セクション09:予期せぬ反撃!?
「……!?」
気付いた時には既に手遅れ。
ゲイザーは呆気なく3人に取り押さえられた。
拾った携帯電話が、軽い音を立てて道路に落ちる。
「やっと捕まえましたよ!」
「もうおとなしくしなさいね!」
「御用だ御用だーっ!」
右腕をミミが、左腕をラームが掴み、残ったストームが羽交い絞め。
これなら、逃げる事はまずできないだろう。
ツルギは安心して、携帯電話を拾いに行ったのも束の間。
「――キイ」
ゲイザーが、ふと何かつぶやいた。
「ん? 何か言いました?」
ミミが問い掛けると。
「ミンナ、胸、大キイ」
ゲイザーはたどたどしい言葉で、とんでもない事を口走った。
彼女の腕や背に、揃って豊満な胸を押しつけられているからだろうか。
「え?」
3人の声が重なった直後。
不意にゲイザーの手が、ミミの胸を鷲掴みにした。
「きゃあああっ!?」
驚いたミミが、右腕を離してしまう。
そして今度は、間髪入れずに左手でラームの胸を鷲掴み。
「ひゃあああっ!?」
ラームも、左腕を離してしまった。
同時に、ようやく状況を理解できたのか、ストームがとっさに離れる。
「な、何をするのですか、無礼者っ!」
「い、いきなり何を……っ!」
顔を真っ赤に染めて、それぞれの胸を両手で覆うミミとラーム。
予期せぬ反撃に、ツルギも一気に顔が熱くなってしまう。
かくしてゲイザーは、一瞬の内に自由の身となってしまった。
「凄イ……何で、あんなニ……?」
掌を見つめて、触った感触を確かめるようにつぶやくゲイザー。
そして顔を上げた彼女の視線は、
「……」
残ったストーム――の豊満な胸に向けられている。
次にストームを狙っているのは、誰の目にも明らかだった。
じりじりと迫ってくるゲイザーを前に、ストームも若干戸惑い気味で後ずさりしている。
まずい。
とっさにツルギは、ストームの下へ急ぐ。
携帯電話を拾うために取り出していたマジックハンドを、急いで伸ばす。
直後、ゲイザーがストームの胸に向け素早く手を伸ばし。
「やめないか! 失礼だぞ君っ!」
間一髪、ツルギがマジックハンドでその首を捕まえ、止めていた。
両手は何度もストームの胸を狙っているが、僅かに届かない。
ツルギが両腕でマジックハンドを握り、辛うじて抑えていたのだ。
かくして、ストームの胸はゲイザーの魔の手から守られた。
そして。
「おのれ……! ならばこちらも宣戦布告するまで……!」
「もう私も、堪忍袋の緒が切れた……!」
再び動けなくなったゲイザーに、怒りに燃えるミミとラームが詰め寄ってきた。
背後に燃え上がる炎が見えそうな、その凄まじい気迫に気付いたゲイザーは、ようやく事態を理解したのか顔色を変える。
嫌な予感がして、ツルギがマジックハンドを離す。
直後。
「覚悟しなさい、この蛮族っ!」
2人が敵を認識した猛獣のごとく、声を揃えてゲイザーに襲いかかった。
もはや身柄確保を通り越して、はしたない乱闘だ。
その様子を、残ったストームがぽかんと眺めている。
「もう、何なんだよこの子は……」
そしてツルギはもはや、頭を抱え込むしかなかった。
なんでこんな傍迷惑な子が留学生になったんだ、と。
* * *
「……つまり、おっぱいが大きい女の子がいっぱいいるなんて信じられなかった、って事アルね?」
メイファンが、刑事のようにその場を往復しつつ要点をまとめた。
やっとの事で身柄を拘束されたゲイザーは、合流したメイファンとサンダーの前に座らされ、メイファンから路上尋問を受けていた。
「まあ、それはわからなくもないアルけどね。欧米人ってスタイルいいし、ゲイザーも胸がそんなだし」
足を止めたメイファンの視線が、ゲイザーのある一点に向けられる。
改めて見てみると、ゲイザーの胸は思いの外平らだった。
「でもね、だからって、あんな事したら、最悪、警察に捕まるアルよ」
「ゴメンナサイ……」
メイファンが聞き取りやすく言うと、ゲイザーは粛々と謝罪する。
さすがに、彼女も悪かったと思っているようだ。
「まあ、わかればよろしいです」
「以下同文」
ミミとラームは口ではそう答えているものの、腕を組んでまだ怒っている様子だ。
この2人、結構根に持ちそうだな、とツルギは少し不安になる。
「で、話を戻すアル。どうして、勝手な行動、したアル?」
メイファンが尋問を続ける。
今度は、この騒動を起こした根本的な理由――なぜ勝手にいなくなったのかについて。
「……ヴァル」
ゲイザーは、一言だけ答えた。
「ヴァル? おっさんの事か?」
サンダーが問うと、こくん、とうなずくゲイザー。
そして、どこか寂しそうにうつむきながら続ける。
「ヴァル、お迎エ、来なカッタ、から――」
「なるほど。つまり、ドローニンさんを、探したかったアルね」
メイファンは納得した様子で確認すると、ゲイザーはうなずいた。
どうやらゲイザーは、人探しをしたかったらしい。
「ドローニンって誰の事?」
「さあ、僕も知らない……」
隣のストームが、ツルギに問うが、答える事ができない。
ヴァル、ドローニン。
同一人物の名前のようだが、ツルギもその名前に聞き覚えがない。名前からしてスラブ系だが、そんな人物が学園にいるなんて事も聞いた事がない。
そんな時。
「君達」
ふと、どこからか太い男の声がした。
「……!」
その声に真っ先に反応したのは、他の誰でもなくゲイザーだった。
見ると、1人の男がこちらに歩いてくる。
「留学生がトラブルを起こしたと聞いて来たが、何があった?」
年齢は50代ほどだろうか。若々しさこそないが、それでも尚かつて一世を風靡したベテラン俳優のように端正な顔立ちと引き締まった体格を保っている。
そして、幾多の修羅場を潜り抜けてきたようなたくましさで、若いツルギから見ても、イケメンだと文句なく言える。
こんな雰囲気の男は初めてだ。
学園の教官だろうか。でもあんな教官に会った事はない。
「あ、ドローニンさん!」
メイファンが、少し驚いた様子で声を上げた。
「え?」
ツルギは驚く。
先程話に出ていた名前と、同じ名前。
という事は、彼こそがゲイザーが探していた人物――?




