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ウィ・ハブ・コントロールG! シーズン1:留学生・アフリカの魔女  作者: フリッカー
フライト2:史上最強の候補生・リボン!
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セクション09:サンダーの願望

「えっ!? ゲイザーが乱闘騒ぎ!?」

 正午。

 食堂でツルギから話を聞いたメイファンは、驚きのあまり箸を落としてしまった。

 一方サンダーは、食事の手を止めてこそいるが、メイファンほどの驚きは見せていない。

「ああ。歩哨に銃を向けられたのを宣戦布告のサインと受け取ってしまったらしいんだ。しかもピストルまで持ち出して、危うく人を撃つ所だった」

「そ、そんな……どうしてそんな事をしたアル……!?」

「それは、こっちが聞きたいくらいだ。メイファンは何か知ってないのか? ピストル持ってた理由とか」

「ぜ、全然知らないアル! あたしも今初めて聞いたアルよ、ピストル持ってたなんて!」

 メイファンは首を横に振る。

 彼女も、ゲイザーの行動が信じられないらしい。

「そもそも、あんなおとぼけなゲイザーに過激な一面があったなんて想像もつかないアルよ! 何かの手違いじゃないアルよね?」

「……わかった、ありがとう」

 ツルギはそう言ってから、軽く息を吸って残酷じみた事実を告げた。

「ともかく、ゲイザーは今後しばらく顔を出せない。もう出席停止の処分が下されたって話だよ。そもそもあんな事をしたからには、最悪カイランへ送り返される可能性だってある、もうここでは会えないかもしれない」

「嘘……」

 メイファンの顔が青ざめる。

 ゲイザーは今、恐らく牢獄の中。

 あんな騒動を起こしたからには、当然の処分と言える。

 彼女らの留学は、僅か数日で仲間1人を失う事になってしまった。

 有意義な留学生活が砕かれたショックの大きさは、察するに余りある。

 だが。

「ゲイザーちゃんなら心配いらねえよ」

 早口な声が、それを遮った。

 サンダーだ。重大な話の最中だというのに、普段と変わらぬ表情をしている。

「あいつはすぐ戻って来るさ、何事もなかったようにな」

「……どうしてそんな事が言えるんだ?」

 妙に自信ありげな態度が気になり、ツルギは問い掛ける。

「あいつはあんな騒ぎを起こしたくらいでいなくなったりなんかしねえ。あいつは特別だからな。失うには惜しいって奴だよ」

「特別って、どこが特別なんだ?」

「さあな。それはお偉いさんが考えてる事だ」

 サンダーは、大事な部分だけはぐらかして答えない。

 そのまま、彼は続ける。

「にしても、何がピストル持ってるのが信じられない、だ。そんなの当たり前に決まってるだろ。オレ達ゃ未来の軍人なんだからよ」

 ゲイザーがピストルを持っていたのは、普通だと言わんばかりの言葉を。

「ちょっと、それどういう事アル!?」

「まさか、君もピストルを――!?」

「しーっ! 声大きい!」

 驚くメイファンとツルギの声を、サンダーが人差し指を立てて静める。

 そして、2人の頭をテーブルの上に寄せると、小声で話した。

「大きな声では言えねえんだけどよ。普通に持ってるぜオレは」

「な――っ!?」

「だがこの事は秘密にしろって言われてるからさ、オフレコで頼むぜ」

 やんわりと口止めをするサンダー。

 突然告げられた事に整理がつかないからか、ツルギは考えもせずにうなずいていた。

「どういう事アル、サンダー!? カイラン空軍だって、このスルーズ空軍航空学園に習ったシステムを取り入れてるはずアル! そんなのは認められていないはずアルよ!」

 一方、頭を離したメイファンが、信じられないとばかりに問いかける。

 だがサンダーは場違いとばかりに席に座り直すと。

「ま、()()()()そうなんだけどさ」

 しれっと、そんな事を言った。

「オレ達の国はここと違って、戦争やってるんだ。お隣さんがいつ攻めてくるかわからねえ状況。ましてや人なんて消耗品だからな。だから使えるものはできるだけ早く使えるようにしなきゃならねえんだ、どんな手を使ってでもな」

