアディリア連合星系所属のものと思われる単独先行艦があるわ」
ティアスは、勿体ぶる様に一呼吸溜めた後、次の言葉を続ける。
「どうやら最新の多重護法防壁を装備した特務艦らしく、その後、第五化楽天ニェルマーナ・ラーナティ星系の第二惑星【香忰】付近で消息を絶っている。フフフ・・・例の緋色の特務巡航艦とでも云えば良いかしらね?」
最後のセンテンスで皮肉たっぷりにティアスがニヤリと笑うと、それを合図に皆は自然と「ディスカッション」へと移行していた。
「あらまあ、その特務艦ってあの【緋翼のルヴァージュ】さんですか?」
アリュナールは唐突に呆れたような声を上げた後、更に怪訝な表情をして嫌々ながらに言葉を続けた。
「アディリア連合星系中央経営機構統制部国防議会調査局少佐、あのリディス・メルヴィス艦長の使役する特務巡航艦ですね?又もやあのヒトの影ですか、相変わらず弩派手な事好きですよね。ホント迷惑な話、下品な予感がします」
過去SC606の活動において、リディス・メルヴィス少佐から幾度となく煮え湯を飲まされた経験が脳裏を過ったのだろう、アリュナールは徐に頭を抱えると困惑顔をして、蹌踉きながらもティアの座っているソファの肩越しに「ちょこん」と腰掛ける。
「そりゃ見ろゥー、亡命者狩りじゃよゥー、あの姉ちゃん今度は何しよったんじゃよゥー。何かヤバい物でも・・・!でぇ!それをあたしらが捜しに行くんじゃのゥー?」
「読めたぞよゥー!あの姉ちゃんが、ヤバ物持ってトンずらしとんじゃろゥー?んでもって、あたしらがその奪われた御宝を奪いに行くって算段、そーゆー訳じゃのゥー?」
野性的嗅覚とも言える見事な感性で鋭い読みを披露した双生神のツッコミが、共時性理現象の発現を物語る。
「五月蠅いぞ、ポンコツ双生神。調査団に偽装した武装艦隊の消失だなんて、それこそ、何でMIDは動かないんだ?明利。戦争ごっこは、アンタんとこのご実家の得意分野でしょうが」
靱な足をバタ付かせながらソファに寝転がったままの伽罹那が、皮肉たっぷりに口先を尖らせて明利に投げかける。
「だから、実家じゃありませんって。・・・でもまぁ、元職ですから」
真面に取り合ったとしてもこの状況では万に一つの勝ち目も無きに等しかろうと、伽罹那の皮肉を真っ向から受け流す事にして明利は真面目に話を続けた。
「非武装協定宙域【クプリット=ライン】にあっては、MIDを含むソル系宙軍関係は無論一切手を出せません。ご存じのはずでしょう?【ミドル・スターズ】と云う非干渉宙域ならではの特性、あの【GUOO】加盟星系が批准する多星域間特殊条約の特別相互協約規定【散逸遺産保護管理条項】の一文を」
真面目に語り始めた明利の言葉とは裏腹に、ティアスの対面に腰掛けた彼の眼には、彼女の美しく秀麗に組まれた御美脚の画像がしっかりと映りこんでいた。
さっきからどんなに避けようと意識しても、圧倒的に神々しいまでのその存在感に惑わされ、ちらちらと自然に視線に入ってしまうのだ。
(綺麗なものは、やっぱり綺麗だよね)
皆にバレると厄介な事になるかもなと思いつつ、彼は自然な欲望を皆に気取られぬよう気を取り直して真面目な話を続けた。
「ソル系連邦統合宇宙軍と言えども、中央政庁経営機構運営部外務省外交部を介して【GUOO(汎人類銀河統合機構)】との間での外交的事前調整を経た後に、【手形】の公布を受けなければ【クプリット=ライン】に一歩たりとも足を踏み入れる事は出来ない。絶対的にあの【入領紋章=手形】が必要なのさ」
周囲を見渡すと、皆は思い思いの姿勢で明利の話に聞き入っている。
(おっ、いい調子だ、俺の視線もバレてないな)
多少安心したのか、明利の語りがやや饒舌となって行く。
「一方、アディリア連国防議会調査局は、我々ソル系中央政庁より先んじて【GUOO】との間に【深淵部第二次学術調査2国間協力協定】を締結し、あの【手形】の恩恵を独占的に享受しています。MIDとしてもその対抗手段として、既に失効して久しい【散逸遺産・文明発掘合同調査協約】の再締結を画策していたのですが、【GUOO】の実質的オーナーである、ラー・レラス共星群外交部ミドル・スターズ拡大調査局【グラーヴェ】の妨害を受け、交渉は遅々として進んでいないのが実情なんです」
