もう済んだ話
昼休み、智良と高崎は木陰のベンチで昼食を広げた。智良は仕出し弁当並の、高崎は購買のパン、全部で三百円也。
校舎内にはとてもいられなかった。野次馬どもの視線が気になって仕方がない。
高崎は智良の様子をちらちらと伺いながら尋ねる。
「聞きづらいけどさ、すっげえ聞きづらいんだけどさ、聞いていい?」
「槙本兄妹の妹が死んだ。槙本らは家に帰る。俺は確実に風濱家の跡継ぎになれた。以上」
何よりこのタイミング。
もうすぐ例大祭。風濱家は古くから領主として、同時に神主として、雨島神社を中心としたこの土地を支配してきた。今年の例大祭では当主を交代する。現当主の祖父が父に当主の座を譲り、同時に跡継ぎを指名するのだ。
「だから、その、鈴奈ちゃんって子、…殺したって疑ってんのか?」
「実際、喜んでる奴がいる。俺もその一人なわけだ」
高崎は智良をじっと見つめた。
「ヨッシー、休んだの、その子の葬式だったん?」
「ああ」
棺に横たわる白く冷たい鈴奈。今や骨だけになって墓の中。
「実際のとこ、どーなんだ? 本当に、槙本の言うとおり、誰かが殺したのか?」
「事故らしいが…」
鈴奈は朝の散歩を日課にしていた。その道中に崖から転落した。鈴奈は一人だった。昼食に戻ってこないのを心配した母親が人を集めて捜したところ、無残な姿で発見された。
目撃者はいない。
「確かめに行こう」
「あ?」
「ヨッシー、現場を見たのかよ?」
「見ていない」
「行こうぜ。はっきりさせよう」
「何言ってる。お前に関係ないだろ」
「疑われたままでいいのかよ」
「終わったものを引っ搔きまわしたくない」
「終わってねえじゃん! ヨッシー疑われてんだぞ、どーするんだよ?」
「終わったんだ!」
そう、終わったんだ。鈴奈の両親は黙って娘の早すぎる死を受け入れたのだ。誰が納得しなくても、強情なあの伯母が受け入れたものを智良が引っ掻きまわしていい筈がない。
――もうすぐ例大祭です。準備に集中なさい。
母の言う通りだ。今は鈴奈のことで邪魔されたくない。
とても食べる気になれず、智良は弁当をしまって英単語帳を取り出した。