心無い噂
すれ違う生徒たちは智良を見つけると黙ってやり過ごし、ひそひそと噂話を始める。
「槙本の妹、殺されたって」
「何なに?」
「A組の槙本の妹がさ、風濱家の誰かに殺されたんだって」
「うわ、お家騒動ってやつ?」
「なんで風濱家が槙本の妹を殺すの?」
「マジで? イサンソーゾク?」
「誰が殺したの?」
「さあ」
「連続殺人事件の始まり始まり~」
「きゃはは」
恵香の爆弾発言はあっという間に全校に広まって、殺人犯が誰か賭ける者まで出始めた。2‐Aも例外ではない。
「槙本の母親ってさ、理事長の浮気相手の子供なんだって」
「理事長は、風濱よりも槙本兄妹がお気に入りらしいよ」
「あの二人と比べると、風濱ってパッとしないしね」
「誰が見たって、ねえ」
「ねえ」
「じゃあ、腹いせに殺したのかな」
――鈴奈なんかいなければいいのに。
妹の戯言が不意に蘇った。
「槙本の妹って、超能力使えないらしいぜ」
「なら殺すの簡単じゃん」
だん、と机を叩く奴がいた。学級委員の曽根だ。
「止めろよ! 野次馬根性丸出して、恥かしいと思え!」
教室は静かになった。しかし、曽根に向けられたのはしらけた視線。
性悪女子が笑う。
「アンタの方が恥ずかしいし! ぎゃははは!」
「野次馬するしか能のないお子様は幼稚園に帰れ!」
「正義の味方気取りのボクはママのところに帰ったら? ぎゃあっははは!」
智良は立ちあがった。
「曽根、放っておけ」
「けど、智良君」
「余計なお世話だ」
高崎は智良と曽根を見比べておろおろしている。
次の授業はサボリに決定。図書館にでも籠ろうか、修練場を貸し切ろうか。
智良に無視された女子は、気持ち悪い目を恵香に向ける。
「ねえ、槙本さん、妹ちゃんの降霊会しない? 誰に殺されたのか教えてもらおーよ」
恵香は立ちあがった。
「バカじゃないの?」
言葉と視線で思い切り侮蔑して教室を出て行った。智良も教室を出た。高崎がおろおろとついて来た。
「高崎」
「ヨッシー、いいのかよ」
「戻れ。お前まで殺人犯呼ばわりされる」
「事故なんだろ。誰も殺してねえんだろ」
智良は壁を殴った。高崎は息を飲んで黙った。
呼吸が乱れている。落ち着け。俺らしくない。
「修練に集中したい。帰ってくれ」