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智良と小さな巫女  作者: めじろ
6/12

狭間村への往路

 バスに乗り駅で降りた。電車が来るまで二十分待つ。ホームには他に誰もいない。


 高崎に狭間村(はざまむら)の位置と交通手段を教えた。


「げっ、そんな遠いの?」


「帰るなら今の内だ」


「行くよ! でも金借りるかも」


「倍にして返せよ」


「ひでえ!」


 少し元気が出た。すべきことが見つかれば、あとは腹をくくるだけでいい。


 智良(ともよし)は聴こえないくらいの小声でつぶやく。


「サンキュな」


「えっ何々? もっかい大きな声でハッキリ言ってみて?」


 意外と耳ざとい。


「うぜえ。今の内に何か飲み物買ってこよう」


「もーう、素直じゃないなー」



 

 電車を乗り換えて近郊で一番大きな駅へ。窓口で切符を買ったら、中年の係員は二人をじろじろと観察した。


「君ら中学生? ずいぶん遠くまで行くね? 親御さんは?」


「親戚を訪ねにいくだけです」


 中年係員は不審感を露わにしながらも、新幹線の切符を手渡した。


「気をつけてね」


 無事新幹線に乗って出発する。


「ヨッシー、鈴奈(すずな)ちゃんのこと、聞いていい?」


「ああ。といっても、詳しいわけじゃない」


 団体の旅行客が大声でしゃべっているおかげで、二人の話し声は誰にも聞こえない。


「鈴奈ちゃんの家って、ヨッシーん家みたいなの?」


「いいや。槙本(まきもと)家はただの農家だ。神職は別にいる」


「あれ? なら、鈴奈ちゃんが跡継ぎじゃないの?」


「あいつの村のシステムは雨島(あめしま)と違っててな。神職とは別に『筆頭巫者(ひっとうふじゃ)』っていう役目があって、村の中で持ち回りしてるんだと」


「じゃあさ、ええと、殺人事件だったとして、鈴奈ちゃんが死んだからって槙本兄妹がその『筆頭巫者』になるわけじゃないじゃん?」


「順番は家単位なんだ。今は槙本家の番」


「ふーん。町内会の班長みたいな?」


智良は記憶の中の鈴奈の言葉に耳を傾ける。


「祭のときに祝詞を唱えたり、神輿で担ぎ上げられたり、村の会合に出たり。でも話し合いには参加しない。あとは神社と御神体の山を掃除するとか言ってたな。毎日のお役目だって」


高崎は首をひねった。


「雑用して座布団に座ってるだけ? ヒットーフジャって、ただのお飾り?」


 智良はしばし頭の中を整理した。


「いや、鈴奈はお飾りじゃない。鈴奈は一流の教育を受けていた。それは間違いない。お飾りに手間ひまかけたりしないだろ」


「んー、よくわからん」


「余所の事情なんてわかんないもんだ」


 鈴奈のような巫女は将来どう生きていくのだろうか。鈴奈は将来、どうなりたかったのだろう。


「立派な巫女になるって、そう言ってた」


 会う度に聞かされた。でも、鈴奈にとって『立派な巫女』はどんな巫女だったんだろう。


「巫女さんって、最終的に主婦になるよな」


 智良は顔を上げて高崎のボケ面を凝視した。高崎も見返した。


「それは置いといて、ヨッシー『筆頭巫者』は今誰なの?」


「まだ連絡はない」


「槙本兄妹のどっちかになるんだよな」


「だろうな」


「ちなみに、なんで鈴奈ちゃんが『筆頭巫者』だったの? 最初から兄貴か姉貴がなってればよかったのに」


「バカ崎のくせに鋭いな」


「褒めてんの?」


「褒めてやってんだよ。そもそもはうちの爺さんが槙本兄妹を連れてきたんだ。一目見て天才だってはっきりわかったんだと。残された鈴奈が『筆頭巫者』をやるしかなかった」


「理事長センセの浮気騒動にたどり着くわけね」


「なさけねえ…」


 智良はうなだれた。


「ヨッシー、言いづらいけど言うよ。ヨッシーのばあちゃんが動機一番強い」


「ああ…。俺もそう思う。鈴奈は、その女に似てるらしいし」


 二人は黙りこんだ。


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