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ウィ・ハブ・コントロールG! シーズン1:留学生・アフリカの魔女  作者: フリッカー
ラストフライト:激突! リボンVSゲイザー!
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セクション15:負けた訳

 ファインズ基地は、騒然とした。

 かの留学生がリボンのラプターを破ったという知らせを聞いた生徒達や整備士達が、駐機場(エプロン)へ集まって来たのだ。

 だが彼らの関心は、凱旋して着陸したシャオロンよりも、敗者であるラプターに集まった。

 滑走路へと降り立ったラプターのキャノピー部分が、まるで大出血を起こしたかのごとく赤く染まっていたのを見て、誰もが唖然としたのだ。

 駐機場(エプロン)へ戻って来ると、もっと間近で見ようと生徒達が殺到し始めたが、衛兵達によって食い止められる。

 その光景はまるで、一大事件を起こして逮捕された犯人の周りに集まるマスコミ記者のようであった。

 ラプターから降りたリボンは、乗機が受けたダメージを見ると、乱暴にヘルメットをコンクリートの路面へ叩きつけていた。

 ツルギとストームは、機体から降りると早速リボンの元へと向かった。

 当然ラプターには近づけないので、誰かに読んでもらおうと思ったのだが、偶然にも彼女は自らツルギ達の方向に向かってきた。

 顔をうつむけているせいで、表情はよく見えない。

 だが、その口は悔しそうに歯噛みしているのがわかった。

「リボン!」

 ツルギが声をかけると、リボンが顔を上げた。

 途端、ツルギは一瞬言葉を失った。

 彼女の強気な目からは、僅かだが水玉が溜まっていたから。

「その――大丈夫?」

「大丈夫な訳ないでしょうっ!」

 いつになく激情に任せたわめき声で答え、目を腕で拭くリボン。

「大体何なのあれ? ペイント弾だか何だか知らないけど、そのせいでキャノピー壊れて、与圧できなくなったんだからね! いくらでも文句言いたいわよ!」

 ペイント弾。

 それは、当たると塗料が付く事で命中弾を再現できる弾丸だ。

 ただし、殺傷力がないとはいえ衝撃は相応のものだ。遊戯銃や歩兵戦闘の訓練では今でも使われる事があるが、戦闘機では衝撃で機体の故障に繋がる可能性がある事から、今ではほとんど使われていない。

 ゲイザーはそれを使って、リボンから勝利をもぎ取った。

「うん、それは僕も知らなかった。何か、『敵を騙すにはまず味方から』って事で僕達にも黙ってたみたいだし……」

「あいつらって、あんな卑怯な手も平気で使う奴らだったの? もしかしてあたしを見つけたのも、何かヤオチョウでもしてやったんじゃ――」

「なんだあ? ちょっと不意打ち食らった程度で卑怯だなんてみっともないぜ?」

 そんな時。

 陽気な声と共に、ツルギの背後に人の気配がした。

 サンダーだ。隣にゲイザーもいる。

 勝者の余裕という言葉通りの態度で、得意げに笑っている。

「『戦いは正をもって合し、奇をもって勝つ』って言葉知ってるか? 戦いに勝つには正攻法だけじゃなくて奇策も必要っていう中国の言葉さ。だから、あんたみたいな相手に勝つには相応な不意打ちが必要だって思った訳さ。ちゃんと許可も取ってるし、せめて作戦勝ちって言って欲しいな」

「そんな事どうでもいいわよ! そっちの変な作戦のせいであたしのラプターはちょっと壊れたんだからね! 大体、ラプターをどうやって見つける事ができた訳?」

「何だ? 最強なんだからあたしが勝てなきゃ納得できないって事か?」

「そんな事言ってない!」

 早くも、サンダーとの口喧嘩が始まった。

 そんな時、ゲイザーが表情を一切変えずに割って入ろうとしている。

 口喧嘩を止めるのか、とツルギは思ったが、懐から取り出したものを見て、違うとすぐに気付いた。

 黒く塗られたピストル――92式手槍を、ゲイザーはあろう事かリボンの頭部に当てたのだ。

「え――」

 気付いたリボンの目が、驚きで見開かれた。

「な――」

 ツルギやストームが慌てて動こうとしたのも空しく、ゲイザーは引き金を引いた。

 かちん、という乾いた音が響く。

 一瞬、場が沈黙する。

 弾は放たれず、何も起きていないのだが、彼女の行動には実弾以上の威力があったのかもしれない。

 ゲイザーは、92式手槍をゆっくり下ろすと、

「オ前は、死ンダ」

 リボンを真顔で見つめながら、冷たく言い放った。

「はあ?」

 リボンは、言葉の意図がわからないのか声を裏返す。

 そんな彼女をよそに、ゲイザーは続けた。

「オ前は、最強、ジャナイ。殺す気デ、やってナイ」

「こ、殺す気!? なんでよ!?」

 物騒な言葉に、リボンは何言っているのかわからないという表情をする。

 それは、見ていたツルギとストームも、同じだった。

「軍人、人、殺ス。それ、仕事。オ前、それ、忘れてル。ダカラ、勝てナイ。人殺せナイ兵、三流」

 つい、と右手でリボンを指差しながら、ゲイザーは語る。

 その言葉に、リボンは目に見えて狼狽した。

「じゃあ、あんたは人殺せるって言うの?」

 僅かに震える声で、リボンは言い返す。

「……」

 ゲイザーは答えない。

 そもそも、リボンの問いを理解しているのかどうかさえ、わからない。

 だがその視線は、自分はお前を殺す気でやった、と語っているような気がした。

「死人ニ、口ナシ」

 それだけ言って、ゲイザーは去っていく。

 言いたい事はもう全部言った、と言わんばかりに。

「……だとよ。そんな訳で顔洗って出直してきな、アメリカさん」

 サンダーも、それだけ言い放ってゲイザーの後を追っていく。

 勝利の喜びに浸るようなスキップをしながら。

「ねえツルギ、あれってバズやラームが言ってたのと――」

「ああ、同じだね」

 ストームとツルギは、その姿を見送りながら言葉を交わす。

「もしかしてゲイザー、リボンもバズ達も、殺す気で模擬戦をやってたっていうのか……?」

 だとしたら、なぜ。

 なぜ彼女はそんな事にこだわるのか。

 その推測の答えは、得る事ができない。

 残された3人を、冷たい風が吹き抜けた。


 ラストフライト:終

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