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もうペ○○なんか見たくねぇ!

 俺はブサメンの成宮低作。そろそろノクターンでエロ小説を本格的に書き始めようと思っている。

 

 友人との遊びから帰宅した俺は、上着を脱いでクーラーをつけると、机においてあるPC前に座り電源をつけた。その間に今日起こった事を回想する。


 今日は翔太と映画に行ったり、その後家でゲームして遊んだり……有意義な日曜日だった。一緒に遊んだレースゲームは前半は翔太の圧勝だったが、後半に俺が「相手のショートカット際でポーズボタンを連打し、ミスを誘発する」という荒業を思いついたので、何とか善戦できた。翔太はカンカンに怒っていたが、これはれっきとした技である。


 思い返している内にPCが目覚め、いつものデスクトップ画面を表示した。


「さて、いっぱい遊んだし、そろそろ執筆に取り掛かろう」


 舞台設定は決まった。主人公とヒロイン(男の娘)の人物像もバッチリだ。俺は真っ白なテキストファイルを開いて、一心不乱に書き始めた。

 

 

 ノクターンでは真面目に……と言うより、漫才のようなボケとツッコミがあるシーンは書かないつもりでいた。

 笑いとエロの相性は悪いと考えていたからだ。


 俺がその事を知ったのは19の頃、あの暑い夏の日だった。

 その日俺は18歳以下は遊んではいけないゲームの購入を決意した。当たり前だが名は伏せる。

 そのようなゲーム自体に興味を引かれていたし、「エロシーンが笑えて楽しい」というレビューが気になったからだ。当時は懐に余裕があり、溢れる好奇心と淫欲を抑えきれず、わざわざ繁華街まで繰り出してそのゲームを買いに行った。

 包装されている箱の大きさにビビりながら、胸をときめかせて家に帰った。帰りの電車の中で、何かの拍子で鞄の中を検査されたらどうしよう、なんてくだらない妄想をしたのをよく覚えている。

 で、肝心のゲーム内容なのだが……笑えた。しかし人はエッチなシーンに笑いが入ると、萎えることが判った。

 行為の際に女性が「むおぉぉん」やら「若い子の――で若返るぅぅ」なんて聞こえてきたら、手を止めるだろう。声優は大変な職業だとその日知った。


 と、まぁそんな経験もあり、エロい場面ではエロに専念することを意識して、そういったシーンを描いていった。

 


……


 筆が乗り始めると、後はあっという間だった。


「か、書いたぞ……大体6000文字か……」


 俺、成宮低作はついにエッチな小説1話を書き上げた。分量としてはこの程度が適切だったのであろうか。不安はあったがこれ以上書くべき部分はわからなかった。

 午後6時ごろから書き始めてから没頭し続け(飯休憩も挟んだ)今は午前1時頃だった。 


 流石に疲れを自覚したので、冷蔵庫で冷やしたお茶を飲みながら一息ついた。ヒヤリとした潤いが喉を通って、書き上げた興奮を落ち付けていく。

 いい気分に浸りながら、ほぅっと息を吐いて作業工程を思い返す。

 

 やはり、一番苦労したのはエッチなシーンにもっていくまでの過程の描写だった。

 俺は『なろう』に投稿する文章は一人称で地の文を書いているが、ノクターンでは3人称視点で地の文を書くことを意識した。これは状況の説明等の文をワザと硬い書き方にして、人物のエロい台詞と対比させようとの考えだった。お陰でエロが始まるまで人物の説明が面倒で仕方なかった。

 

 肝心要のエロシーンはノリで書いて、まあまあ興奮できるだろう、という手ごたえだった。いやぁエロゲの経験が生きた。マルパクリはしていないが、俺の数々の戦歴も無駄ではなかったのだと、自分を褒めてやりたい気持ちだ。

 もちろんブツの描写はぼかして、俺自身ほとんど女を書く気分で望んだ。


「よ、よし! これでそのうち感想がもらえる……はず!」


 その後2時間かけて校正やら飯やらを済ませ、その日はアップしてすぐ布団に入った。

 その際改めて俺が書き上げた「硬い文」を見返してみると、ただ分かりにくい言い方を多様しまくっている文章にしか見えなかった。「こりゃアカン」と迂遠な言い方を一般的なものに換え、あの時間はなんだったんだろうと後悔した。


 布団に潜って暫く横になっていても、なかなか睡魔は訪れてこなかった。

  

(アップする時間も気に掛けた方が良かったのかな? しかし誰が朝からエッチな小説を読みたいと思うのだろう……は!? 「息子の朝の目覚め」を処理するためか!? な、納得できる! 次は大学出る前に投稿するのも検討してみよう)


 アレコレと色々思いがめぐって目が冴えていたが、やがて俺は眠っていた。

 


 翌日、10時頃に目が覚めた。

 恐る恐るサイトを見るとブックマークが3件ついていた!


