セクション12:自信の根拠は
「リボンだって、両足が義足になってもその夢を叶えるためにがんばったから、あれだけ強くなれたんだよ! あたしにはわかる! なら、あたし達にだってできないはずないでしょ!」
ストームの反論に、遂にサンダーは黙り込んでしまう。
重力に縛られた世界なんか捨てて、何が何でも空の世界で一番になってやるって決めた。
ツルギは、リボンがそう語っていた事を思い出す。
ストームはその言葉を聞いていないが、リボンとのやり取りや対決を通じて同じ思いを感じ取っていたのかもしれない。
リボンが、なぜ世界最強のファイターパイロットを目指しているのはかわからない。
だがそれは、紛れもなく彼女の夢だ。
彼女は、実戦経験に裏付けされた訓練だけで、あれほど強くなった訳ではない。抱いた夢を叶えるための努力を、怠らなかったからだ。
彼女自身が最強のパイロットに恥じぬ鍛錬をしてきたと語っていた事からも、わかる。
「あたしはいつか、絶対リボンに勝つ! 今は無理でも、絶対に追いついて見せる! 文句言うなら、そっちがリボンに勝ってから言いなさいよ!」
その主張は、サンダーにとってさらなる追い打ちになる――はずだった。
「ふふ、そうか、そういう事か……!」
だが。
サンダーは、何かを確信したように軽く笑う。
「なら、尚更あいつに勝てねえ道理はねえなあ! 間違いねえ! オレ達ならやれる!」
うつむいたまま、おかしな勝利宣言。
サンダーは、夢を持つ人は勝てない、という理論を未だ曲げていなかった。
「何さ、そっちはリボンに勝てる自信があるって事?」
何がおかしいの、と言わんばかりに問うストーム。
サンダーは、ん、と一瞬間を置いた後。
「オレには無理だが、少なくともゲイザーちゃんなら勝てる」
何の迷いもなく、ゲイザーに視線を向けながら答えた。
当のゲイザーは、何の話かわからないとばかりに、サンダーを見上げるだけ。恐らく、今の話の内容を理解していないのだろう。
「ゲイザーちゃんがあのアメリカさんと1対1の状況に持ち込めれば絶対勝てる。賭けてもいいさ」
「それって、夢がないから?」
「ああそうさ。多分あんたらにだって1対1なら余裕で勝てる」
サンダーは、挑発するように自信満々に答える。
見栄を張っているようには見えない。どうやら、本気で勝てると信じているようだ。
しかしツルギには、どうも実感が湧かない。当の本人が首を傾げている様子だからか。
それはストームも同じだったようで、納得いかないとばかりに問い返していた。
「どうして?」
「明日、確か模擬戦する機会あるよな? それで見せてやるよ。ゲイザーちゃんの本当の力ってのをな。じゃ、オレ達帰るから」
サンダーは明確に答えないまま、用は済んだとばかりにゲイザーの肩を親しげに叩いた。
「さ、帰ろうぜゲイザーちゃん」
ん、とゲイザーはやる気のなさそう声を出す。
そんな彼女に、返事を確かめたサンダーは付け足した。
「ドローニンも呼んでるしな」
「どろーにん……ヴァル?」
途端、ゲイザーの眠そうな目が輝いたように見えた。
その名前を聞き取れただけで全てを理解したかのように、ゲイザーはやや乱暴に席を立つ。
かたん、と椅子が音を立てる。
ゲイザーは、去っていくサンダーに引き寄せられるかのごとく歩き出し。
「ジャアね。アリガト」
軽く挨拶だけして、ストームとツルギの前を去って行った。
* * *
翌日。
空は、蓋をされたかのように厚い雲で覆われている。
ツルギらブラストチームの4人は、これから行うフライトのため、駐機場を移動していた。
「そんな事言ってたのか? あいつが?」
ツルギから昨日の話を聞いたバズは、意外そうに言った。
