インフライト1
メイファンは、格納庫で1人ノートパソコンと向き合っていた。
慣れたブラインドタッチで、スムーズにプログラミング言語を入力していく。
しかし、しばらくすると悩んで頭を掻きむしり始め、もう我慢ならないと言わんばかりに席を立つ。
代わって取り出したのは、ソフトヌンチャク。
鬱憤を晴らすかのごとく、メイファンはそれを振り回し始めた。
何度も空気を切り裂き、弧を描き続けるソフトヌンチャク。
次々と繰り出される技は決して乱暴なものではなく、どれも武道として充分すぎるほどの美しさを持っていた。
「作業の調子はどうだ?」
と。
声をかけられ、手を止めるメイファン。
彼女の側には、いつの間にか1人の男の姿があった。
「ドローニンさん」
「その様子だと、うまく行ってないようだな」
「……へへ。全く、その通りアル。『勝は知るべし、なすべからず』って言うアルしね」
進捗状況を隠さずに笑うメイファン。
そして、彼女は再びソフトヌンチャクを振り回し始める。
「でも、あともう一息アル。もう少しすれば、このデータリンクシステムが完成して、スルーズ空軍のリンクシステムとある程度連動できるようになるアルね!」
メイファンは手を止めずに語る。
彼女が使っているノートパソコンは、ある戦闘機と繋がっていた。
未だ使用可能状態にない、カイラン空軍の新型戦闘機。
これが使えるようになって初めて、ゲイザー達は戦闘実習に参加できるようになる。
「そうか……メイファン、1つ聞くが――」
「何アル?」
「君は、自分が『死の商人』になっている自覚はあるのか?」
「まっさかー。技術者にそれを問うなんて、お門違いアルよ」
ドローニンの真剣な問いに、笑って答えるメイファン。
ソフトヌンチャクを振る手は、今だ止まらない。
「あたしは、最先端の技術を極めたいだけアル。だから戦闘機を作るアル。それをどう使うかは、売る人や使う人が決める事アルよ。じっちゃんがいつもそう言ってたアル」
「そんな楽観的な考えが通じるほど、現実は甘くないぞ」
「わかってるつもりアル」
ソフトヌンチャクを振り回して満足したのか、メイファンは再びノートパソコンの前に座る。
ふう、とドローニンのため息が聞こえた直後。
「あんたは子供をあやすのが苦手なのか?」
今度は別の男の声が割り込んできた。
乾いた足音を立てながらやってきたのは、この学園の教官、フロスティである。
彼は、独特の空気を連れてくる。場に現れただけで、空気が凍りつく。
彼の存在に気付いたドローニンの視線が、鋭さを帯びる。
「何の用だ?」
「あんたの教え子、やはり問題がありすぎる。よくあんな教え子をここへ送る気になったな」
「……彼らを教えたのは私ではない。文句ならカイラン空軍にしてくれたまえ」
動じずにそれだけ答えて、背を向けるドローニン。
だが。
「責任転嫁か? とても『グリーンスカーフ』を引き継がせた男とは思えないな」
フロスティのその言葉は無視できず、振り返った。
「なぜあんな、どこの馬の骨とも知らないガキに与えた? 幾多の戦地を駆け抜けた傭兵達の称号を? あんたはもう、戦う気がないんだろう?」
フロスティは容赦なく問いかける。
ドローニンは答えない。
無言で、フロスティの元へ歩き出す。
その隣を通り過ぎようとした時。
「君には、関係のない事だ」
それだけ答えて、フロスティを通り過ぎて行った。
2人の会話を見ていたメイファンは、関わりにならない方がいいとすぐに察し、まるで聞いていなかったように振る舞うべく作業を再開したのだった。




