セクション10:次のフライトはかくれんぼ
午後。
天候は午前と変わりない。
午前中に起きた乱闘騒動の影響は少なく、フライトは予定通り行われる事になった。
「えーと、これからフライトについて説明するわね。これからやるのはステルス性を実感してもらうための――」
「ちょっと待ってリボン。まだバズ達が来てない」
ここは、格納庫前付近の駐機場。
全員揃わない内に説明を始めたリボンを、慌てて止めるツルギ。
ここにいるのは、彼らの他にストームだけ。無論、全員フライトスーツを着て、ヘルメットも用意している。
「えー、面倒臭い。遅れてくる方が悪いんだからいいでしょ?」
「そ、そんな事言わずに」
不快な表情を浮かべるリボンを、何とかなだめる。
確かに、2人は時間になっても来ていないから、説明を聞き逃しても文句は言えない。
「じゃあ、連れてきなさいよ。あんたリーダーなんでしょ?」
「ま、まあ、そうだけど……」
「あっ、来たよ!」
そんな時、ストームが声を上げた。
彼女が指差す先――格納庫の陰から、大柄な少年と華奢な少女が姿を現した。
バズとラームだ。
2人は歩きながら、何やら話をしている。
その視線は、ツルギ達ではなく、海側――駐機場にある巨大な航空機に向けられていた。
「――あのKC-135は、元々スルーズ空軍で使われていた機体なんです」
「え、あの機体がか? どうしてわかるんだ?」
「スルーズ空軍は、KC-135をリース形式で使用していまして、契約満了後はアメリカに返還されたんです。製造番号を見て、あれがその機体の1機だと気付いたんです」
「そっか、借りて一度返したヤツがスルーズにまた帰ってきたって訳か。凄え偶然だなあ」
「でしょう? 私も知った時は驚きました」
2人の会話は、どこか楽しそうだ。
「じゃあ、あの近くに行けば何かいい出会いがあったりして――」
「でも女子学生はいないみたいですよ」
「そ、そんなあ……」
ラームの指摘にうなだれるバズ。
どうやら、時間に遅れている事には気付いていないらしい。
仕方なく、ツルギは声をかける事にした。
「おーいバズ、ラーム! 遅れているぞー!」
「……え? あ、ほんとだ! やばい!」
呼びかけでようやく時計を見た2人は、慌ててツルギ達の元へ歩みを急ぐ。
かくして、ようやくブラストチームの全員が揃った。
「全く、こんな時に遅刻するってどういう神経してるの?」
「悪い悪い。いつもはこんな事しねえんだが……」
頭を掻きながら笑い、謝るバズ。
「面倒な事かけたお詫びに、夜一緒に食事でも――」
「ごめんなさい、あたしそういうのオコトワリしてるの」
そしていつものようにナンパしようとし、あっさりと退けられた。
いつものように耳を引っ張ろうと身構えていたラームも、少し驚いている。
「え、な、なんでだよ!? ツルギとは普通に話してたじゃないか!」
「まあ昔の友達だからね、だから?」
「なら友達の友達繋がりで――」
「なんでそんな関連付けで付き合いしなきゃいけない訳? 誰と付き合おうとあたしの勝手でしょ。友達の友達なんかに興味はないわ」
完全に、リボンの方が上手だった。
言い負かされたバズは、がっくりと肩を落とし、
「すまねえシルヴィ、いつもみたいに俺の耳引っ張ってくれ……」
自虐的に、そんな事を言った。
さすがのラームも、それには戸惑っている。
少し悩んだ末、ラームが口にしたのは、
「……じゃあ、私が代わりに食事に付き合ってあげます」
そんな、優しい言葉だった。
驚いて、バズが顔を上げる。
「え、シルヴィ?」
「耳引っ張りは免除しますから、その代わりに私を食事に連れて行ってください」
「そ、そんなんで、免除してくれるのか?」
「でも、勝手にメニューを変えないでくださいね。私はただの『代わり』なんですから」
戸惑うバズに、ラームは微笑みながらそう言った。
「あの2人、兄妹なの? 全然似てないけど……」
「いや、ラームの方は養子で、血の繋がりがないんだよ」
耳元で疑問をささやくリボンに、ツルギはそう答える。
「あの眼帯の子が……ま、いっか。じゃ、改めて説明するけど、いい?」
リボンが告げると、バズとラームはようやく話を止めた。
「もう二度と説明してやんないから、心して聞いてよね。これからやるのは、ステルス性を実感してもらうための体験フライトよ」
「体験フライトって、どんな事やるの?」
「一言で言えば、かくれんぼ」
「かくれんぼ?」
ストームが、首を傾げた。
「そう。レーダーで私が飛ばすラプターを探してもらうの。だからかくれんぼよ。シンプルでしょ。ミサイルの模擬弾もあるみたいだから、見つけたら撃っちゃっても構わないわ」
「へー、何だか面白そう! やっぱりそっちは、隠れるのに自信があるんだ?」
ストームの問いに、当然よ、と返すリボン。
「言っとくけど、簡単に見つかるつもりはないからね。こっちは実戦と同じ形で飛ばすから。その分見つけたら高評価もらえるらしいから、ま、せいぜいがんばる事ね」
リボンは得意げに、笑みを浮かべて言った。
そんな事はないだろうけど、と言わんばかりに。




