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ウィ・ハブ・コントロールG! シーズン1:留学生・アフリカの魔女  作者: フリッカー
ラストフライト:激突! リボンVSゲイザー!
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セクション06:時間がかかるだけ

 白い浴室の中は静かだった。

 ふっくらとした白い泡で満たされた浴槽の中で、ドリームキャッチャー以外一糸まとわぬストームとツルギは2人で静かに寄り添っていた。

 普段通り、ツルギの膝の間にストームが座る形で。

 泡に埋もれたストームの裸体を、ツルギは背からそっと抱き締めている。

 こうして互いの肌の感触を全身で感じ取るだけでも、まるで高級なベッドの中にいるかのような幸せな気分になる。

 目を閉じて、しばしその感触を味わっていたツルギは、ふと目を開く。

 すぐ目の前のストームは、泡にまみれた細い両腕を、大きく伸ばしていた。

 そして、ゆっくりと再び泡の中へ沈めると。

「……ねえツルギ。明日のフライトの事だけどさ」

 ツルギに顔を向けないまま口を開いた。

「何?」

「何か、勝ち目がないなんて言われるのって、嫌じゃない?」

 フロスティの言葉か。

 ツルギは、こんな時に彼女が言うのは、意外だと思った。

「本当にあたし達、リボンに勝ち目ないのかな? あんなに目がいいゲイザーがいるなら、勝てそうな気がするんだけど」

 ゲイザーの並外れた視力。

 相手の舵の動きすら見え、それを利用して行動を読む事ができる彼女は、確かに無類の強さを発揮するだろう。

 少なくとも、目視での戦いならば。

「いや、ゲイザーでもリボンには勝てないと思う」

「どうして?」

「考えてもみるんだ。いくら目がいいからって、それで見つけた所でミサイルがロックオンできる訳じゃない。レーダーに映らないラプターを見つけても、攻撃できないんじゃ意味がない。もし格闘戦に持ち込めたら勝てるかもしれないけど、向こうがそれを許してくれるとは思えないし」

「うーん、そっか……」

 ストームは、残念そうに顔をうつむけ、泡まみれの腕を浴槽の外へ投げ出した。

「何か、悔しいよね。勝ち目がないって言われても見返せないなんて……」

 彼女の言葉は、どこか悲しそうだった。

 普段の前向きぶり故に、尚更果たせない事が悔しいのだろう。

 だから、リボンに負けた時もとても悔しがっていた。ツルギにはそれがわかる。

「僕もそう思わない事はないけど、仕方ないよ。僕達にだって、できない事くらいある。でも、それはきっと今だけだよ」

「……今だけ?」

 ストームがようやく、ツルギに振り向く。

「できるようになるまで時間がかかってるだけって事だよ。今はきっと、勉強する時間なんだ。そう考えればいいんじゃないかな?」

「勉強、か……」

「ストームだって、時間はかかったけど僕が教えたから、レポートも書けるようになってきたし、机の上の勉強もよくなってきてる。だから、そう思えるのかな?」

 ツルギは、ストームと過ごした半年の勉強を振り返りながら、言った。

 出会ったころは、ペーパーテストも白紙のまま出したストーム。

 そんな彼女を見かねて、ツルギは勉強を彼女に教えるようになった。

 今日彼女が見せてくれたレポートは、まさにその積み重ねによって得たものと言っていい。

 このように、時間はかかっても地道に積み重ねていく事も、時には必要なのだろう。

 ステルス戦闘機への対抗策は、世界でもまだ研究が始まったばかりだ。

 その答えを自分達が知れるのは、恐らく当分先の話だろう。

 自分達ができる事と言えば、それをすぐに身につけ、使えるようにする準備だけなのだ。

 だから、今は勝てなくても仕方がない。

 少なくともツルギは、そう考えていた。

「じゃあツルギは、いつかリボンに勝てるって思ってるの?」

「何言ってるんだ。あたし達は無敵、怖いものなんてない、って言ってたのは誰だったっけ?」

 ツルギは浴室から投げ出されたストームの手をそっと握った。

 不思議と、いつもより暖かく感じる。包んでいる泡がそうさせているのだろうか。

「僕はあの言葉、今でも信じてるんだぞ」

「……ふふ、そうだったね」

 ツルギに見つめられて一瞬きょとんとしていたストームは、安心したように笑みを浮かべた。

 その顔が愛しくなったからか。

「できると思えば、人は何だってできるんだよ。時間はかかるかもしれないけど」

「そうだね。なんかツルギ、かっこいい」

 そっと、ストームと肩越しに唇を重ね合わせたのだった。


     * * *


 翌日。

 遂に、模擬戦の時がやってきた。

 久々の多機数でのフライトとあって、各種装備の準備をする手にも、自然と力が入った。

 耐Gスーツにライフプリザーバー、そしてヘルメット。

 全てを万全に準備してから、ツルギは更衣室を出た。

「ツルギー!」

 廊下では、案の定ストームが手を振って待っていた。

 バズやラームの姿もある。

「ごめん、遅くなった」

 軽く謝りながら合流した時、ツルギはストーム達の背後に別の人影を見つけた。

 首に巻いた緑のスカーフで、すぐにわかる。ゲイザーだ。

「ゲイザーも来てたのか」

「……ン」

 ツルギと目が合った途端、何か用、と言わんばかりにぼんやりとした声を出すゲイザー。

「よし、これで全員揃ったな。今回はほぼ負け戦だが、悲観せず普段通りに飛ぼうぜ!」

「はい、兄さん」

 バズが気合を入れて宣言し、ラームがうなずく。

 するとゲイザーの前に、ストームが歩み寄る。

「じゃ、今日は、よろしくね!」

 しっかり言葉を区切りながら、挨拶として右手を差し出すストーム。

 だがゲイザーは、しばしその手をじっと見つめた後、一切興味がないかのように何もせず歩き出した。

「えっ、ちょっと!」

 真横を通り過ぎるゲイザーに呼びかけるストーム。

 だが結局、彼女は耳を貸さず、先に外へ出てしまった。

 その後ろ姿を、4人は黙って見送ってしまった後。

「随分と無愛想だな……実は一匹狼タイプだったりするのか?」

「もしかしたら、握手を知らないんじゃ……」

 バズとラームが、そんな推測をしていた。

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