うさみみはおののいた
「はぁぁ……久しぶりの布団だぁ」
至福のため息を漏らしつつ、大きく身体を伸ばす。
両手両足を伸ばして大の字になっても、ベッドからはみ出すことはない。
元の世界で言うところの、ダブルベッドよりさらに上というやつだろう。
ツバサにはあまり関係ないが、縦の長さも日本のベッドの1.5倍くらいあった。
このぐらい長身の種族もいるということなのかもしれない。
そんな些細な点にも、異世界なんだなぁなどと感じていた。
ちなみに昨夜も布団であったが、色々あったので昨夜は存在しなかったことになっている。
「気を抜いたら、一瞬で寝れそうだな」
食事に入浴も済ませ、各自与えられた部屋へ案内された。
昨夜のようにスフィが居るなどということもなく、安心の一人部屋だ。
……残念がったりはしていない。もちろんしていない。
「さて、っと」
反動をつけ、起き上がる。
部屋は広く、天井も高く、窓は大きく。
控えめな華やかさで調度品が飾られ、質素ながら美しい明かりが灯されている。
高級ホテルとかこんな感じなんだろうかと思ったが、もちろん泊まったことがないため比較もできない。
置いてあった荷物から鞘に入った剣を取り、消し方の分からない明かりに覆いを被せてバルコニーに出る。
一番大きな燭台の明かりが覆われたため、室内は薄暗く。バルコニーには、柔らかい闇が満ちていた。
「おぉ……すごいな」
眼下には、スェンディの街並み。
闇の中にも一定の感覚ごとに常夜灯が着けられ、また都市を区切る内壁と仕切り壁にも弱い明かりが灯っている。
さながら魔法陣の如く、弱くぼんやりとした輝きを見せる街の姿。
明るさや華やかさには劣るものの、幻想的なその光景は初めて見るツバサを感動させた。
「……」
一転、空を見上げれば無数の星々。
見たこともない星座が煌めき、都会では見られなかった鮮やかな星空が広がっている。
こちらも明るさや華やかさ、色彩には欠けるものの。月が細いせいもあるのか、言葉を失うほどの美しさであった。
ひとしきり、星に見とれ。
胸いっぱいに夜気を吸い込む。
「さて、それじゃぁやるか」
左手に持っていた剣を、鞘ごと右手で抜き放ち。
両手で、構える。
十分な空間を持つ、バルコニー。
明かりもない暗闇で、構えた剣を振り上げ、振り下ろす。
足を動かさず、その場での素振りを百。
足運びを加えて、百。
これを2セット、ただ愚直に振り上げて振り下ろす。
明かりも見る者もない、闇の中。
城壁に掲げられた外灯と、室内から漏れるわずかな光の中。
視覚や聴覚への意識も落とし、ただ一心に剣を振るう。
素振り自体はシンプルなものであるが、これまで毎日―――
スフィ事件のあった昨日以外は、蝕天での枯渇から回復以後、毎日続けてきたことだ。
無心で素振りをするツバサ。
部屋の主はバルコニーのため、無人の室内に。
音は響かない。
室内からは聞こえない、廊下での話し声。
脅すような強い声。
怯えるような弱い声。
物音。息遣い。困惑、あるいは懇願。
すぐにそれらは止み、一拍の静寂。そして。
小さく、本当に小さく、ノックの音が響いた。
まるで、中の人間が寝ていないことを確認するかのように。
か細い音を立てて叩かれた扉。
数秒の時を置き。今度は音も立てずに。
ゆっくり、小さく、扉は開かれた。
最初に室内に入ってきたのは、長い何かが2本。
伺うようにひょこひょこ動くと、さらに室内に入り込み。
頭に長い耳を生やした人影は、静かに扉を閉めた。
「……?」
薄暗い室内を、足音を立てないように進む。
室内に人の気配はない。
ベッドの傍らまで来るが、誰も寝ていない。
おかしい。部屋の主はどこへ行ったのだろう?
あのいじわるな先輩の話では、部屋に居るということだったのに。また騙されたのだろうか?
「……」
騙されたのだとしたら―――この部屋には、誰も居ない。
聞くことは出来ないが、調べることならできる。
いや、人を相手に質問しなければいけないより、よっぽどやりやすいんじゃないだろうか。
「……」
気持ち、息を潜め、足音を立てぬように。
部屋の片隅に置かれていた荷物の前に、腰を下ろす。
旅人にしては大きな荷物。それと、盾と鎧。
装備品をそっと避け、大きな荷物を引っ張り出し。口を開けて中身を慎重に床に並べる。
毛布。
非常食。
大量の布類。
大人用の衣類。
子供用の衣類。
その他、細々したもの。
そして。
「ふ、わぁ……」
荷物の底の方に、布に包まれて入っていたのは、
子供の頭くらいある、巨大な魔物の核―――魔石であった。
戦闘後に蝕天の主から回収したものを、オーワンに無理やり持たされたのだ。
それにしても、見事なものだった。
戦闘による傷や痛みもなく、消耗や翳りもなく。
暗い室内でも分かるほど、深く澄んだ赤い魔石。
思わず布越しに両手で掲げ持ち、顔の高さまで持ち上げてうっとりと―――
「誰だ!」
人影、侵入者に掛けられる誰何の声。
びくん、と身体を振るわせて、魔石を持ったままおそるおそる振り返ると。
おそらく部屋の主であろう、見知らぬ人間が。
自分に向かって、剣を突きつけていた。
突然で、本当に唐突ですが。
残りはダイジェストにして、打ち切りでエンディングにしようと、考えてございます。
そういう予定ですので次回予告はございません。
まだかなり悩んでいるため、次回も間が空いてしまうかもしれません。
申し訳ございません。
しばらく離れてみて、自分の中でまとまれば、丸ごと書き直しで続けるかもしれませんが。
いずれにせよ、今後どうするかは未定のため、少し悩ませて下さい。
楽しみにして下さっている方には、本当に申し訳ございません。
できるだけ、近いうちに結論を出したいと思っております。




