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セクション11:2人の約束

「大丈夫だよ、ツルギなら」

 と。

 ストームの細い腕が、不意にツルギの腕に回された。

 横から抱き着かれる形になり、動揺してしまうツルギ。何の準備もなしに抱き着かれるのは、やはり落ち着かない。

「今日だって、あたしをちゃんと守ってくれたじゃない」

「そんな、それはイベントとは何も関係ないだろう……?」

「でも、生徒1人を守れたっていうのは、副会長として大きな成果だと思うけど?」

 だが、それがストームらしい所であると思うと、どうも憎めない。

「ツルギならできるよ、副会長の仕事。あたし信じてる」

「そうなって欲しいね、リハビリも……」

 とりあえずそう言いながら、目を逸らす。

 こういう時のストームの顔は、どうもまっすぐ見る事ができない。

「そうだ。ツルギさ、歩けるようになったら何がしたい?」

 ふと、ストームがそんな事を聞いてきた。

「歩けるようになったら? いや、いきなりそう言われても――」

「あたしはあるよ、ツルギが歩けるようになったらしたい事」

「……何?」

 ツルギが逸らした目を戻して逆に問い返すと。

「あたしと手繋いでデートする事!」

 ストームは笑みを浮かべ、平然とそんな恥ずかしい事を言った。

「……え?」

「だってあたし達、付き合ってるのに一度もやった事ないじゃない。だからさ、それを目標してみない?」

「……そうだな、そういえばしてないよな」

 普段なら、そんな恥ずかしい事を目標にするな、と言えるだろう。

 だが、抱き着かれて見つめられているという状況のせいなのか、それを言う事ができない。

 至極単純な言葉に、奮い立ってしまった自分が悔しい。

「そうしよう。何だか、がんばれそうな気がする」

「ふふっ。じゃ、約束だよ!」

 ストームは、約束の印とばかりにツルギの唇を奪った。

 普段通りの激しい口付けに、ツルギの心拍数も否応なしに高鳴る。

 色仕掛けの励ましに、あっさり負けてしまった自分がさらに悔しい。

 そのせいか。

 ツルギはストームを抱き寄せ、膝の上へと思いきり倒した。

「……っ!」

 車いすに座りながら、俗に言う『お姫様抱っこ』をしている状態。

 身動きが取れなくなったストームの唇を、お返しとばかりに激しく吸う。

 悔しいけど、やっぱりストームには敵わない。

 そんな事を思いつつ、全てを捨て去りストームへの熱い思いに身を委ねた。

「相変わらずアツアツだねえ、見せつけやがって」

 だが。

 いつの間にかバズがいた事に気付き、我に返って恥ずかしい思いをしたツルギであった。


     * * *


 翌日。

 晴天の空の下、学園の校舎には、2つの国旗か掲げられていた。

 1つは、以前から存在するスルーズ王国の国旗。

 もう1つは、緑地の左上に三日月と星が描かれた、カイラン共和国の国旗。

 異なる国の国旗が揃って掲げられているという、普段軍事基地では滅多に見られない光景。

 それは、この基地にカイラン軍からの留学生を迎え入れた証。

 今日から、留学生が加わった新たな授業が始まるのだ。

「まず、連絡事項だ。本日から、最先端の戦術を学ぶためカイラン空軍の留学生が実習に加わるのは、貴様らも知っての通りだ」

 教壇に立つ教官・フロスティは、そのTACネームに違わぬ冷たい口調で説明する。

 その目付きは相変わらず、生徒達を見下しているように冷たい。

「その留学生だが、うち1人がこの4-Aクラスに編入される事になった」

 だが、彼の発言に教室内の生徒全員がざわつき始めた。

 留学生が来る事自体は、既に学園全体に告知されていたが、どこのクラスに編入されるのかは知らされていなかったのだ。

「編入だって?」

「じゃあ、あのどっちかがこのクラスに来るって事?」

 もちろんそれは、隣同士の席に座るツルギとストームも例外ではない。

「各自、先進国のファイターパイロットを目指す者として、失礼のないように振る舞う事だな。では紹介しよう。入ってこい」

 フロスティの一言を合図に、教室のドアが開いた。

 生徒達の前に、姿を現す留学生。

 首に巻いた緑のスカーフを翻し、てくてくと教壇に上がっていったのは。

「初めマシテ。ワタシ、かいらんクーグンカラ来ましタ。らいら・がるれデス。げいざート呼んでクダサイ」

 相変わらず眠そうな目をしている、ゲイザーだった。

「ええ――!?」

 それが、ツルギにとっては衝撃的だった。

 まさか、先日一悶着を起こしたばかりの彼女がこのクラスに編入されるなんて。

「なぜそこで驚く、ツルギ」

「あっいえ、何でもありません!」

 フロスティの指摘で、思わず声を上げてしまっていた事に気付く。

 少し視線をずらすと、離れた席に座っているラームが、ゲイザーを見て表情を引きつらせているのが見えた。

「彼女は、慣熟飛行を終えたら貴様のブラストチームに合流する事になる」

 さらに、フロスティは付け足す。

 それは、ツルギにとっては更なる追い打ちであったが。

「えっ、じゃああたしフライトリーダーになれるって事!?」

「そうなれるとは言っていないが、経験にはなるだろうな」

「やったあっ!」

 ストームはというと、予期せぬチャンスに喜んでいるようだ。

 フライトリーダーとは、4機までの編隊のリーダーの事。

 これまでの2機編隊から3機に増えるという事は、その分リーダーの負担も増えるという事。それ故に、3機編隊を統率するという事はステップアップのチャンスでもあるという事なのだろう。

「ツルギ。貴様はこの4-Aクラスの委員長として、しっかりこいつのお守りをするんだぞ」

「お、お守りって……」

 厄介事を押しつけるようなフロスティの発言に、思わずそう漏らしてしまったツルギだが。

「ヨロシク、つるぎ」

「ああ、こちらこそ……」

 ゲイザーが表情を一切変えずに挨拶するものだから、自然とこちらも返してしまった。

 胸中にあるのは、不安だけ。

 昨日のような騒動を起こすかもしれない彼女の面倒を、留学の間ずっと見なければならないのだから。

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