「え!? ポイントが6ついている! そんなシステムだったのか!?」


 今まで知らなかったが、ブックマークされると1件につき2ポイントもらえたらしい。「なろう」を始めてから2週間だがその時初めて知った。画面の見間違いではないか、と何度か見返し、その事実を確認すると俺は心の中で喝采をあげた。


「やったぞーー! 俺の書いた文章はエロかったぞーーー!!! 少なくとも3名の読者様には!!!」


 作ったものを誰かに見てもらえることが、こんなに嬉しいことだなんて思わなかった。しかもこんなにすぐ付くとは思わなかった。俺は祝杯を挙げようとアパート前の自動販売機のぺ○○を買いに駆け出していた。


(やった! やった!! 俺はエロいんだ! エロードへの第一歩を踏み出したんだ!! この一歩は人類にとって全く関係のない一歩だが、俺にとっては偉大なる一歩だ! 嬉しい、本当に嬉しいぞ!)


 俺はあまりの興奮から財布から小銭を取る手が震えた。忙しなく160円を取り出し、自販に挿入インサートするとゴトンと音をたてて、その角ばった下半身からぺ○○が出てきた。俺は余裕のある動作でそれを取り出し、フタを開けて喉を鳴らして飲み込んだ。 


「……うまい!」


 俺が手放しにぺ○○を賛辞したのは初めての経験で、まるで世界が姿を変えたようだった。



 面識もないどこかの3人があの話の続きを見たいと……将来性を見出したんだ! すごいぞ! エロは偉大だ! もう天啓なんか必要ない! 俺は俺の道を歩んでいくんだ! 


 感想はまだ貰えてなかったが、それよりも自分が認められたような高揚感が身を支配して、それが心地よかった。

 続けていこう。と思った。

 


 やはりノクターンは、なろうと比べて読者の食いつきが段違いだった。

 なにせ女の子が出てこないエロ小説が、その日のうちにブックマークされる世界なのだから……。

 

 

……



 その後俺は計――話をなんとか書き上げた。

 打てば響くように、次話を挙げればブクマが確実に増えていった。――名もの人から評価を貰い、文章、話共に全て5だったのは驚いた。

 出来るならそのまま続けたかったが……心が折れた。


「……なんで俺、男の娘のエロシーン書いているんだろう」


 実を言うと目覚めかけていたことは、認める。

 けれど、ああ……なんてことだ。俺は自分が思っているよりノーマルだった。

 1話はぼかしたが、続けるうちにナニを書かざる得なくなってきて、それを描写するということは……

 

「畜生! もうペ○○なんか見たくねぇ!」


 もう参考資料を見るのもウンザリだった。もっとよく考えてから発車すればよかった。

 

 


 結局俺は、逃げた。作者が自作の性癖の不一致でエタったのだ……。

 都合50名もの見ず知らずの善良なアニキ達を裏切ったことになる。この事実が彼らにスコップされれば、俺自身が彼らにスコップされても文句は言えないだろう。


 ここまで見てくれた方がいるのならば、警告したい。

 ノクターンは閲覧数やブクマが、なろうと比べると比較的簡単に獲得できて、やる気が出る。ああいった場所では往々にして男は紳士として振舞っており、煩悩を精緻な文章に纏めて感想をくれる親切な御仁もいらっしゃる素晴らしい場だ。

 だが、始める前に自分の性癖は確かめておくべきだ。

 でなければ俺の様な敗走を被ることになる。

 

 


 これを書くに辺り、その作品を見返してみた。 


 必死で自らの――を参考にして書いた、当時の思い出の文章を見返して、ため息が漏れた。

 俺はノーマルだが、十分クレイジーだった。

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