みかん
梅桃さくらの闇の世界に、ようこそ。
ショートホラーの連作、第四回となります。
何回まで行くんでしょう。
「ただいま。」
玄関には宅急便のダンボールがふたつ。
両方とも既に封が開いている。
お取り寄せは母の趣味。
今日は甘いミカンと
水炊きのセットが届いているみたい。
「おかえり~。あ、みかん、食べたわよ。」
「はいはい。」
そんな報告は要らないよ~と苦笑しつつ、
庭を覗く。
庭にも母の痕跡が沢山ついている。
ガーデニング、家庭菜園。
DIY用の工具が入っている物置に、芝刈り機。
ニワトリ小屋とメダカの泳ぐ大きな石の鉢。
ニワトリは夜店で売られていたヒヨコを
可愛かったからと私が買って来たら
母のチェレンジ精神に火が付き、
ヒヨコの成長にいい環境を
あっという間に作り上げ、
ニワトリになるまで
無事成長させてしまったのだ。
最近では流行りの本に影響されて、
「私、マタギになる。」
と言い出し、計り知れない。
夏ミカンの木の根元が掘り返されている。
件のニワトリ、「なつみかん」の仕業。
うちに来た時から、
夏ミカンの木の根元ばかり
せっせとほじくり返していたから、
そんな名前になった。
なっちーとかミーちゃんとかみかんとか、
家族は思い思いに呼んでいる。
「ご飯早く食べちゃって~。」
母の呼ぶ声に慌てて着替えに向かう。
クラブ活動で遅くなった私の分だけ、
食卓に残っていた。
今日の晩御飯は水炊き。
お笑い番組で福岡の芸人さんが
「福岡で一番おいしいお取り寄せ!」
と紹介していたのを、母が見逃さなかったのだ。
でも確かに美味しい。
琥珀色のスープの中に
地鶏の塊が浮いていて、
家庭菜園で収穫された白菜や水菜が
くったりと煮えている。
「おいひいね。」
地鶏を頬張りながら、母に笑いかける。
「でしょ~。今日は全部、母作なんだからね!!」
白菜でしょ~、水菜でしょ~、鶏肉でしょ~
言いながら指を折る母にツッコむ。
「鶏肉は違うじゃん」
すると母がポカンとして言った。
「なんで?」
「え・・・だって、お取り寄せでしょ?
あぁ、注文したからってこと?」
何か嫌な予感がして、
ゴクンと口の中の物を飲み込みながら、
目の端に映るキッチンのカウンターを凝視した。
白い・・・羽?
「なんで、だから言ったじゃない。
みかん、食べたよって。」
みかん、好きです。
掌が黄色になるまで食べます。