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セクション15:スタート・アップ

 エンジンスターターが唸り始める。

 ストームは右手の人差し指を軽く回し合図を送ってから、スロットルにあるレバーを指で引く。すると、エンジンスターターが独特の甲高い駆動音を響かせ始め、2つある空気取り入れ口(エア・インテーク)の右側が空気を吸い込み始めた。

 ディスプレイが一斉に起動していくのを、ツルギは確認する。

「さあ、唸れエンジン! 点火(ライト・オフ)!」

 ストームが右スロットルをゆっくりと押し込むと、連動してスターターの駆動音がエンジンタービンの金属音へと切り替わった。ディスプレイでは、右エンジンの回転数を示す数字が30、40、50とカウントアップを始めている。

 そして少し経ち、右の空気取り入れ口(エア・インテーク)がかくん、と下に傾いた。

 エンジンが始動すればマスクから酸素が供給されるようになるので、ストームとツルギは防毒マスクのように無骨な形のマスクを装着する。

「すー、はー。うーん、今日も酸素がおいしい!」

『右エンジン始動、確認! それじゃ、左も行ってみよう!』

「はーい!」

 マスクをつけてすぐ深呼吸するストームに、前脚から外した安全ピンを陽気に掲げてみせるゼノビア。

 今度は左手の人差し指を軽く回し、同じ要領で左エンジン始動。

 その間、ツルギは隣のミラージュに目を向ける。

 ミラージュもまた、外部電源からの電力供給を受け、エンジンに火を入れていた。ミミの作業もまた手際よい。

 そうこうしている内にエンジン始動は終了。ストームが最初に合図してから2分が経った時だった。

「ツルギ、キャノピー閉めるよ!」

「わかった」

「キャノピー・クローズ、ナウ!」

 ストームがキャノピーを閉めるレバーを操作すると、キャノピーが自動で閉まっていく。ロックされた瞬間、がちゃんこ、とストームはつぶやいた。

 同じ頃、ミラージュもキャノピーを閉めた。とは言ってもミラージュのキャノピーは手動式なので、パイロットたるミミ自らが手で閉める。

 これで発進できるかというと、そうではない。

『さ、「準備体操」始めるわよ! まずは操縦系統(フライト・コントロール)の運動から! はい!』

 ゼノビアは1、2、3、4、と体操のようにテンポよく8まで数えながら、人差し指を上下左右に動かし始めた。

 それに合わせて機体の翼にある舵も、ぱたんぱたん、とテンポよく動く。

 航空機の準備体操、プリタキシーチェックの始まりだ。

 航空機は一旦飛び立ってしまうと、何か異常が起きてもすぐに降りる事ができない。故に、機体の各部が実際に問題なく動くかどうか、時間をかけて念入りにチェックするのだ。

 一通り終え、ゼノビアが親指を立てた頃には、時間は既に7分経っていた。

「ブラスト1よりファインズ管制塔(タワー)へ! 準備完了! 移動許可まだー?」

 ストームはいつもと変わらぬ気楽な声で、管制塔からの移動許可を求める。

『待ちなさいストーム! 今回仕切るのは私ですよ!』

 本来の役目を奪われたミミが、声を荒らげている。

 そんな時、ツルギはふと正面にいるカラコルムが目に入った。

 前席にゲイザー、後席にサンダーを乗せたカラコルムもまた、既にエンジン始動を終えている。どうやら離陸するタイミングはほぼ同じようだ。

 この基地からは初めての離陸なはず。少し気を使わないと。

「ツルギ、移動許可出たよ!」

 そう思っている内に、移動許可が出たようだ。

 見れば、ミミが乗るミラージュが、動き始めている。右へ曲がって、ウィ・ハブ・コントロール号の前を通り過ぎようとしている。

『さあ我が娘・息子達よ、思いっきり飛んでおいで!』

「もちろんそのつもりだよ、ママ!」

 通信を切ると、ゼノビアは機体から通信用コードを外した。

 さあ、いよいよ滑走路へ向かう時。

 だが、その前に。

「ストーム、ユー・ハブ・コントロール」

 ツルギは、両手を離して合図する。

 いつも通り、操縦をストームへ預ける意図を示すために。

「アイ・ハブ・コントロール! それじゃブラスト1、行ってきまーす!」

 ストームは、それに元気よく答えた。

 直後、エンジンの回転数が上がり、機体がゆっくりと進み始めた。

 ゼノビアのハンドシグナルに従って、右に曲がる。

 彼女の前を通り過ぎる直前、互いに敬礼を交わす。

 ただストームだけは、相変わらずサムズアップであった。

「いってらっしゃーい! うわったたた!」

 ゼノビアは手を振ってストーム・ツルギ機を見送ろうとしたが、自分に向けられたエンジンノズルから吹き出す熱い排気を浴びると、慌てて背中を向けて屈み込んだ。

 同じ頃、ゲイザーとサンダーが乗るカラコルムも移動を始め、手を振るメイファンに見送られながら滑走路へと向かっていた。


 管制塔からの誘導に従い、内側の滑走路31Lへと入っていく2機。

 ミミのミラージュを先頭とし、ウィ・ハブ・コントロール号がその右後方から追従する位置で停止する。

 ゲイザーらが乗るカラコルムも、それに追随していたが。

『スパーク1は、ブラスト1及びアイス1が離陸するまで待機せよ』

『……?』

『スパーク1、応答せよ』

『……管制塔(たわー)、モイッカイ』

『どうしたスパーク1、無線機の不調か?』

 英語が苦手というゲイザーは、管制官の指示を聞きとるのにも難儀しているようだった。

『いえ、ご心配なく。ゲイザーちゃん、待機しろ、だとよ』

『……リョーカイ。待機、シマス』

 サンダーのフォローで、ゲイザーはようやく納得した様子だ。カラコルムも無事に停止している。

「ゲイザー、大丈夫なのか?」

 その様子を見ていたツルギは、不安になってつぶやいた。

『空の世界じゃ英語は必須だというのに、あれでよく飛べますね……』

「ま、慣れだよ慣れ!」

 それぞれ全く正反対の意見を述べるミミとストーム。

『アイス1、ブラスト1、離陸を許可する』

 そんな時、離陸許可が出た。

 お喋りを止めて、思考をフライトへと切り替える。

『了解。アイス1、離陸します』

 ブレーキが解かれ、スタートダッシュが始まった。

 ミラージュのエンジンノズルが開き、アフターバーナーが赤い火を噴く。

「それじゃブラスト1、レディ、セット、ゴーッ!」

 その後に続いて、ストームもスロットルレバーを押し込んだ。

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