セクション11:三流・二流・一流
5人は、それぞれの機体へと乗り込み始めた。
いつものように、ツルギはストームらの手助けでコックピットの後席へ入れてもらう。
ふと、自機たるウィ・ハブ・コントロール号の向かい側に目を向ける。
リボンが乗るラプターは、ツルギらブラストチームのイーグルとは向かい側に駐機されており、結構離れている。
そこで、リボンがこちらをじっと見ていた事に気付いた。
無理もない。
彼女だって、下半身不随の自分がどうやってコックピットに乗り込むのか気になっていたはずだ。
見て納得したのか、リボンはすぐにラプターのコックピットへと乗り込んでいった。
「じゃ、がんばろうね!」
ストームが、いつものように軽く口付けをしてから、前席へと入る。
その様子は隣の機体に乗り込もうとしていたラームに見られていたが、もういつもの事なので仕方がないと割り切る事にする。
だが。
「あの、兄さん」
「ん、何だ?」
「その、私達も――」
ラームは、既に前席に入っていたバズに不意に顔を近づけた。
僅かに頬を赤らめ、目を閉じながらする様は、明らかにストームの真似事をしようとしているものだった。
「――お、おいっ!」
当然、バズは顔を赤くして、ラームを押し退けた。
「お、お前までストームの真似なんかしなくていいだろっ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
我に返ったラームは、すぐさま謝って後席へと逃げるように乗り込む。
自分達の行動が真似された事を知ったツルギは、少し恥ずかしい思いをする事となった。
駐機場に響き始めるタービン音。
エンジンを始動した2機のイーグルは、ストームの合図でキャノピーを自動で閉め、各種プリタキシーチェックを開始。
一方、向かい側のラプターも、エンジン始動に合わせてキャノピーを自動で閉めた。
そして、メンテナンスのため開けていた胴体のウェポンベイが、ゆっくりと閉じていく。
各翼の舵を動かして動作を確認、準備を整える。
『アリエル1よりファインズ管制塔へ、こちらはいつ頃出られる?』
『現在、アイスチームが移動を開始している。その後だ』
リボンの問いかけに、管制塔は事務的に答える。
見れば、既に滑走路へと動き始めた2機のミラージュと1機のカラコルムがいる。
『さ、ついて来てくださいサンダー』
『姫様の足を引っ張るような事はしちゃダメよ!』
『はいはい』
ミミとそのパートナー、フィンガーに指図されながら、滑走路へと機体を操るサンダー。
その態度はお気楽そうで、聞き方によってはちゃんと指示を聞いていないようにも見える。
『「はい」は1回よ!』
だからか、フィンガーにすぐさま怒られてしまっていた。
そんな様子を見てか、リボンがため息をついたような気がした。
『全く、何なのよあいつ……死にたがってるからあんなへらへらした態度しか取らない訳? 最初から使い捨てられに来るヤツなんて、どこ行っても迷惑だっつーの』
そして吐き捨てた言葉には、ツルギが昼に聞いたばかりの内容が混じっていた。
「リボン、どうしてその事を?」
『いいえ、ちょっと横で聞いちゃっただけよ。あいつ、アフリカのカイラン軍から来たんでしょ? その内聖戦とか言って自爆テロでもするんじゃないかしら。死を崇高なものにしてる時点で、完全にトチ狂ってるわね。これだから金のない三流の軍ってヤツは……』
リボンはどうやら、サンダーの事が気に食わない様子だ。
『あ、ちなみにあんた達スルーズは二流ね』
「え、ちょっと! あたし達が二流ってどういう事?」
付け足したリボンの言葉に、ストームが食ってかかる。
『あら、別にけなすつもりはないわ。あたし達アメリカには届かないけど、いい装備は持ってるし、いい訓練もしてる。だから二流よ』
アメリカが一流という前提があって言ったのか、とツルギは少し突っ込みたくなった。確かに、事実はその通りなのだが。
『そういえばストーム』
「何?」
『あんた、アクロチームのパイロットになるのが夢なんだって?』
ふと、リボンがそんな事を問う。
「うん、そうだよ!」
『あんた、おじさまと同じ事を考えていたのね……』
「え、今なんて言ったの?」
『ううん、何でもないわ。アクロチームのパイロットは、一流のパイロットじゃないとなれないって、当然わかってるわよね?』
「もちろん! だから、今日は負ける気なんてないんだからね!」
『そう。ちなみにあたしも、目標地点は同じ』
リボンは少し間を置いてから、宣言する。
『世界最強のファイターパイロットになるってね。それに恥じない鍛錬はしてきたつもりだから、覚悟しなさい』
「望む所よ!」
ストームも負けじと、宣言する。
『あの2人、何か燃えてるなあ』
『いいライバルになれそうですね』
やりとりを聞いていたバズとラームが、そんな感想を漏らした。
『ブラストチーム、移動を許可する』
そんな時、管制塔から移動の許可が出た。
『さあ、行きましょう。あたしが生きるべき世界へ!』
リボンが叫ぶと、ラプターはそれに呼応するようにエンジン出力を上げ、動き始めた。
「ストーム、ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール! それじゃブラスト1、行ってきまーす!」
そしてブラストチームのイーグルも、その後に続いて滑走路へと向かったのだった。