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2 たまたまか

 俺は成宮底作。

 昨日はいい出会いを遂げたので、さわやかな朝日と共に起床したブサメン大学生だ。


「いいもんだ……ノクターンノベルズって奴は」


 俺はニヒルにこう呟くと、時刻を確認する。

 午前8時、完璧な目覚めだ。

 目覚まし時計の規則的に動く短針さえ、今の俺にはなにか……こう、なんと言うか……ね?そんなものに見える……いや、やっぱ見えない。見えたらなんかの病気だ。

 

「俺はノクターンで書くのだ。今までの心の持ち方とは切り替えねばなるまい……だから時計の短針をアレに見立てるくらいで恥ずかしがってどうする!」


 18歳以下は見てはならない文章を書き、評価してもらう。

 

 俺は昨日そう決意した。

 その為に平生の全うで健全な思考を捨て、常に脳内に煩悩を留めなくてはいけない。108ぐらいの数では足りない!もっとだ!

 そうしていつでもエロのヒントを逃さぬように生活するのだ。

 これは自分の為、自分の大学生活を潤いのあるものにするため、心を淫魔にして行わねばならないことなのだ。


「やってやる……エロを書いてやる!」


 焼いたパンにチューブ状に排出されるバターで「エロ」と書き俺はそれを一気に口にかき入れた。

 演出の為にバターを使いすぎてもったいない気もしたが、俺の決意表明はここになされた。

 

 俺はもう常人ではない、エロ魔人となるのだ。

 犯罪とかは犯さないが、エロい事で頭がいっぱいの男になるのだ!

 さぁネタを探すついでに講義を受けに行こう!


 俺はそんなことを考えながら朝の支度を済まし、大学へと向かった。


……

…………

………………


 

 大学へ向かって自転車を漕ぎながら、俺は何故ノクターンにいくのか、を今一度回想してみた。

 「なろう」から逃げるみたいではないか、と自責のような念に駆られたのだ。

 

「逃げ……か。間違っていないな。テンプレに挑戦しようとして、尻尾を巻いて逃げたこともあったしな」


 俺は一時期余りに評価がないので「テンプレに挑戦しよう」と考えたことがあった。

 しかし途中まで書いて断念した。余りにひどいのですぐゴミ箱に送った。

 

 男女の心の機微や、カワイイ人物描写、異世界の設定なんてどれ一つとして書ける気がしない。というより俺はそれ以前根本的に色々足りない。僻みもあるが俺はこんな仮説を立てた。

 

 「チーレムが書けるのは非童貞でなんでもできるリア充に違いない」

 だから俺には無理なのだ、と。

 

 「ハーレム築いて好感も持たせられる男主人公ってどんな奴だよ!」と思い有名どころを読むと、いとも簡単にそれが実現されている。

 信じられない思いで、他の小説も見てみると、皆ハーレム築いておきながらイイ奴だった。

 文章の読みやすさはどれもこれもお金を払えるレベルで、アマチュアという幅の広さを知って愕然となった。


「同じような設定でここまで違う色を出せるなんて……しかも嫌味がなく凄い主人公書いて……どれも続きが気になって……天才かよ」


 やはりランキング上位にはそれに相応しい才能、努力が求められるものらしい。

 なにかの参考にしようと覗いたのだが、そもそもどこをパクれば良くなるのかさえ分からなくて、嫉妬だけが残る結果に終わった。


 ……なんてモヤモヤしていても仕方ない。

 今日の講義は4時までだ。

 その後すぐ家に帰り、俺の熱いパトスをノクターンにぶつけるのだ!


 

 駐輪所は人がまばらで閑散としていた。1限の講義を取るのは皆眠いからだろう。しかし俺は違う。

 アパートが近いので、睡眠時間もバッチリだ。俺はこのために一人暮らししているようなものだからな。


「あ、成宮くん、おはよう」


 声の方に向くと、河合翔太かわいしょうたが立っていた。

 黒い髪を短く切りそろえてサッパリとした風貌をしており、童顔で人のよさそうな笑みを浮かべながら、片手を軽く挙げて俺に振っている。


「はよーっす。今日1限一緒だよな、いこうぜ」


「うん。1限は他に知り合いがいないから、良かった」


 はにかんだ様に口角を上げて、俺の隣に並んであるく翔太。男のくせに妙に愛想がいいので、ガタイのいい吉岡先輩に狙われやしないかと、心配になる。

 

 たまにいるよな、翔太みたいな女っぽい男。俺はそっちの趣味はないけど……は!


