セクション15:ストーム&ツルギVSサンダー
青空の中に、ぽつりと浮かび上がる1つの機影。
それが、向かってきているサンダー機だ。
音速を超える相対速度。
機影はあっという間に大きくなっていき、刹那の内にすれ違う。
それが、模擬戦開始の合図となった。
『遅れながらラウンド1、スタート!』
ピース・アイが高らかに試合開始を告げる。
早速2機は、互いに旋回して背後を探り合う巴戦へと突入。
だがそれは、1分たりとも続かない。
ウィ・ハブ・コントロールは、あっさりとサンダー機の背後を取り、流れを掴む。
『へへっ、しっかりついて来な!』
だが。
それさえも、サンダーは待っていたかのようだった。
サンダー機は、ウィ・ハブ・コントロール号の狙いを定めさせないように、左右への切り返しを繰り返す。
その動きは、暴れ馬のごとく激しい。
さしものストームも、追いかけるのに苦労している様子だ。
「もうっ、何なの、この機動性……!」
「こりゃ、F-16と、いい勝負だ……!」
血が上らない頭で思い起こすのは、かつてファングが操縦していた戦闘機、F-16。
その機体の機動性も相当なものであり、ファング自身の技能も相まって多くの生徒達が苦しめられた。
フォルムも似ている事もあり、自然とその姿がシャオロンと重なる。
だが、相手は教官ではない。
その機動性に飲み込まれさえしなければ、勝機はあるはず。
「降下だ!」
「ウィルコ!」
ツルギの指示で、ストームは追跡を中断し、降下に転じる。
相手の機動に乗せられるのを避けるためだ。
旋回を繰り返して消耗した速度エネルギーを、降下して勢いをつける事で補う。
降下を止めて水平に戻すと、機体は水上機のごとく、雲の海へと着水した。
『どうだ――ん? いない?』
サンダーは、ウィ・ハブ・コントロール号が追いかけていない事に気付いたようだ。
だが動きが緩んだ所を見ると、見失っている様子。
「今だ撃て!」
ツルギの一声で、ストームが顔を上げる。
その視線がサンダー機を捉えたと同時に、ヘルメットのバイザーがミサイルをロックオン。
「ミサイル発射! ばーん!」
ミサイル模擬発射。
見えないミサイルが、サンダー機目掛けて上昇していく。
『な、どこから――!?』
動揺したサンダーの声。
そのせいか、サンダー機は回避運動を一切行わず、見えないミサイルをもろに浴びる事となった。
撃墜を知らせる電子音。
模擬戦は、予想以上に呆気なく終わってしまった。
『ゲームセット! ウィナー、ブラスト1!』
「やったあっ――痛っ! 勝ったーっ!」
ストームは思わず突き上げた拳をキャノピーにぶつけながらも、喜びの声を上げる。
『ちっ、下にいたのか……そうか、ヘッドマウントディスプレイ! スルーズにはそれがあったか……!』
そしてようやく起きた事に気付いて、舌打ちしながらつぶやくサンダー。
『おいおい、あんな大口叩いといてその程度かあ? 話にならねえなあ、サンダーよお?』
そんな彼を、バズが煽ってくる。
バズ・ラーム機は、一連の戦いをより高い高度から見守っていたのだ。
おいバズ、とツルギは注意したが。
『……ふふ、いいさ。オレは別に負けてもいい。オレの敗北を持って作戦を成功とする……』
サンダーは、負け惜しみなのかどうかわからない言葉を、自嘲するように口にした。
ツルギは首を傾げてしまう。
自分の負けで作戦の成功、という言葉の意味を測りかねて。
『後は、頼むぜ、ゲイザーちゃん……!』
最後にそう言い残し、サンダー機が離脱する。
『リョーカイ。げいざー、攻撃開始』
それと入れ替わるように、新たなシャオロンが姿を現す。
ゲイザー機だ。
『よし、俺達の出番だな! 行くぞシルヴィ!』
『はい!』
すぐさま、バズ・ラーム機が迎え撃つ。
赤いバンドが描かれた右翼を翻し、ゲイザー機へと向かっていく。
それを、ウィ・ハブ・コントロール号は距離を取って見守る。
『行けーゲイザーちゃん!』
「サンダー、余計な口出しはしないで」
ツルギは声を上げるサンダーを注意する。
そんな中で。
『ではラウンド2、スタート!』
ピース・アイの言葉を合図にするように、正対した2機はほぼ真横ですれ違う。
直後、バズ・ラーム機は素早く垂直上昇に転じる。
それに合わせるように、ゲイザー機もまた上昇に転じる。
2機は、ほぼ同じ速度で宙返りし、その頂点で再度正対。
『向こうも、上昇してます!』
『そうか、上等だ!』
バズとラームが確認し合う中でも、ゲイザーは黙ったまま。
今度は背面の姿勢で、2機がすれ違う。
バズ・ラーム機は、そのまま宙返りを続行。
降下に転じ、軌跡が大きな弧を描く。
だがその先に、ゲイザー機はいない。
バズ・ラーム機と異なり、宙返りを続行していなかったのだ。
『シルヴィ、どこ行ったかわかるか?』
『……あ、上です!』
ラームに指摘され、頭上を見上げるバズ。
そこにあるのは、かんかんと照りつける太陽。
その光を後光のように受け、急降下してくるのはゲイザー機。
『ソコっ!』
ゲイザーの叫びと共に、まるでトビウオのようにバズ・ラーム機目掛けてダイブした。




