剣の重みは命の重み
弓なら、遠くから狙撃できるとか。
槍なら、少し離れて戦えるとか。
棒なら、あまり傷つけないとか。
鞭なら、SMに使えるとか。
斧なら、ダサいとか。
確かに、色々あるんだけどさ。
かっこよく戦う男なら、やっぱり剣だよね!
剣!
勇者と言えば、やっぱり豪華でかっこいい剣!
そんな、二次元のイメージと妄想の姿。
でもここは、妄想ではなく現実の異世界なんだ。
その違い―――あるいは、本質については、よく考えなければならないんだろう。
――― ――― ――― ――― ―――
昼食後、テルスが用意してくれた装備に着替えた。
動きやすい服と革鎧。サイズもばっちりだ。
「あいにくと、ちょうどいい大きさのものが皮鎧しかなくてな。すまん」
「いや、いきなり金属鎧とか身動き取れないだろうし。これでいいって」
テルスもエルフだからか、身に付けているのは皮鎧だ。
緑に塗ってあるのはお約束。
「元の世界での戦闘経験は?」
「全くないぞ。平和ボケの日本人を舐めんなよ!」
「だろうな」
うわ、ちょっとむかつく。
きっと昨日の醜態やらなんやら思い出してるんだろうな。
「使い慣れた武器なども、聞くだけ無駄か?」
「もちろんだ。だけど剣」
「?」
使った経験なんて、高校の時の授業の剣道しかないけど。でも剣。
だってかっこいいじゃないか。
女の子に一番もてそうじゃないか。
「そういうなら剣にしようか。
こいつをとりあえず、好きに振ってみろ」
渡された剣を両手で受け取る。
驚くほど重い―――ということはなかった。
こちとら年季の入ったオタクだ、剣の重さくらい予想済みよ!
鞘に入ったままの鉄らしき剣を、両手で構える。
腕や手首にずしりとくる重みを堪え、両手で振り上げ、振り下ろす。
「……なんか、しっくりこないな」
「好きにやってみればいい」
「んー……」
何がしっくりこないんだろう。
片手……にしたら、振り回すのはちょっと大変。
やっぱり両手で構えて、足を開く。
「あ、そうか。わかった」
右足を前、左足を少し後ろに開き。
振り上げるにあわせて、左・右と足を少し後ろに下げ。
振り下ろすにあわせて、右・左と少し踏み込む。
いわゆる、剣道での竹刀の素振り。
週1回の授業とは言え、高校時代に3年もやってたからな。
嘘です、ごめんなさい。
その後も転がってた木刀で、素振りくらいはちょくちょくやってました。
高校3年間だけじゃないです。
練習試合では毎回瞬殺されてたし剣道としては弱くても、素振りとか体力作りは欠かしてません。
××を守るためには、強くて困ることはなかったからな。
「1,2,3―――」
10本、足運びとともに素振りを終える。
わずかに汗がにじむし、腕も重い。
運動不足だな。最近はずっと怠けてたから。
「思ったよりも、ずっとまともだ。
武器は剣でよさそうだな」
「了解」
構えていた剣を、納めるように下ろし。左手で鞘を持つ。
こんな重たい剣をベルトとかにくくりつけたら、ズボン脱げちゃうよなぁ……
剣を下げるの専用に、ベルトとか必要なんだろうな。
「戦闘訓練において、まず言っておくことがある」
「ほい」
「昨日の火の魔法は、基本的に使うな」
「……木を焼かないため?」
「それもあるが、半分だ。
もう半分は―――」
なんと、蝕天で現れる魔物は、その地を攻めるのに適したものであることが多いらしい。
エルフの住む森を攻めるなら、森での活動に適した魔物や、火の魔物が多い。
もちろん種族は混成、よほど数の少ない集団でない限りは色々出るわけだが。
それでも、たいてい火の魔物が出るとのことだ。
「お前が遭遇したヒグイグマだって、元はいつかの蝕天で現れたものだろう」
「え、そうなの?」
「そうだ。
魔物は、蝕天と迷宮以外で増えることはないと言われている」
迷宮とかあるのか。いつか行くんだろうか。
「魔物の繁殖はないんだな」
「そう言われている」
なるほどね。
つまり、蝕天で魔物を全部倒せれば、一ヶ月は平和になるってことか。
「だからこそ、蝕天での魔物の討伐が重要となるのだ」
「そこで取り逃がすと、世界中に散らばってくってことか」
「ああ。
もっとも、小さい天の影も無数にあるから、殲滅はどうしても無理だがな」
天の影の大きさは、大きいものはお城サイズ、小さいものはお風呂サイズらしい。
語呂は似てるのに、なんという規模の差。
「そんな小さい影じゃ、森の中とかだと分からなそうだよなぁ」
「ああ。
だからこそ見回りが必要だし、集落には必ず屋根のない櫓があるのだ」
なるほどね。
屋根があると、屋根に影が出来ていても分からない。
だから、屋根のない高い場所から、村全体を見下ろしてチェックしなきゃいけないってことだな。
「幸い、今回は村の中に天の影はなかった。そこは安心していい」
「それで、発見された大きい影2ヶ所に出撃するってことだな」
「その通りだ」
簡単な講義を終えると、テルスはオレを連れて村の外へ向かった。
「火以外の魔法は使えるのか?」
「いや、全然分からない」
あの魔法だって、スフィが居たからつかえただけだしな。
―――そういえば、スフィはどうしたんだろう。どこかで元気にしてるのかな。
「なぁテルス」
「なんだ」
「スフィって、ローブ姿で三角帽子の子供、知ってるか?」
「知らないな。村には居ない」
そっか、エルフじゃないのか。
ちょっと気になるんだが……とりあえず、魔物に襲われたりしてないことを祈ろう。
その後、門を出て歩くこと数分。
「次の課題だ。
剣であれを仕留めろ」
「あれ、って……」
テルスが示した先には、うさぎのようないのししのような、よく分からないもこっとした動物が寝ていた。
動物? 魔物? 区別がよく分からないなぁ。
「イサギだ。
肉は食用、毛皮も衣類となる。
魔物ではなく動物だ」
イサギって、名前ひどいなおい!
