到着
狭間村に着いた時には陽が暮れていた。
「しまった」
「うう?」
高崎は移動疲れでぼーっとしている。
「鈴奈の家に電話してない」
「ヨッシー、バッカじゃね?」
「うるさい」
鈴奈の家のチャイムを鳴らすと、伯母が出迎えた。
「…智良、君?」
「連絡もなしにすみません。その…」
まごまごしていると、伯母は冷たく言い放つ。
「なぜここにいるの? 私たちをバカにしに来たの?」
「違います! ただ、その、鈴奈が亡くなった場所を見せていただきたくて」
伯母はみるみる青ざめた。まずい。
「帰って!」
鼻先で扉がぴしゃりと閉められた。
「ヨッシー…。どーすんだよ」
「言いだしっぺのくせに」
そのとき、扉が開いた。伯父だ。表情は硬い。
「こんばんは。そちらはお友達?」
「はい…」
「悪いけど、うちには泊められない。公民館を開けてもらうから、今夜はそこに泊まりなさい」
智良と高崎は揃って頭を下げた。
「ありがとうございます」
晩ごはんをもらい、二人は公民館のかび臭い煎餅布団に倒れこんだ。床と変わらないくらい薄っぺらくても気にならないくらいに疲れてきっていた。
翌朝、伯父に先導され現場に向かった。道々、恵香の爆弾発言を説明した。
「そうかい。恵香がそんなことをねえ…。迷惑をかけたね」
「噂はすぐに収まります。お気になさらないでください」
「うん」
「ところで、次の『筆頭巫者』は決まったのですか?」
「…」
伯父は答えない。地雷を踏んだか。
「それはね、智良君、まだ、言えないんだよ。鈴奈が死んじゃったばかりだし」
智良は俯いた。
「失礼しました。酷いことを申しました」
「…雨島のお祭りのときに、発表するよ。予定通り、筆頭巫者が挨拶に行くから」
雨島の五月の例大祭。今年は特別だ。智良が跡継ぎとして正式に認められる。鈴奈も金明山代表として参列する予定だった。
「ここだ」
現場についた。見晴らしのいい高台。足元は急な崖。
「事故だよ。どれだけ探したって、何にも見つからなった…。じゃあ、僕は先に戻るから。暗くなる前に戻ってね」
「はい。ご案内ありがとうございます」
足元には花束。智良は周囲をじっくりと見回してそっと手を合わせた。