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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
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蝕天、前日(中編)

 柔らかくふわりと広がる髪。

 きっと、いい匂いで、手触りもとてもいいんだろうなぁ。


 白くすべすべした肌。

 きっと、いい匂いで、手触りもとてもいいんだろうなぁ。


 大きく膨らみ、腕でいやらしくたわんだおっぱい。

 きっと、いい匂いで、手触りもとてもいいんだろうなぁ。


 という風にテルスの背後でナレーションしたら、手に握り締めた矢で刺されかけました。

 お前だって絶対そう思ってるくせに!


 いや、むしろこういう奴の場合は。

『オレの気持ちはお前らとは違う、純情なんだ!』とか思ってそう。


 男なんて皆狼に決まってるだろう!

 という風にテルスに向かって言い放つのは止めておきました。

 かなり目とか殺気がマジだったので。



【ツバサは 気配察知 スキルを得た!】



―――   ―――   ―――   ―――   ―――



「森を守護せし我らがリーファディオルよ、今日の生と糧に感謝を捧げます」

「「感謝を」」


 エルフ3人が感謝を捧げるのを待つ。

 感謝が終われば、即食事。


「いただきます」


 日本人的な習慣で、手を合わせて一礼。

 毎日一緒だったテルスは気にもしないが、オーワンとマーリィさんにはちょっと不思議そうな顔をされた。


「オレの故郷の、食前の挨拶です。

 神様に感謝というよりも、食材や食材を作った人に感謝、って感じですけどね」

「なるほど。

 ツバサくんの世界では、精霊への感謝はしないのかね?」

「うちの世界では、宗教は神様を信仰するものですね。

 その神様も、姿を現したり、直接何かをすることは絶対にないです」


 この世界の信仰は、基本的に種族や属性ごとの大精霊を信仰するものらしい。

 大精霊は、通常の精霊(いるらしい)の祖であり、力ある術師や巫女の魔術により実際に呼び出され信託や力を振るうそうだ。

 実物が出てきて何かをしてくれるなら、宗教ってのも分からなくはない……かな。


「オレ自身は、うちの世界の神様なんてこれっぽっちも信じてませんけどね」

「ふむぅ……」

「精霊様はいらっしゃらないのでしょうか?」


 うなるオーワンの後を継ぎ、マーリィさんが尋ねてくれる。

 あ、テルスがにらんでやがる。分かりやすいな。


「少なくとも、人間が感じたり目で見れる精霊は居ませんよ。

 精霊力ってものもありませんし、魔法だってありません」


 あるのは、そうだな。

 真偽の分からない占い師とか、魔術ではなく技術を用いる手品師とかだね。


「精霊様が居られずに、どのように生活したり魔物から身を守るのでしょう?」

「まず、魔物は居ません。人間の天敵なんて居ないし、普通に生活してる限りは命の危険はそうそうありません」

「まぁ、それは素晴らしいですね!」

「技術が非常に発達していましてね。

 馬より早く走る鉄の箱やら、スイッチ一つで何日も光り続ける明りやら、およそ便利になりたいものは何でも。

 生活の全てはお金さえあれば、大体誰でも便利で安全に得られます」


 そう。大体何でも。


「瞬間移動とか、切れた腕の再生とか、どうにもならないものもたくさんありますけどね」


 それから、一呼吸だけおいて。


「重い、病とか」


 オレは、余計な一言を付け加えた。


「なるほど。安全で素晴らしい世界なのですね」

「ほとんどの事は、この世界の魔法より発達しているということか」


 余計な一言にさしたる興味を見せず、二人は感心してくれる。

 オレ自身、なぜ付け加えたのか分からなかったから良かった。


「そう言えば二人は初対面だったか、今更だがツバサくんに紹介しておこう。

 マーリィ」

「はい、お父様」


……お父様?


