セクション08:7機出撃
フライトに向かう一同は、それぞれの機体に普段通り乗り込み始めた。
コックピットの中で、各々がそれぞれの思いを表情ににじませながらヘルメットを被り、マスクを着ける。
そして間もなく、始動したジェットエンジンの音が駐機場に響き始めた。
「キャノピー・クローズ、ナウ!」
ストームの合図で、ウィ・ハブ・コントロール号と、隣にいるバズ・ラーム機が、揃ってキャノピーを自動で閉めた。
ちょうどその頃、さらに隣のミラージュ2機――ミミとフィンガーのアイスチーム機もエンジン始動用の外部電源が整備員達によって切り離され、コックピット内のミミ達は手を伸ばしてキャノピーを閉めていた。
そして、普段通りゼノビアの指示による『準備体操』が始まった頃、2機のシャオロンもエンジンを始動し始めていた。
ミラージュと同じく、外部電源からの電力供給を受けながらのエンジン始動。
その様子を、メイファンが少し離れた所からじっと見守っていた。
総勢8基のジェットエンジンがハーモニーを奏でる中、各々の機体は各種チェックを行い、離陸の準備を整えた。
ツルギが計器とのにらめっこを終え顔を上げた直後、ふと滑走路から飛び立つ1機の戦闘機が目に入った。
ヘルヴォル社の仮想敵機として馴染み深いのF-5EタイガーⅡに似ているが、エンジンノズルがかなり太い。
「タイガーシャーク……フロスティ教官も今日フライトなのか」
それは、フロスティが乗る試作戦闘機F-20タイガーシャーク。
タイガーⅡの発展型であり、かつてツルギ達も一度戦った事があるが、その機動性は凄まじいものだった事を今でも覚えている。
そんなタイガーシャークが飛ぶ姿を、ツルギは意外にも見る機会が少なかった。
「ゲイザー、調子はどう? 緊張してない?」
ふと、ストームが無線でゲイザーに呼びかけている事に気付いて、ツルギは顔を戻した。
『エ……何?』
ゲイザーは聞き取れていなかったのか、とぼけたような声を出す。
『バカ言うなって! ゲイザーちゃんは緊張なんてしてねーっての! な?』
彼女の代わりに、サンダーが答えたが。
『……モイッカイ』
やはり、聞き取れていなかったようだった。
むむむ、とサンダーは心のもやもやをそのまま言葉にしたような声を出す。
『まあ、それなら大丈夫か――おっと、スパークリーダー了解! ゲイザーちゃん、移動許可出たぜ! 行くぞ! あのアメリカさんに目に物見せてやろうぜ!』
管制塔からの移動許可で気を取り直したサンダーは、ゲイザーに対して軽く右手を振り上げてみせると。
『……オー』
ゲイザーはその意味を理解したのか、同じように右手を軽く振り上げたのだった。
直後、2機のシャオロンが動き出した。
リーダーであるサンダーの機体から、順番に動いて列を作り、滑走を目指していく。
その姿を、メイファンが手を振って見送っている。
『行きますよフィンガー。スルーズ家に栄光あらん事を』
『了解、姫様! スルーズ家に栄光あらん事を!』
その次に、ミミ率いるアイスチームのミラージュが続く。
「ストーム、ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール! それじゃブラスト1、行ってきまーす!」
そして、今度はブラストチーム。
ストーム達のウィ・ハブ・コントロール号を先頭にして、2機のイーグルがミラージュの後に続いた。
別の場所に駐機しているリボンのラプターが滑走路を目指し始めたのは、それから少し後の事であった。
7機の戦闘機は滑走路に到着。
リボンのラプターは海側の滑走路31R、それ以外は内側の滑走路31Lに入る。そのまま離陸許可が出るのを待つ。
「なあ、ストーム」
そんな中、ツルギはストームに呼びかけた。
「何?」
ストームは、くるりと振り返って答える。
「ゲイザーを心配するのはいいけど、もっと危ない事に気を付けるべきだぞ。何をするかわからないんだから」
「わかってる。前もハバネロいっぱいハンバーガーにかけちゃったもんね」
「……いや、そういうのじゃなくて」
まるでゲイザーをお守りする子供のように言うストームに、ツルギは少し呆れてしまった。
彼女は言っていた。ゲイザーは悪い人じゃない気がする、と。
だが理由もなくそう信じる事が、ツルギには少し危うく感じる部分があった。
ドローニンに忠告されてから、尚更。
「あの時の乱闘騒ぎみたいになるかもしれないって事だよ」
ツルギが付け足すと。
「そうなったらそうなったで、止めるから大丈夫」
ストームは、案の定、軽い言葉で受け流してしまった。
「頼むよ……」
ツルギは、はあ、とため息をついてから、そう言った。
自分の心配が、ただの杞憂で終わってくれる事を祈りながら。
離陸許可が出て、ツルギが慌てて返事をしたのは、その直後だった。
アフターバーナーに点火した2機のミラージュが、隊列を組んだまま助走を始め、離陸していく。
それから少し遅れて、ウィ・ハブ・コントロール号も含めた2機のイーグルが同じように離陸を開始。
続いて、ゲイザー達が乗るシャオロン2機が離陸。
3機種の戦闘機は、編隊間の距離を一定に保ちつつ、轟音を残して雲の中へと飛んでいく。
それから少し間を置いて、リボンのラプターもアフターバーナーを点火して素早く離陸していった。