それまで大人しく興味津々(きょうみしんしん)と聞き入っていた双星神が、軽快なテンポでスルリと割り込み明利の後を続けた。
「うええぇ、知ってるよゥー。あの紋章船ってやつだ。セコイお化け屋敷の入場料ゥー払って在りもしない幽霊遺跡群を勝手に探せと来たもんだ、それって立派な詐欺じゃねっつーのゥー?」
「どわわゎ、まじぃ奇ショーいよゥー。高額の入場料ボッタ喰って只のお札貼るんだってよゥー。それってやっぱ、おデコに貼るのかな?いやいや明利ぃ、貼るのはティアのあんよかのゥー?」
腕を組んで澄ました顔をしたテミアが、さも意味ありげに明利の視線を妨げて彼の前へと膨な下半身を曝す様に仁王立ちすると、更に怪訝な面持に変えて彼の顔をマジマジと覗き込み、背後からはラミアの調子のいい声が被さる。
「んにゃ訳ないぞゥー。貼るんならきっと、アディリア連合星系のリディス姉チャンのお尻に決まってるぞゥー。や、ややや、賢明な明利くんの清浄なる興味は、ティアのあんよに釘付けだしよゥー。どっちにしても厭らしいんじゃよゥー」
ヒップをクルリと明利に向けたテミアは、ラミアと二人してケラケラと笑い声を上げ、明利は双星神の戯言も強ち嘘でもないような気がしていた。
(が、それにしても俺の方はやはり・・・バレバレでしたか)
「テミア、いいけどね私に尻を向けるな、尻を」
見事に下心を見透かされ狼狽える明利を尻目に、ティアスはそう小言を言うと一際誇らしく見せびらかすように美脚を組み替えて、満更でもないご満悦な表情を湛えて微笑んでいた。
「そうね・・・それは残念。下品ですね」
ティアスの背後に座り、腑甲斐なさそうな目線を明利に向けたアリュナールが、一言冷たくキッパリと言い捨てる。
「でぇ、結局やっぱ明利も助平で、MIDは能無しだ。って事だけは理解できたわな。がははハハハ。どりゃ、あたしのも好いだろうが?ほれ見てみ、見てみ?この見事な腓腹筋を!」
伽罹那が軽く撓らせた脚に手を当てて、ニヤケながらも相変わらず厳しく当たってくる。
やがてアリュナールは、何か思い詰めたような瞳をティアの方へと移して、話を本題へと導いた。
「ティア。今回の最高幹部評議会最高情報調整局NSI主席審議官からの勅命は、追撃相対消去処理コマンドですか?」
アリュナールの言葉に促され、ティアスが核心の指令内容を告げた。
「いや、残念ながら双星神の推測が正解だ、追跡救出支援コマンドとなる。アディリア連合の姉チャン~あ~の~クソ忌々しい!リディス少佐らを捜索救出する。但し発見次第、可能な限り自力での救出をサポートし、アディリア連合星系領域へ速やかに帰還させること。なお、救出OPが不可能な場合は、少佐の所持する属性情報を奪取し足跡完全消去のうえ離脱する。何にせよ、【グラーヴェ】及び【GUOO】側へは我々が関与した形跡を一切知られる事は許されない。以降、本作戦を【ウィルトートス】と呼称する。ブリーフィングは以上だ。質問あれば別途とする。」
ティアスはそう言うと、静かに目を閉じて何時ものようにコマンド着手を宣誓する。
「では50メルテル後【六慾天】第五化楽天ニェルマーナ・ラーナティ星系へ向け進宙する。これより、オペレーション【ウィルトートス】発動。総員着手せよ。」
宿敵リディス少佐らを捜索救出すると云う、予期せぬ意外な展開となったティアスからの指令を受け、皆は一斉に呼応した。
「着手、ラジャーでーす」
アルのソプラノの声が響き、
「「着手ゥー、ラジャでーすゥー」」
テミアとラミアの双星神がハモる。
「着手、ラジャーです」
伽罹那のアルトが調和し、
「着手、ラ、ラジャー」
明利がたどたどしく応えた。
すると最後に彼が発した声へ被さるように、か細く美しく微かに響くメゾソプラノの声が聞こえてきた。