「私はマーファリエ、長オーワンの娘でございます。

 どうぞお気軽にマーリィとお呼び下さい」


 座ったままだが、食器を置き柔らかく微笑んで頭を下げるマーリィさん。

 なんと、マーリィさんはこのおもしろおっさんの娘さんか……

 言われてみれば、髪の色とか良く似てる。顔はだいぶ違うと思うけど。


「ツバサ様、この度は天の影討伐へのご参加、ありがとうございます」

「オレ―――私はツバサです。記憶はないのですが、どうやら異界の旅人らしいです。

 御迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」


 相手にあわせ、座ったまま食器を置いて頭を下げる。

 こちらを見て穏やかに微笑むマーリィさん。ああ、綺麗だなぁ……


「それと、こちらで眠っているのが、娘のマユリですわ」


 ま、ゆり……


「可愛らしい赤ちゃんですね」

「ええ、とっても」


 嬉しそうに微笑むと、マーリィさんは軽く赤子の頬を撫でた。

 とても幸せそうな顔。


……聞いていいのかな。聞いていいのかな。

 うん、好奇心って大事。聞いちゃおう。


「失礼ですが、マユリちゃんのお父上は?」


 それでも念のため、マーリィさんではなくオーワンの方に尋ねるオレ。

 すると、オーワンはちょっと困ったような顔をして。


「すまぬが、聞かないでおいてくれ」

「わかりました、すみませんでした」


 あ、訳ありなのね。

 予想はしていたが、やっぱりテルスじゃないらしい。それだけでも良しとしよう。




 と―――

 今までベビーベッドですやすや寝ていたマユリちゃんが、じたばたし始めた。


「ぁー、まー、まー」

「あら、おはようマユリ」


 再び食器を置くと、隣に立ってマユリちゃんを抱き上げるマーリィさん。

 テルスもオーワンも、皆どことなく嬉しそうに2人を見つめている。


「マユリ、お客さんですよ。御挨拶しましょうね?」

「ぉきゃうー?」


 マユリちゃんを抱える体制を変え、顔がオレを向くようにしてくれる。

 と―――


「ぉにーたぁ」

「お?」


 オレに気づいたマユリちゃんが、小さな手をオレの方に伸ばしてくれた。

 間にテルスも居るし届かないんだけど。可愛いなぁ。


「ツバサです、こんにちはマユリちゃん」

「ぉにーたぁ、ぉにーたんー」

「あらあら。

 おじいちゃんさえうまく言えないのに、お兄ちゃんは分かるのかしらね」


 微笑むマーリィさんと。

 どこか、にこやかに殺気を放つほかの男2人。


 あ、あれ?

 オレ、何もしてないよ?


「マーリィ、客人の前だ。

 よその部屋で授乳してきなさい」

「え?」


 あ、あれ。何この空気。


「そうですね。

 ちょっと早いですけれど、起きちゃったのであげてきますね」


 空気の変化に気づかず、綺麗な顔に明るい笑顔を浮かべて頷くマーリィさん。

 ま、待って、置いてかないで!

 オレも連れてって、授乳シーンを見せて、いや参加させて!


「それではツバサ様、こちらで失礼しますね」

「あ、えっと、は、はい。

 ま、またお会いしましょう」

「えぇ、また夕食の時にでも」

「ぉにーたぁ」


 あ、あああ、置いてかないでマーリィさぁぁん!

 微笑むマーリィさんと、こちらに手を伸ばしたままのマユリちゃんに、不安げなまま手を振って。

 最後まで手の伸ばしたりオーワンに向かって手を振り回すマユリちゃんを見送って。


 やがて、2人の姿が部屋から消え、足音も遠ざかったところで。

 オーワンが、次いでテルスが無言で立ち上がった。


「え、えーっと?」

「では特訓だ」

「今日は長と私で揉んでやろう」

「ちょ、あんたら目つき違う!

 ていうかまだ食事中!」


 オレの抗議を無視し、罪人よろしく両腕を掴んで立たせる男2人。




 その日の訓練は、夕方どころか夜遅くまで続き。

 ばったり倒れて気を失うまで、一切の情け容赦なく拷問のように続けられたのだった……




 ツバサ、蝕天(の前)に、死す。


男の嫉妬は怖いもの、祖父の嫉妬は鬼か夜叉。

憎しみを一身に背負いて立つツバサに救いはあるのか?

果たしてツバサはかっこよく活躍できるのか、そもそも生き延びられるのか!?


次回『蝕天、前日(後編)』


―――月はもう、満ちる。


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