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第3話「情報収集」

 灰色の空の下、どうやら人間達は森の中に潜むオルタロスに気づいた様だ。

 軍勢は一旦歩みを止め、何やら言葉が飛び交っている。しかし、森の中にを凝視しているものが多いところを見ると、何がどれだけ潜んでいるのかまではハッキリと掴めていないようだ。


 そんな人間の様子を、僕は大木の上から眺めていた。


「オルタロス相手にどこまでできるかなぁ〜?オルタロスも3割……いや、2割くらい削ってくれるといいんだけど」


 予想では、オルタロスは数万といる軍勢の2割を削ってくれると思っている。しかし僕は冒険者は知っていても、騎士や傭兵というものをよく知らない。あくまで、そうだったらいいなぁ、という希望的観測だ。

 オルタロスは相手の出方を伺っているのか、未だ森から出ていく様子はない。


 どっちも動かなくて退屈だ……。


 耳に入るのは、時折森の中から聞こえてくる魔物や鳥の声、それに雨の音。それが良い具合に子守唄となり、僕は船を漕ぎ始めるのだった。





 次に目を覚ました時、すでに軍勢の7割が壊滅状態に陥っていた。


「なんじゃこりゃ!?」


 オルタロスが全滅するのに何時間かかかるだろうと思っていたが、蓋を開けてみれば、人間の方があわや全滅というところまできていた。

 人間側の被害がそれだけ大きいにも関わらず、息絶えているオルタロスはわずかに2匹。残りは今も元気よく人間を空高くに跳ね飛ばしていた。

 意外と人間って飛ぶな……いや、そうではなくて。

 全く予想外の出来事に、混乱する。


「どうなってんだこれ……まさか全部オルタロスがやったのか? いや……でも弱くはないとはいえ、そこまで強い魔物でもないはず……。オルタロスが強くなった? いや、人間が弱くなったのか?」


 思考の渦に呑まれながら辺りを見渡すと、ある事に気がついた。

 オルタロスが5匹しかいない……。残りは何処へ行った?


 差し向けたオルタロスは10匹、息絶えているオルタロスは2匹。となると、残りの8匹がここにいなくてはならないのだが、目に入る範囲では5匹しかいない。

 戦場を注意深く見渡していると、かなり遠くに見える、国を囲うようにして建っている城壁から煙が立ち上っていることに気がついた。今までは雨と曇り空がカモフラージュになりよく見えていなかったが、よくよく観察してみると黒い煙が見えた。


 oh……これは……。


 そんな事はないと思いながらも、目の前の惨状を見て、どこか完全には否定できていない自分がいる事に気がついていた。そして、戦場を迂回しながら煙の見える方へと向かった。





 あーあ、ナンテコッタ。

 僕がパピロンで最初に目にした光景は、無惨にもボロボロになった商店街だった。

 恐らくこの商店街の建物は木でできたものだったのだろう。バラバラになった建物や、粉々になった木屑が至る所に飛び散っていた。

 これだけの被害にも関わらず、死者や負傷者は殆どいない。門番がいち早く異変に気づき、皆に知らせたのだろうか。


 周囲を見回して改めて人がいないことを確認すると、情報を聞き出すべく行くあてもなく歩き出した。


「すごい逃げっぷりだねー。あらかじめ準備でもしてたみたいだ」


 城へと向かう途中、民家や宿屋、食事処などを見かけたが、そのどれもがもぬけの殻だった。今もオルタロスが暴れている音と、彼らの鳴き声は聞こえてくるが、本来それと一緒に聞こえてくるはずの人間の悲鳴や怒号といったものはあまり聞こえてこなかった。



「それにしても……美味そうな匂いだな……」


 商店街の辺りから様々な香りがしていたが、どれもこれも美味しそうな香りで少し小腹が空いていた。

 こんな時に何を、と普段なら言われるのだろうが今日はあいにくと一人である。

 人もいないし捨てられてるみたいだからいっか。

 近くの壊れた屋台の店先に並ぶ、細い串に肉を刺し、焼いて何かのタレを塗ったのだろうか、とても香ばしい香りのするそれを手に取った。


「なんだろこれ。初めて見るけど、美味そうな匂い……」


 一口食べた僕に、衝撃が走る。


「なんだこれ!? 美味い! ただ肉を焼いただけのくせに! このタレか、このタレなんだな!?」


 その美味しさの秘密を解き明かすべく本来の偵察という任務を完全に放棄、屋台を漁り始める。滅んじまったものはしょうがない。過去のことはタレと一緒に流すべき。

 ちなみに、見た目はアレかもしれないが、ゴミあさりをする物乞いではない。




 「ふー、いけないいけない、完全に我を失ってた。情報を集めないと……ルディに怒られちゃうよ」


 あの後散々屋台を漁り秘伝のタレを手に入れたことに満足し、頷きながら再び情報収集を始める。

 チラチラと辺りの屋台に目が向いてしまっているが、不可抗力だ。

 しかしそれが功を奏したのか、屋台の隙間から人影が見えた。


 歩み寄ってみると、神父のようだ。何やら教会のほうに向かって祈りを捧げている。

 宗教だろうか。200年前にこれほど大きな教会を建てるような教派は無かったと思うんだけれど。

 200年間に何かが大きく勢力を伸ばしたのだろうとして、神父に声をかけた。


「ねぇ神父さん、何やってんのー?」


「む……?な、君!どうして避難していないのですか!?」


「それはアンタにも言えると思うんだけど?」


「私は神父です。この神の怒りを鎮めるために祈りを捧げなくてはいけません」


「神の怒り……?」


「君は信徒ではないのですね、説明してあげましょう。」


 コホン、と息を整えて神父は語り出した。


「この度、国は北東にある常闇の森へと進軍をしました」


「そりゃまたなんで?」


「新たな土地と資源、名声を得るためです」


「どうしてその森に行って名声が得られる?」


「未だ攻略できた国が存在しないからです。我がパピロン国は、南をタリア、西をモーリッツ、北をセレウルという大国に囲まれています。それらの大国に比べてパピロンは国も大きくはなく、資源も乏しい。ゆえに政治的な立場では発言力も小さいのです。そのことを王は不満に思っていました。だから常闇の森へ進軍したのでしょう。あの未知の地を攻略できれば、そこにしかない物があるかもしれない。そう考えたのでしょう」


 ……成る程、要は名声が欲しかった訳か。


 政治の事など全くわからないので、その王を適当によく深い男に認定し、話を続ける。


「それで、神の怒りっていうのはどういう事なの?」


「そのままの意味です。あの森は神が宿る神聖な森……! 何人たりとも踏み入れてはいけないのです!! まして攻撃を仕掛けるなどもっての他! 神がお怒りになるのも当たり前なのです!」


「………………」


「……? どうしました?」



 ハイ。

 えっと、僕そこに住んでます。なんて言えない。

 ぎこちない笑みを返すのが、精一杯だった。


 


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