セクション14:30以上歳の差
滑走路の南東側に、4機の戦闘機が2列に並ぶ。
先頭はシャオロン2機、その後ろにイーグル2機という並びだ。
離陸前に最後のチェック。
シャオロンの水平尾翼や舵が、きびきびと動く。
そして、僅かにエンジンをふかすと、しぼんだノズルから、黒煙が一瞬噴き出した。
『おぉ、今日は機体の調子がいいぜ。こりゃいい模擬戦ができそうだなあ。ゲイザーちゃん、そっちはどうだ?』
『ン、何?』
サンダーの呼びかけに、聞いてなかったと言わんばかりの声で答えるゲイザー。
『……まあ、そういうなら大丈夫だな。じゃ、行くぜ! スパークリーダー、離陸だ!』
サンダーが叫んだ直後、サンダー機がブレーキを解除して飛び出した。
再度エンジンが唸りを上げる。
噴き出した黒煙は、すぐにアフターバーナーの炎へと変化し、機体を加速させていく。
『すぱーく2、げいざー、行きマス!』
ゲイザー機も、その後に続く。
陽炎の尾を残しながら、滑走路を疾走。
そして、先に浮かび上がったサンダー機を追いかけ、ゆったりと機首を上げ空へと舞い上がった。
「それじゃブラスト1、レディ、セット、ゴーッ!」
その後に、ツルギらブラストチームのイーグルも離陸開始。
力強く飛び上がった2機のイーグルは、空中で合流した2機のシャオロンを追って、厚い雲の中へと消えて行った。
* * *
照りつける太陽の下で、果てしなく広がる雲海が白く輝く。
それを見下ろしながら、ブラストチームのイーグルは飛行を続ける。
2機のシャオロンの姿はない。
既に模擬戦の位置に着くため、ブラストチームから離れているからだ。
『え? 留学生の教官さんが留学生といちゃいちゃ、って事でしょうか?』
『ああ、そうだよピース・アイちゃん! あいつが50代くらいだとしたら、30以上歳の差があるって事だぜ! こりゃ犯罪の臭いしかしねえよ!』
そんな中でも、バズは陽気にピース・アイと痴話言を交わし合っていた。
『た、確かに……ユーリアちゃんが憧れてる人だって、確か30代くらいだし……』
『だろ? いやー、まさかあいつにあんな趣味があったなんてなー。キスされても平然としてたけどさ、文句言わなかったって事は絶対アレな気質あるって!』
『はは、留学生だけじゃなくて、教官も訳あり物件って事ですか……』
あまりにバカらしく語っているせいか、ピース・アイは若干引き気味だ。
そもそも、こんな話は異性に対してするものではないと、ツルギでもわかる。
異性をナンパしても釣れない理由が、なんとなくわかった気がするツルギであった。
『ゲイザーちゃんも、まさかあんなのがタイプだとは思わなかったなー。一体どういう経緯であんな関係になったのか、気になるもんだな――』
このままだと延々と続けそうだ。
そう判断したツルギは、こほん、と軽く咳払いをしてから、注意する。
「バズ。無駄話はそのくらいにして。もうすぐ模擬戦なんだぞ」
『あ。はいはい、了解しましたよツルギリーダー』
すると、聞いてないような軽い口調こそ気になったものの、バズは話を止めてくれた。
ツルギは、一度バズを試してみようと問いかける。
「確認するけど、模擬戦のルールはわかってるか?」
『ああ、わかってる。単機ずつの一騎打ちでやるんだろ? 向こうはチーム戦に慣れてないって言ったよな、確か?』
バズは、あっさりと答えた。
意外と、隙がない。
普段は陽気でも意外と真面目に勉強している一面が、ツルギは少し悔しくなる。
『にしても、チーム戦なんて空中戦の基本だぜ? それさえできねえなんて、あいつらどういう奴らなんだ?』
『兄さん。シャオロンはまだ新型ですし、数が充分揃ってないんですよ』
バズの疑問に、ラームが説明する。
『にしたって、他の飛行機でやればできる話じゃねえか』
『それに、カイランは燃料の確保にさえ四苦八苦してるんです。複数の機体を一度に飛ばす機会は、限られていると思います』
空軍という組織は、陸軍や海軍と違って、燃料がなければ全く機能しない。
故に、軍事費が限られる発展途上国の空軍は、燃料の調達さえ満足にできず、必然的に規模が小さく、活動も不活発で、ろくに飛行訓練もできない状態になっているものが多い。
それはカイラン空軍も例外ではなく、現在はある程度改善されてきているものの、ケージとの戦争時はほとんど戦力として機能していなかったほどだ。
『なら尚更理解できねえな。ろくに訓練もできないであんな大口叩いたのが――』
「話はそのくらいにしよう、バズ」
ツルギは、そこで話を止めさせた。
計器盤のディスプレイを見つめながら。
「もう片方が来てるぞ。正面から」
『へ!?』
噂をすれば影。
レーダー画面には、接近する1機の機影が捉えられている。
それが、ゲイザーらスパークチームのシャオロンの片方である事は、すぐにわかった。
『はは、何余裕ぶっこいてるんだよあんたら!』
無線に割り込んでくる、早口な声。
それは、高揚したサンダーの声であった。
どうやら向かってきているのは、サンダー機のようだ。
「まずは僕達が行こう。ストーム」
「ウィルコ!」
ツルギは、自分達が応戦する判断をした。
陽気な会話ばかりしていたバズには、少し落ち着かせる時間が必要だと判断したからだ。
「さあ、いざ勝負っ!」
ストームは叫ぶと同時に、スロットルを押し込みアフターバーナー点火。
ウィ・ハブ・コントロール号は、正面に見えてきた小さな点――サンダーのシャオロンに向かって飛び込んでいった。




