セクション13:反撃開始
『レーダーに機影を探知しました! これは――ラプター!?』
ピース・アイからの新たな報告。
それは、フロスティに追い回され続けているストームとツルギの耳に入る事となった。
『それに、これは――スパーク2です! スパーク2が、ラプターに肉薄して交戦しています!』
「何だって!?」
その状況は、ツルギにとって驚くべきものだった。
ラプターがピース・アイに探知されたというだけでも驚きだが、それにゲイザー機が肉薄しているというのだから。
『おい、どういう事だエリカ! なぜ懐に飛び込ませた!』
さしももフロスティも、困惑した様子で怒鳴り声を上げている。
しかし、リボンからの返事は来ない。
『へへ、やったぜ! オレ達の作戦通りだな!』
途端、空域から離脱しているサンダーの無線が入った。
高揚しているせいもあってか、普段より増して早口になっている。
『囮で気を逸らした隙に回り込んで距離を詰める……ゲイザーちゃんならやってくれると思ったぜ!』
『ちょっとサンダー! まさか、最初から私達を捨て駒にするつもりで――!?』
『そうさ、オレ自身も含めてな。だからちょっと無線封鎖もさせてもらった。でもこれなら無駄死にはならねえだろ?』
彼はそのまま、ミミと会話している。
戦闘機動中のツルギとしては会話に入り込む隙はなかったが、リボンが今ゲイザーと戦っているというのは間違いない。
「ゲイザーが、やってくれたんだね……!」
「ああ、よくわからないけどそうみたいだ」
「じゃ、あたし達も反撃開始だね、ツルギ!」
ストームが、僅かにツルギに振り返る。
ここまで耐え続けてきた反動とばかりに、空色の瞳には強い戦意が宿っている。
理由はともかく、リボンの攻撃を恐れる心配はなくなった。
ならば、彼女の――いや、2人の全力で、追いすがるフロスティを退けるのみだ。
ツルギは、無言でうなずいた。
ここで、わざわざかける言葉はない。
ストームもきっと、その事を理解しているはずだから。
「行くよ! レディ、セット、ゴーッ!」
ストームの合図で、VMAXスイッチが入る。
リミッターが解除されたエンジンは、スロットルを押し込まれた事で急激に出力上昇。
翼をヴェイパーに包みながら、急上昇。そのまま宙返りに入る。
『Over G! Over G!』
ストームお得意のオーバーGがかかっている。
全力で耐えながら、ツルギは後方に目を向ける。
フロスティは困惑しながらも目の前の敵を追うのを忘れず、しっかりとついて来ている。
だがそれは、宙返りの頂点に達するまでだった。
背面になった所で、ウィ・ハブ・コントロール号は一旦くるりと回って水平に戻り、再度宙返りへ突入。
横から見ると、ちょうど軌跡がS字を形作っていた。
『……ちっ!』
さしものタイガーシャークもこれは追う事ができず、宙返り(ループ)から脱落せざるを得なかった。
理由は単純、エンジンパワーが足りないからである。
この機動は、高いエンジンパワーを発揮できるイーグルだからこそできる芸当。
その名は――
「以上、ストーム&ツルギによる『ダブル・インメルマン』でした!」
上手を取ったウィ・ハブ・コントロール号は、降下していくタイガーシャーク目掛けて一直線に急降下。
より高い所から降下する分、その運動エネルギーは遥かに大きい。
姿勢を立て直したばかりのタイガーシャークに、その突撃を回避する術は、もはやなかった。
射撃モードはガンモード。
HUDに映る照準器が、タイガーシャークの背中に重なった瞬間。
「今だっ! 機関砲発射! ばーん!」
トリガーを引くストーム。
見えない弾丸は、ほんの数秒の内にタイガーシャークの背へ容赦なく浴びせられ、
『ブラスト1、敵機撃墜! やりました!』
真横から下へ突き抜けるようにすれ違った直後、撃墜判定が下された。
「やったあっ! あたし達の逆転勝利――痛っ!」
いつものように両手を突き上げようとしたストームは、キャノピーの天辺に拳を思いきりぶつけてしまった。
『くそっ、またしてもやられてしまうとは……!』
一方のフロスティは余程悔しかったのだろうか。だん、と計器を叩く音が聞こえた。
「どう? 少しはあたし達の事、見直した? フロスティ教官?」
ストームがウィ・ハブ・コントロール号を上昇させながら得意げに言うと。
『……認めたくはないが、腕を上げたな。こちらが態勢を乱した隙を突くとは――だがそれは些細な事だ。忘れるな、今回はあのおかしな留学生のおかげで勝てたという事を!』
そう捨て台詞を言い残して、フロスティのタイガーシャークは離脱していった。
「何さ、チームで勝てたって事はいい事じゃない。ねえツルギ?」
それを見送ったストームは、そう感想を残す。
ツルギは思わず、はは、と苦笑してしまっていた。
だが、戦いはまだ終わっていない。
今はまだ、ゲイザーがリボンを戦っているのだ。
「じゃ、早くゲイザーと合流しなきゃ!」
『いいえ、その必要はなさそうです』
そんなストームの提案を、ピース・アイが遮る。
「えっ?」
『なんかもう、向こうは決着ついちゃいそうな感じですから』