「ちょ、それって――!」

 それは明らかに、世界条約に反するものだった。

 カイランでは、そんな事が平然と行われているというのか。

 ツルギはそれが、信じられなかった。

「ルール守ってりゃいい飯食えるほど、世の中甘くねえんだよ」

 その事実を、平然と受け入れている彼が。

 まるで全てを達観しきったようなその視線に、なぜか反論できない。

「なあに、オレ達はいずれ戦場へ行って敵を殺して死んでくる。それが早いか遅いかの話さ。あんただってそのために軍に入ったんだろ?」

「それは――」

 ツルギは、返答に迷った。

 自分が軍に入った理由は、イーグルに憧れたからだ。

 だが、軍はその感情だけで通じる世界ではない。

 そのくらいの事は、彼も知っている。

 故に、素直に答えられなかった。

「あたしは軍人になるためにここに来たんじゃないよ」

 と。

 話に割り込んで、ストームが現れた。

「あたしには、ここで叶えたい夢があるの。ロイヤルフェニックスのパイロットになって、いーっぱいアクロバットするってね!」

 心底楽しそうに両手を広げて語るストーム。

 もしかして、自分を助けに来てくれたのだろうか。ツルギはふと思った。

「ろいやる、ふぇにっくす? 何だそれ?」

「スルーズ空軍のアクロチームだよ! 知らない?」

「アクロチーム……そっか、ふふっ」

 ストームの言いたい事を理解したのか、サンダーはふと嘲笑の声を出した。

「なんかおかしい?」

「いや、あんた、広報部隊に見事に釣られたんだな」

「つ、釣られた!? あたし、釣られてなんかないし! 自分で決めた事だし!」

 むっ、とストームが顔をしかめる。

 だがサンダーは、そんな彼女を試すように、問いかけた。

「じゃああんた、それになるために戦場に行って死んでも、後悔しないか?」

「し、死ぬ……?」

 その問いには、ストームも目を白黒させてしまった。

「ほらな、意味ねえんだよそんな夢。軍人ってのはお国のために命を捧げる職業だ。だから結局、その夢を叶える前に戦場に行って死ぬのがオチだぞ」

「そ、そんなの、あるかどうかわからないじゃない!」

「そうか? ゼロとは言えねえだろ」

 ストームが珍しく動揺している。

 自分の夢は意味がない、と正面から否定されたからだろうか。

 以前、フロスティに似たような事を言われた時には、このような表情を見せていなかった。

 カイラン情勢が悪化してスルーズ軍が動いていると、ニュースで聞いたせいだろうか。

「軍人には元より夢も希望もねえんだよ。夢なんて事考えるより、自分の命をどう投げ捨てるか考えた方がいいんじゃないのか? 日本にもあるよな。『武士道とは死ぬ事と見つけたり』って言葉がさ?」

 そう問われたツルギは、何も言い返せない。

「ちょっとサンダー、さっきから何か死ぬ死ぬばっかり言ってるアルよ。大丈夫アル?」

 だが、メイファンの指摘はもっともだ。

 サンダーの言葉は悲観的。

 先程から、死に関する言葉ばかりを口にしている。

 なぜそこまで、軍人と死を結び付けるのだろうか。

「いや、オレは至ってまともだぜ」

 しかも、それを笑みながら言っているのだ。

 サンダーの考えは、ポジティブなのかネガティブなのかわからない。

「大体そういうあんたはどうなの? 叶えたい事ってないの?」

「オレか? オレに夢なんてねえ」

 問い返すストームに、あっさり答えるサンダー。

 そして。

「オレは、早く戦場に行って死にてえだけだからな」

 と、とんでもない事を口にした。

 ストームも、ツルギも、メイファンも、その願望に青ざめた。

 先程の疑問の答えは、これ。

 サンダーが抱いていたのは、自分殺しの願望だったのだ。

 しばし、場が沈黙する。

「サンダー! ここにいましたか!」

 それを切り裂いたのは、別の声だった。

 フライトスーツ姿のミミだ。妙に苛立った顔をしている。

「何油を売っているのです! もうフライトの時間ですよ!」

「げっ、やべ、時間忘れてた」

 途端、顔色を変えるサンダー。

 食事をほったらかして席を立ち、慌ててミミの元へ向かう。

「ごめんなさい、つい時間を忘れて――痛っ」

「しっかりしてくださいな! トラブルが起きたとは言っても、予定は変わっていませんからね!」

「はい、そうでした……」

 扇子で頭を叩かれるサンダー。

 謝る態度は普段通りで、先程まで悲観的な事を語っていたようには見えない。

 どうやらフライトを共にするらしいが、ツルギにとっては初耳だった。

「今日、ミミとフライトするのか、サンダー?」

「あ、うん。サンダーは姫様のクラスに編入されたって話アルよ」

 メイファンの説明で、納得した。

 ゲイザーがツルギら4-Aクラスに編入されたように、サンダーはミミの5-Bクラスに編入されたのだ。

「さ、行きますよ!」

「はい。じゃあ、オレはここで」

 サンダーは手短に挨拶を済ませ、食堂を出て行く。

 その後ろ姿を見送りながら、ツルギは再度メイファンに問う。

「な、なあメイファン。サンダーって前からこんな人だったのか?」

「ううん、あたしも初めて知ったアル……」

 どうやらメイファンも、サンダーの願望は初耳だったらしい。

「やれやれ、ミミも大変だろうなあ……」

 ツルギは思った。

 サンダーも、ゲイザーとは別の意味で問題ある相手だと、今知った。

 ミミも、さぞかし苦労している違いない、と。


 一方、隣のテーブルでは、リボンが座って話を盗み聞きしていた事に、ツルギは気付いていなかった。

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