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セクション07:メイファンの正体

「ええ――!?」

 驚いたツルギの声が、不意に重なった。

 見れば、いつの間にかバズが隣にいる。

 恐らく、メイファンの後を追ってきたのだろう。

「おい、本当かよ? お前どう見ても中学生だろ?」

「そうアルね、14だから」

「ほんとか? 実は年齢詐称したりしてないよな?」

「年齢詐称って、どういう事アル?」

「俺の知り合いにいるからな、子供みたいに背が低い20代の女が。お前もそうなんじゃないのか?」

「そんな事ないアルよー、あたしは正真正銘のフレッシュローティーンアル! 中国が認めた天才メカニックガールとは、あたしの事アルよっ!」

 質問攻めにするバズに対し、軽いノリで次々と答えるメイファン。

 遂には、持っていたソフトヌンチャクを証拠とばかりに振り回し始めた。

 その形には美しいまでに無駄が少なく、相当な力量の持ち主である事が窺える。

「……そうか、あの子は技術顧問だったのか」

 ツルギは確信した。

 カイランのような発展途上国では、戦闘機のようなメカニックの整備技術が低いため、兵器供給メーカーから民間技術者がやってきてメンテナンスを支援する事は決して珍しい事ではない。場合によっては、パイロットさえ傭兵で賄う事がある。

 そもそも経済力の低さから、自力では戦闘機さえまともに運用できない所が多いのが、途上国の空軍だ。そこに、スルーズのような先進国の常識は通じない。

 これはいい交流になりそうだな、とツルギが思った時。

「またまたー、ほんとに天才かどうか証拠を見てみたいなあ」

「そんなに信じられないなら、受けて立つアルよ!」

 バズとメイファンの会話がヒートアップする。

 この2人、意外と息が合っているように見えるのは気のせいか。

「天才か……メイファンはいいよなあ、それだけでちやほやされるもんな」

 その一方で、見ていたサンダーがそんな事をつぶやく。

 思えば、本来の主役であるはずの留学生。2人を差し置いてメイファンがちやほやされている事に若干不満を抱いている様子だ。

 そんな時、

「何をしているのですか。邪魔をしてはいけません」

 穏やかな声が、ヒートアップした空気を冷却した。

 全員の視線が、歩いてきた人影へと向けられる。

 紫のヘルメットを抱え、腰まで伸びた優美な金髪をなびかせながら、彼女はやってきた。

「今は留学生達をご案内する事が先です。親睦会ならちゃんと行いますから、後にしてくれますか」

 まぶしいほどに整った顔立ちと相まって、緑色のフライトスーツ姿でも隠しきれない美しさ。

 彼女こそ、フローラ・メイ・スルーズ。

 スルーズ王国の王女にして、学園の生徒会長である。

「ミミ」

「オージョ……?」

 ツルギがその名を呼んだと同時に、ゲイザーもなぜか反応した。

「あれが王女様……き、きれい……」

 そしてサンダーはというと、そんな事をつぶやいて見惚れてしまっていた。

「とと、そうだな。すまねえ姫さん」

 さすがのバズも、おとなしく身を引く。

 威圧せず自らの言葉だけで状況を一転できるその力量は、さすが王族と言った所。ツルギも見習いたいと思ってしまう。

「はーい、静まった所で、お荷物渡しますねー」

 そして、カローネが戻ってきた。

 スーツケースを2つ丸ごと頭上に持ち上げて平気な顔をしている。彼女は意外と怪力なのだ。

 留学生2人が、そんなカローネに驚きつつも受け取りに行く。

 その間、ツルギはミミに声をかけた。

「ごめんミミ。助けられちゃったね」

「いいのですよ。副会長になったあなたの初陣なのですから」

「そうか、ありがとう」

「どういたしまして」

 ミミは穏やかな笑みを浮かべて礼を言った。

 とはいえ、ここまで穏やかに礼を言われると、自分が悪く思えてしまう。

「でも、せっかく副会長になったんだし、こっちがミミを助けてあげられないと面目ないというか――」

「まあ、そう言われると嬉しいです」

 と。

 ミミは急に、ツルギの手を取った。

 かたん、と抱えていたヘルメットを落としたのも忘れたように。

「え……」

「ツルギは本当に優しいのですね」

 目と目が合う。

 宝石のようにきれいな碧色の瞳に、自然と見入ってしまう。

 まさか、ミミは。

 わかっているのに、体が動いてくれない。

 そして。

「では、いつかそうなって、私を惚れ直させてくださいね」

 ミミはそっと、唇を重ね合わせた。

 それは、ほんの一瞬だけ。

 普段味わっているストームのものとは真逆に、優しく丁寧な口付けだった。

「期待していますよ」

 唇を離すと、ミミはヘルメットを拾い、どこか軽やかな足取りで去っていく。

 1人取り残されたツルギは、ため息しか出ない。

 見れば、連れ戻しに来たラームにバズが怒られている。今自分はその陰になっていて、ストームには見えていない。完全に不意を突かれた。

 反則だ。

 自分が一番好きなのはストームで、ミミとは友達でいたいだけなのに。

 あんな風に口付けされただけで、何も言い返せなくなる。

 そして、そうなってしまう自分は一体何なのか――

「めいふぁん、ヴァルは?」

「え? 多分、ここには、いないアルよ」

「ソー……」

 その頃。

 スーツケースを受け取ったゲイザーが、メイファンとそんなやり取りを交わしていた。


     * * *


「……で、あんたどうして車いすなのに生徒会副会長なんてやってんだ? それなりの力量はあるって事なんだよな?」

 留学生達を案内している途中、サンダーからそんな質問をされた。

 案の定、来ると思っていた質問だったので、それほど驚きはない。誰だって、パイロット養成学校の生徒に車いすの人間がいたら違和感を覚えるだろう。

「いや、説明すると長くなるんだけど――」

「もしかして、本当は忍者アルか?」

 メイファンの突拍子もない言葉に、ツルギは危うく車いすから転げ落ちそうになった。

「そうか! 日本には今でも忍者がいるのか!」

「そ、それは偏見です。というか僕はスルーズに帰化しているんですけど……」

 外国人にありがちな勘違いを何とか受け流しつつ、案内先へと到着した。

 生徒達の家代わりとなる、学生寮である。

「ここが、学生寮。部屋の番号は事前に伝えてある通りだよ。さ。入って」

「よし、入るぞゲイザーちゃ――って、あれ!?」

 だがそんな時、サンダーが思わぬ事に気付いて声を上げた。

「どうした?」

「いない!? あいつどこ行きやがった!?」

 見ると、ついて来ているはずのゲイザーの姿が、いつの間にか消えている。

「えっ、どうして? まさか、はぐれたのか? じゃあすぐ携帯電話に――」

「そうしたい所だが、あいつケータイなんて持ってねえんだよ!」

 すぐ連絡を取ろうとしたツルギであったが、サンダーの言葉であえなく潰えた。

「ええっ、それなのにどうして――!?」

「もしかして、何か気になるもの見つけて、勝手に行っちゃったアルか……?」

 メイファンが、気になる事を口にする。

「それって、どういう?」

「あの子、好奇心の塊アル。少しでも何かに興味を持ったら、満足するまで帰らないアルよ」

 そう語る彼女の目は、まるで逃げ出した猛獣について語るように、深刻さを帯びていた。

「はあ、あいつはいいよなあ、どんな時も自由気ままで……」

 そして、早くもあきらめがついたように吐き捨てるサンダー。

 つまり。

「……大変だ!」

 ツルギは、一刻も早く行動しなければならないと瞬時に理解した。

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