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ウィ・ハブ・コントロールG! シーズン1:留学生・アフリカの魔女  作者: フリッカー
フライト2:史上最強の候補生・リボン!
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セクション05:ステルスとは

「それではこれより、特別授業を開始する」

 青天の空の下。

 駐機場(エプロン)には、ツルギら4-Aクラスの生徒達がフロスティの元に集まっていた。

 少し離れた先には、駐機されているラプターが見える。

「ではエリカ、講師役としてこいつらに説明しろ」

「あい、了解。ああ面倒臭い……」

 いかにもやる気がなさそうにつぶやきつつ、一同の前に出るリボン。

 気怠そうな顔で髪のリボンをいじりながら、説明を始めた。

「じゃあまず、ステルスとはどんな技術なのかについて。レーダーに映りにくくなる技術っていうのはみんな知っていると思うけど。じゃあ、なぜレーダーに映りにくくなるのかについて。まず機体形状が関係しているんだけど、いきなり説明してもわかりにくいと思うから、ここで1つ理科の問題。正面から鏡を見れば、自分の顔が鏡に映るけど、斜めに傾けた鏡を見たら、鏡には何が映るでしょーか?」

「自分の顔は映らない。斜めに向けた側の景色が見えるだけ……」

 いかにもやる気なさそうなリボンの問いかけに、ラームが挙手して答える。

「正解。鏡が斜めに向いていると、鏡に顔は映らないのは当然よね。じゃあ、どうして顔が映らないのか。人はそもそも何によって目から視覚というものを得ているでしょーか?」

「え、光でしょ? 物から反射した光。それくらいはわかるし」

 今度は、ストームが挙手して答えた。

「そう。じゃあ、鏡に顔が映る原理は?」

「んーと、鏡は光を反射するから、反射する先に自分の顔があって――あっ! 斜めに向いたら光は自分の顔に来ないんだ!」

「ご名答。その理屈が、ステルス技術にもそのまま通じる訳」

 少しつまらなさそうに顔をしかめて、フロスティは説明を続ける。

「レーダーってものは、光の代わりに電波で物体を認識するから、物体から反射された電波をキャッチして、初めて物を認識できるの。でも、物体が斜めに向けた鏡のようにあらぬ方向へ電波を反射してしまったら、その物体を認識できなくなる。つまりステルス機というのは、レーダーに対して斜めに向けられた鏡って訳。だから、あんな変わったな形状してるの。これが、『形状制御技術』ってヤツよ」

「へー、わかりやすい」

 リボンの説明に、うなずくストーム。

 面倒臭がってはいるものの、説明自体は悪くないとツルギも思う。

「……とは言っても、飛行機は鏡と違って平面じゃないから、言うほど簡単に形は作れない。空気力学ってものも考えなきゃいけないからね。だから形状制御技術だけじゃ限界があるの。だから、もう1つ使われているモノがあるんだけど――面倒臭い、ガイ」

 リボンは不意に、ツルギを名指しした。

「えっ、僕?」

「光を一番吸収する色って、何だっけー?」

「えっと、それは――」

 答えようとしたが、出てこない。

 普段あまり問われない質問だからか、単なる度忘れか。

「ちょっと、あたしを待たせる気? ぱっと答えてくれないと、こっちが面倒臭くなるじゃない……!」

 髪のリボンをいじるリボンの視線が、痛く感じる。

 何とか答えを絞り出そうとするツルギ。

 悩んだ末、何とか思い出せた。

「そうだ、黒。光が吸収される、黒」

「正解。よかった」

 リボンは、安心した表情を見せた。

「光が吸収されたら、反射しない訳だから真っ暗にしか見えないのは当然よね。その理屈を、ステルスにも適用すればいいのよ。光に対する黒のように、レーダーの電波を吸収する材料を機体の素材に使えば、電波を吸収して反射を減らせるって訳。これを『電波吸収材料』、略してRAM(ラム)って言うの。ステルス機は、形状制御技術とRAMを組み合わせる事で、レーダーに映りにくくしているのよ」

「つまり、ステルス機って言うのは、黒く塗った斜め向きの鏡って事なんだ」

「ちょっと違うと思うけど、大体合ってるかな……」

 ストームの言葉に、補足するツルギ。

「このステルス技術を結集した世界最初の制空戦闘機こそ、F-22ラプターよ。いや、制空戦闘機じゃないか。その実力は、『航空支配戦闘機』の呼び名が一番ふさわしいわね。この言葉考えたメーカーさんは、ほんと天才だと思うわ」

 リボンの視線が、背後のラプターに向けられる。

 離れた所に見えるラプターは、日の光を浴びて堂々と輝いている。

「全ての武装を内装するウェポンベイ、最高性能の電子機器、アフターバーナーなしでの超音速飛行――その全てが、あらゆる敵を先に撃ち落とす――先制発見(ファースト・ルック)先制攻撃(ファースト・シュート)先制撃破(ファースト・キル)を体現するものなのよ!」

 リボンの声が高揚している。

 自身の愛機だけあって、それなりに愛着があるのだろう。

「そんなに凄い戦闘機なら、もっと近くで見せてくれてもいいのになー」

 ふと、ストームがそんな疑問を口にする。

 それを聞いたツルギは、すぐさま口を挟んだ。

「何言ってるんだストーム。あれは軍事機密の塊なんだ。下手に近づくと、あのガードマンに捕まるぞ」

 ステルス機は、形状そのものに軍事機密を大きくはらむ存在。

 歩哨が機体の前で警備に当たっているのは、それ故だ。

 このラプターを運用するのがアメリカだけであり、輸出が一切認められなかったのもそれを裏付けている。

 最近になってようやく他国が手を伸ばせるステルス戦闘機が登場しているものの、やっと量産が始まったばかりであり、世界に広く普及するのはまだまだ先の話だ。

「そっかあ……」

「触らぬ神に祟りなし、だ。近づかない方が――ん?」

 ツルギが言いかけた時、ある事に気付いた。

 ラプターの元へ、制服姿の誰かが向かっている事に。

 風になびく緑のスカーフを首に巻いているのは、1人しかいない。

「ゲイザー!?」

 すぐに自分の周りを確かめる。

 リボンの講義を受けている生徒の中にいるはずの、ゲイザーの姿が見当たらない。

 つまり、ラプターに向かったのは紛れもなくゲイザーという事になる。

「どうしたの?」

「……大変だ!」

 ツルギは、早くも波乱が起きる予感がした。

 彼女の好奇心が、ラプターに向けられていると感じ取って。

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