 またしても俺に天啓が舞い落ちた。


 コイツは……この頃流行りの「男の」というやつではないのか!?

 お尻の小さ――いや、それはいい。怒られる。

 

 昨日俺がノクターンを巡回していたときに出会ってしまった、一つのジャンル。「男の娘」それは男である……しかし男ではないのだ。

 意味不明の日本語だが、そうとしか言えない。なかには妊娠する男の娘もいるという……この国の懐は広い。


 ともかく(一部で)最近伸びつつあるジャンルなのだ。俺がこっそりこれに便乗すれば、沢山の人に見られて評価をもらえるかも知れない。あわよくば親切な読者様が改善点まで指摘してくれて、俺のレポートの評価も鰻上り!


「い、いけるぞ!」


「うぇ!?なにが!?」


 興奮しすぎて声に出ていたらしく、翔太は目を大きく見開いて俺を見ていた。


「あ……い、いや、ごめん。B食堂の定食の話だよ」


「突然どうしたの!?B食堂の話してなかったよね」


「い、いや、俺いつも人にモノを勧めるときこうやって入るんだよ……」

 

「や、止めたほうがいいと思うよ?インパクトはあるけど……そんなに美味しいの?」


 なんとか誤魔化せたようだ。

 そういう趣味はないが、クイッと首を傾げる翔太になんともいえない感情がわいてくる。この動作を自然に振る舞い、様になっているのだから恐ろしい……。


「あ、ああ『わが夏のおもひで』はホッペがベロリと落ちるくらいに美味しいぞ」


「そうなんだ。全く想像付かない表現だね、二つとも」


「お前も一緒にどう?」


「ん……いいよ。じゃあお昼にどっかで集まろう」


「よし……」


 コイツをモデルにエッチなものを書こう。俺の想像力では何かモデルがいないとイメージできないからな。仲良くして翔太の動向を参考にエロを書いてやるぜ!

 ふふふ……翔太は無邪気に笑っているが、俺がこんな邪な考えで誘ったとは思うまい。


「せっかくだし奢ってやるよ『わが夏のおもひで』」


 多少の罪悪感が出てきたので、こう提案した。

 別にそれだけの目的で仲良くするわけじゃない……翔太とは講義以外で会った事はないが、そろそろどっか遊びに誘うかな、と考えていたところなのだ。講義中何度か話すうちに、翔太は見た目以上にさわやかな心の持ち主だと分かってきたからな。

 誰だってエロの参考に自分が見られていると知ったら、怒るだろうと考えせめてもの罪滅ぼしをしてやろうと思った。


「ええ?どうしたの?前に『洗うがごとき赤貧状態』とか言ってなかった?」


 ……俺が途中で挫折した「罪と罰」にそんなフレーズがあったな、よく覚えてたな翔太の奴。


「いや、まぁ夏の思い出にどうかなって」


「女の子誘ってるみたいだよ」


 ふふ……と妖艶に微笑む翔太はこう続けた。


「なにか、変なこと考えてる?」


「……男同士で言ってて悲しくならないか?」


 俺は内心の動揺を悟られないように、わざとゆっくり発言した。た、確かに俺は変なこと考えている……だがこれがエロ魔人の生きる道なのだ!分かってくれ、もしくは気づかないでくれ。


「なんだ、成宮くん、度胸ないねー。別に奢ってくれなくてもいいよ」


 ツン、とそっぽを向く翔太くん。くそう、お前は本当に翔太くんだな!


「男を口説く度胸なんか、ないほうが良いだろ」


 二人で下らない会話をしていたら教室に付いた。


「まだ始まってないね。ゲームでもしよっと」


 と言って席に着いた翔太くんは、スマートフォンを片手に流行のアプリを始めた。


「お、また強いの入手してるじゃん!さては――」


「た、タマタマ手に入ったんだよ。課金なんてしてないよ」


「た、たまたまか……」


 俺は何故か聞いては駄目な単語を聞いた気がして、恥ずかしくなってしまった。

 

 こ、こんなことではいけない!俺はエロ魔人なのだから……そうだこれもノクターンでのネタにしてやろう!あどけない少年の無邪気な発言……い、いけるはずだ!入りはこんな感じで……で、汁男優役が……い、いけそうだぞ!


「タマタマかあー!」


「な、なんなの!?課金してないってば!」


 この会話が聞こえたのか、後で教授に注意された。

 

 エロの道は険しいようだが、俺は既に走り出したファイターだ!楽しくなってきやがったぜ。

 

 

 

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