第2話
あの出来事があった翌日、俺は自分の店である映画グッズ専門店「カンダニア」の開店準備を寝ぼけ眼でしながら、昨日の事を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ふぁぁ……なんで、俺はあんな事言ったんだろうなぁ」
「店長どうしたんですか?世紀末みたいな顔して」
この店唯一の俺以外の店員である次郎君が、商品を運びながら心配そうに声をかけて来た。
「いっその事、世紀末にでもなりゃいいのに。その方がいくらかマシだ」
「そんな顔で言われちゃ冗談に聞こえませんよ……」
「そこまで冗談でもないんだよ次郎君」
「世紀末に思いを馳せるって……何をそこまで悩んでるんですか?」
すんなり内容を言えるものならもう言っているよ次郎君……。
そのまま正直に話すと高校生1年生の頃から4年も一緒に働いてくれている次郎君といえど、精神と頭に支障をきたしたと思われかねない。
俺は店のシャッターを開けつつ、口ごもりながら説明した。
「あの、さ、昨日初めて会った人間の人助けを約束しちゃったんだよ」
「いい話じゃないですか。どこにそんな悩む要素が?」
「その人間が人間じゃないと言うか。なんつーか」
「なんつーか?」
「察してくれテレパシーで」
「無理難題!!」
すまんな次郎君、精神病棟に入れられる覚悟ができたら全部話すからな!多分!
「少し仮眠してくるわ。次郎君!後は頼んだ!」
「店開けたとたんに仮眠むさぼってもいいんすか店長」
「どうせ客なんざ困るほどは来ねぇよ」
個人営業の映画グッズ専門店なんてそんなもんだ、手元に残るのは明日生きれるかどうかギリギリの金。
世知辛いが自己満足ででも生きていければそれでいい。それで、世は全てこともなしだ。
沸いて出た欠伸をかみ締めながら仮眠室兼倉庫に向かい3分の1ほど惰眠をむさぼりつつ仕事を続けた。
「お疲れ様っす」
「おぅ、お疲れ」
鈴木君と店で別れ、冷え込みに冬の到来を感じ帰路をたどる。
シャークと叫ぶイカれた曲をスマートフォンで聴きながら寒空を帰ればほら、
暖かい我が家が明かりと共に待っているじゃないか。
「あれ?明かり消し忘れてたっけか」
確か消してたハズだけど、うっかり消したつもりで出かけてしまったか。
入り口でぼんやりと考え事をしていると大家さんが話しかけてきた。
「松戸さん、アンタあんな綺麗な女の子を外でずーっと待たせて何考えてんの!?かわいそうだから合鍵で部屋にいれておいてあげたわよ!?」
「あえ”うぇい”?」
大家さんを横目に変な声を上げながら急いで階段を駆け抜け、部屋へと走る。
ここ1年親しいと言うほどの女性は悲しいかな、いない、つまりだ
ど う 考 え て も 、 あ い つ し か 当 て は ま ら ね ぇ
「この、ポンコツ都市伝説女ぁああああああああ!!!1週間後と言ったよな!というより俺の家をなぜ知ってる!!」
乱暴にドアを開け怒りの限りちゃぶ台の前に座っている女に向かって怒鳴った。
「ごめんなさい!少し用事がありまして。待ってたらここの大家さんに見つかって、後は流れに流されあのぅ……そのぅ……」
「都市伝説っつーより、ストーカー女になってるじゃねぇか!むしろもうそれで恐れ集めてこい!」
怒鳴られたはずの当人は少し怯えた顔をしていたが、すぐにキリッとした顔になり持っていた鞄から袋を取り出し話し始めた。
「1週間後お世話になるわけですし、先にお礼をと思いましてですね。」
「世話になった後に渡せよ!つか何か動いてんぞその袋……」
指摘も空しく彼女の両手は袋へを伸びる。ついでに袋も上下左右に伸びる。
あの挙動は間違いなく生き物だ、両手で掴まなくてはいけないぐらいの。
観念したのか袋はおとなしくなり待望のご対面タイムとなった。
「じゃーん!六本足の鶏君です!」
「ぷぇい?」
また変な声が出てしまった。鶏は養豚場の豚のような目でこちらをじっと見ている。
「本心からいらない物が出てくるとは思わなかったぞ。何より、その鶏君をもらったところでどうしろと言うんだ。」
「ほら……その、揚げるとか、元々揚げられるために産まれた都市伝説ですし」
止めてやれよリストラされた全国のお父さんみたいな顔になってんぞ鶏。
てか、無駄に表情豊かだな鶏!どうやって変えてんだ表情!