「着手、ラジャー、だぞ」
明利が聞いた微かに響くその声の主の姿は、明らかにそこに存在していない。
にも関わらずだが、彼以外のメンバーには不思議と何も聴こえていなかったのだろうか、至極当たり前の様にリビング・デッキで何事も無く自然と振舞っている。
(やはり何かある、このユニットは尋常じゃないな)
明利の調査官としての洞察力が、次第に研ぎ澄まされていった。
「抑々(そもそも)、この艦のコンセプト自体、同クラスのフリゲートに採用されている設計概念とは異質、いや次元が違うような気がするな」
一見して、ソル系宙軍艦船の構造と幾らかも違わぬように見せかけた【ルーミィ】の構造からは、確かに違う何かが感じられる。
これまでに、彼自らが実際に乗艦経験した数十隻のソル系航宙艦を初めとする、数百に及ぶ人類銀河世界の航宙戦闘艦の建艦構造知識情報に照らし合わせても、この【ルーミィ】の異質で圧倒的な存在感は、彼の脳裏に更なる疑問を抱かせるに充分であった。
MIDカウンター・エスピオナージ中央総軍作戦Ⅰ部第5課が危惧していたように、このSID第6課606分室の実相の影には、やはり何かが潜んでいる。
元来の調査官が具有する未知の潜在的危険に対する嗅覚にも似た鋭敏な感性が、彼の無意識の奥底で呼び醒まされ、次第に捉え処の無い疑念として像創られて行く感覚を心の奥底に隠しながら、彼はリビング・デッキを一人そっと離れてブリッジへと向かった。
やがてブリッジに続くスライドハッチの前に立った明利は、興味を抱きながらも静かに開かれたハッチを潜る。と、その中へと入った彼の眼前一杯には、星々の凍てつく光で埋め尽くされた宇宙空間そのものが茫漠と広がっていた。
そこは、艦内重力管制から隔離されてでもいるのか無重力状態になっており、彼は一瞬、自分がエアロックから出てしまったような強烈な浮遊感覚に襲われる。
【ルーミィ】のブリッジは航宙艦の中でも珍しくFBIWS(空間認識知覚共有システム)を採用しており、ブリッジの壁面空間自体が全天球投影型フォロ・ヴィジョン・スクリーンに覆われて、各員のコンソールシート以外は全て宇宙空間との一体感的感覚を増幅共有させる構造となっていた。
本来であればこの種の指揮管制システムは、惑星軌道域等の比較的近距離を行動範囲とする突撃艇=クリティカル・スマッシャーや、宙航機、オートシップクラスに付与されるべき機能である。
「アディリア連合星系領域の使うフル・オート艦船では良く在る構造だな。だが、この艦はオートシップではないはずだ・・・」
ブリッジの中を漂いながら周囲を見渡した明利は、ふと、無数の星々が発する光の背景の中に潜む小さな影の存在を見つける。
数多に鏤められた星々の光の中、宇宙空間のフォロビジョンの中心でぼんやりと浮かぶ華奢な後姿の少女が一人静かにふわりと漂っており、腰元まで伸びているであろうその蒼星銀色をした髪が、星々の微かな光を受けて瞬く様に輝いていた。
「君は誰だ!?」
明利はあまりにも場違いすぎる光景を前に、思わずその小さな人影へ向かって言葉を発する。
「・・・明利・レイルズ・・・だな。お前を・・・ずっと・・・待っおったぞ」
ゆっくりと彼の方を振り返りながら囁く少女の声は、美しく響くメゾソプラノの音階を奏でるように明利に投げかけられ、彼はその声色にハッとする。
その澄んだ聞き憶えのある少女の声色は、先ほどのタクティカル・ブリーフィング・ルームで聞こえていたあの姿なき不思議な声の主であり、明利を見据えた彼女の瞳、紅金と蒼銀の並んで輝く至宝【金銀妖瞳=ヘテロクロミア・オヴ・アイリス】が、彼の姿を諚と捉えていた。
「どうして僕の名を知っている?君は何者だ?」
「・・・シスターが・・・言っていた・・・必ず会えると。・・・だから・・・私は、ずっと・・・待って・・・おったのだ。」
蒼銀色の髪を棚引かせた彼女は、明利の質問を無視するかのようにそう云いながら宇宙空間に鏤められた星々の中をスッと横切り、一気に明利へ向かって飛び込んで来た。