「その剣で、イサギの命を奪って、肉とするがいい」
「……そういう言い方はないだろ」
思わず、ちょっときつい声が出た。
だってそうだろ?
確かに、食用なのかもしれないし。
もしかしたら、昨夜や今朝の食事に出てたのかもしれないけどさ。
「剣は、相手の命を奪うための道具だ。
今回は食用の肉だし、イサギは寝ていて襲ってきたりしない」
「……」
「だが今後は、魔物を相手取り、あるいは敵対する人間を相手取るのだろう?
命を奪う覚悟がないなら、剣を手にするべきではない」
お前達が戦うことを強要したんだろう―――とは、思わなかった。
なるほど。確かに、こいつは武器だ。
立派な刃物で、当たれば血が出るし、ぶったぎれば人が死ぬ。
命を奪えるんだ。
「剣の重みは命の重みだ。
掛け出しの時に感じた重みを、力を付け、熟達する程に軽くなり薄れて忘れていく」
「命の重み―――か」
伸ばされた、手。
最後の笑顔。
命。
―――その、終わり。
オレは、ゆっくりと鞘から剣を抜くと。
イサギに歩み寄り、両手で剣を振り下ろした。
鳴き声一つなく、イサギの首が斬られ、血が飛んだ。
「これでいいか?」
言いながら振り返ったオレが見たのは、驚いた顔のテルス。
そんなに意外そうな顔するなよな。お前がやらせたんだし。
「―――驚いた。
どうやら不要だったようだな、すまん」
「いや、必要だったよ」
そう、必要だったんだろう。
命を奪うことに、向き合うということが。
それでも。
「オレには、望みがあって、目的があるんだ。
それを守るためには、戦わなければならないということを、思い出した」
そう、思い出した。
何も忘れてたんじゃない、オレの忘れていることは全てオレの中にある。
思い出せないだけで、忘れてなんかいない。
もちろん、人の命を奪うことは抵抗あるし。
そのときになったら、躊躇ったり手が震えたり、怖くなったりするのかもしれないけどね。
そんなことを、苦笑まじりで付け加えた。
「そうか。
分かった。ならば、実際の戦いに向けて訓練をしよう」
「頼む。強くなりたいんだ、と思う」
オレの望みのために。
それから、少しだけ、女の子とかハーレムとかそういう願望と性欲のために!
訓練は、おそらくそれから3時間ぐらい続いたんじゃないだろうか。
練習用の刃のない鉄剣で、ひたすらテルスと打ち合う。
いや、テルスにひたすら打ちのめされる。
それでも日が暮れる頃には、身体の動かし方や間合いの取り方がなんとなく感じられて。
もともと鍛えてあった身体や体力のおかげもあり、いい先生のおかげもあり。
テルスが終了を告げるまでの間に、オレは一回だけ、武器をかすらせることができたのだった。
オツムは弱いが身体は強い、鍛えた体は裏切らない。
ハーレム一直線のはずが、訓練に加えて真面目な顔までしちゃうツバサ。
このまま硬派路線を貫くのか、R15設定は取り消した方がいいのか!?
次回『蝕天、前日』
―――緩やかに螺旋を描いて。月は、天へと登る。
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女っ気がないよ!
どうしよう。
これ、予定とか色々かえて、もうちょい早く女の子出した方がいいですかね……?
ご意見募集。
というか、感想とか評価とか、いつでも大歓迎。たまには反応とか欲しいんです!
もういっそ、某タコ四兄弟みたいに、毎回締めは「おたよりまってまーす」とかにしちゃおうか。