「自分の子供が捨て猫拾ってきた気分ってこんな感じなんだろうか……」
「お子さんいらっしゃるんですか?」
「いねぇよ……単なる例えだよバカ怪異女、略してバ怪異女」
というかホントにどうするんだよこの生き物
「飼う……とかどうでしょう」
「さらっと心の中読むのヤメてくれるか?」
朝も鳴かないらしいので心苦しいが哀願動物として6ピース君略してロッピー君が家族として加わった。
「コイツは恐れを集められなさそうなのに消えないのか?」
歩きにくそうな六本足を動かしているロッピー君を指差し疑問をぶつける。
「最近、加工食品の異物混入とかの問題が再燃したおかげで、六本足の鶏の噂もリバイバル中らしいですよ?恐れも十分なぐらい溜まってます。」
「食に関する事件で再燃するなら、黒光りする虫レベルには生命力が強そうだなこの虫」
自慢げな顔なロッピー君を見ながらぼそりとつぶやく。
「で、用はコレだけなのか?」
、
そう言いながら彼女に目線を移すと、彼女はうろちょろと俺の部屋を詮索しはじめていた。
「オーケー今すぐに帰れ。」
「わー、なんていうかスゴい部屋ですね。お化けの仮面みたいなのがいっぱいで」
「お前さ、結構な勢いで言葉のキャッチボール通じないよな」
「んぇ?」
彼女は少し心外だという顔をして、ちゃぶ台に座りなおした。
「で、何でしたっけ?」
「他に何か用事はあったのかって聞いてるんだ」
「それがですね!」
両手を勢いよくちゃぶ台にのせ、彼女としては真剣な表情で身をこちらにのりだし、少し目を伏せながら話し出す。
「不安だったんです……。よく考えたら見知らぬ人に協力なんて、手助けなんて、普通しないじゃないですか。適帰るための口実だったんじゃないかとか、深夜でしたし忘れてるんじゃないかとか……。」
「忘れられるものなら忘れたいぐらいだけどな、毎度、迷惑しか持ってこないなお前はコレといい……。」
ロッピー君をつつくと、楽しそうに両方の羽をバタつかせ体を揺らす。
短い付き合いだが結構愛着がわいてきたな。知らなかったが、俺は結構動物好きなのかもしれない。
「だけどな、約束したことは忘れない限り守る男でこれでも通ってるんだ。その上あんな状況だ忘れたくても忘れられねぇよ」
「それを聞いて安心しました。」
そう言うと彼女はすっと立ち上がり玄関へ向かい一礼をした。
「帰るのか?」
「名残惜しいですか?綺麗な女性が帰っていくのは」
ふふんと胸をはりドヤ顔で聞いてくる。
「でかい口利くのは見た目だけにしてくれ」
「そんなばかり言っていると女の子にモテませんよ!」
彼女は眉を寄せ、しかし、少しはにかむような表情で少し胸に刺さる言葉を紡いでくる。
「元々モテる要素がないんだ、一つぐらい追加されたところで何があるってんだよ」
「それもそうですね。6日後楽しみにしてますから」
「存在がかかってるんだろ?そんな軽いノリで……」
俺が言葉を並べ終わるより早く彼女は去っていってしまった。
「……そんな軽いノリでいいのかよホントに」
生きるってのは存在するってのはもっと大事な事なんじゃないのかよ。
俺への期待の裏返しの行動なのか、何かを諦め始めたのか。
「重いんだよ、どちらにしても」
決戦は6日後、それまで何時も通りの日常と地味な準備を繰り返すしかない。
「一度だけ、一度だけの善意だ、二度目は絶対ないからな」
俺は棚にある油粘土を手に取り見つめながらつぶやいた。