「舐められたもんだなあ、スルーズも。まあ、そんな事言われても無理ゃないんだけどさ。なんてったってスルーズのすぐ近くに敵国らしい敵国なんてないんだから、本土が戦場になった事は近現代じゃ一度もねえんだよな」
真顔で曇り空を見上げ、バズは冷静に語る。
普段はジョークを言って陽気に振る舞っている彼が、冷静に持論を語るのは珍しい。
「言われてみれば、確かにそうだな……じゃあなんでこんなに装備が充実した軍隊なんかあるんだろうな……?」
「親父が言ってたんだ、軍ってものが生まれたのにはちゃんとした理由があるって。例えば海軍は、交易を脅かす海賊を追い払うために創設されたんだと。スルーズは交易で発展した国だからな、海の守りは特に大事って事さ。最初に航空機を配備したのも海軍だし……まあ、スルーズが植民地を持てるほど発展できたのは、そんな伝統ある『紫艦隊』のおかげって訳さ」
ツルギの疑問に、バズは顔色を変えずに答える。
普段とは全く異なる会話に、ツルギはどうも違和感を覚えてしまう。
きっと、陽気な彼の姿に慣れ過ぎているせいなのだろう。
だが、彼もバカではない。彼は彼なりに、軍の在り方について考えていた事を、ツルギは知っている。
「でも、今は周りに敵なんていない。今のスルーズ軍の存在意義って、何なのかな……」
「別にないなんて事ねえよ。一度も国のために戦ってねえ訳じゃねえし、国際貢献だって立派な存在意義さ。ま、軍がヒマって言うのはいい事さ。気にすんなって」
ようやく普段の陽気さを取り戻したバズは、ツルギの肩を叩く。
相変わらず体格に違わぬ強さなので、少し痛みを感じた。
「それにしても兄さん、ゲイザーがリボンに勝てるなんて言葉、信じられませんね……」
今度はラームが口を開く。
途端、バズは再び真顔になって考え始める。
「そうだな……飛び方見てもあいつ、特段凄く操縦うまそうには見えなかったけどな……ツルギ、お前はどう見えた?」
「いや、僕も同じ」
ツルギはうなずく。
これまでゲイザーの飛び方を見ても、特段普通以上に見える部分はなかった。
恐らく、操縦技術はリボンの方が上だろう。
勝っている所があるとすれば、それは――
「もしかして、あの射撃のうまさで言ってるんじゃないかな?」
車いすを押すストームが、思いついたように声を上げる。
だが、すぐにツルギは指摘する。
「いや、あれだけじゃリボンに勝てる切り札にならない。相手はステルス機なんだぞ? 射撃のうまさなんて役に立たないよ」
「あ、そっか……」
ストームは残念そうにつぶやいた。
確かにゲイザーは、小さな射撃標的に直接命中弾を浴びせるほどの射撃能力を昨日見せてくれた。
だがそれを発揮できるのは、相手に接近して格闘戦に持ち込んだ時だけ。
ステルス戦闘機であるラプターが相手なら、その前に撃墜されるのがオチである。
そもそも現代の戦闘機にとって機関砲は、ミサイルなどが尽きた時に使う、最後の手段。
最初から最後の手段に頼りきりというのも、本末転倒な話である。
ならば、サンダーの自信の根拠は、一体何だったのだろうか。
全ては、これから始まる模擬空中戦でわかる事だ。
「という事は、もっと別の何かを隠し持ってるって事なのかもな……」
「ああ。そういう意味では、気を引き締めて行こう」
バズとツルギは、互いに顔を見合わせる。
それを見ていたストームが、他人事のようにつぶやいた。
「何か、珍しいね。バズが真面目な話するなんて」
すかさず、俺が真面目な話したらダメなのかよ、と反論するバズ。
「まあそうだけどね。でもこう見えてバズの家は、先祖代々からの軍人家系だから」
「えっ、そうだったの!?」
ツルギが言うと、意外とばかりに瞬きするストーム。
そのままラームに視線を向けると、そうだけど、と彼女は一言。
そしてバズは、何だよおかしいか、と不満そうにストームへ問うていた。




