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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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長耳は求婚された

 一番印象的なところがどこかを問われれば、大半の人がその目を挙げるだろう。


 とは言っても、それなりに美しい、黒みがかった青い瞳……ということではない。

 細くて目つきが悪く、落ち着きなく視線が彷徨う、そのさまが目に付くのだ。


 外見については、一応偉丈夫と呼んで差し支えない程度。

 筋骨隆々とまではいかないが、身体も大きくそれなりに逞しい。

 だからこそ、目元の―――

 はっきり言うなれば、目元の小物さが余計に目立っていた。



 とまぁ、城に勤める者の大半が、そういう印象を持っているのであるが。

 今日が初対面であるツバサ達にとっては、その印象はまるっきり違っていた。


 頭の上の王冠は、斜めにずれ。

 地に両膝をつき、大きな身体を丸め込み。

 かっと見開かれた目に、らんらんとした輝きを宿し。

 マーリィの白く美しい手を、両手でがっちりと包み込むように掴み。


「余の側室となってくれ!」


 ぶちゅぅぅぅ、と。

 嫌な感じの音がする程、強く見苦しくその手に口付けた。




「ひっ、いやぁぁっ!」


 鳥肌が立つ、なんて表現では生易しい。

 がっちりと掴まれていた手が、生ぬるく嫌な感じに包まれ。

 生理的嫌悪に突き動かされて、マーリィの右足が振り抜かれた。


 狙いたがわず、自分の手におぞましいことをした王冠男へんたいを撃ちぬこうとした足は。

 しかし、運が悪いことに自分を助けようと間に入ってきたツバサに阻まれ―――


「ぶぐはっ」


 ちょうど王冠男の両腕を掴んだツバサの脇腹を、やや後ろから全力で撃ちぬいた。


「おにぃちゃん!」


 掴んだ両腕を離さず、王冠男を引きはがしつつ突き飛ばして倒れるツバサ。

 ツバサに腕を引っ張られて引きはがされ、さらに突き飛ばされる王冠男。

 王冠男に引っ張られて体勢を崩すマーリィ。


 三者三様に体勢を崩す中、我に返ったネルが突き飛ばされて倒れそうになる王冠男を支え。

 手を引っ張られたマーリィは、目の前のツバサに向けて倒れ込み。

 間に居たツバサは、王冠男の立っていた場所に倒れつつ


(危ない!)


 自分の背中に向かって倒れ込むマーリィの姿が、なぜか背中を向けていたツバサに分かって。

 咄嗟に身体を捻り、倒れるマーリィを抱き留めようと―――




 どさどさと人の倒れる音が立った。


 しかし埃が舞い上がることはない。さすがは掃除の行き届いた王城。

 正確には、王城に掃除を行き届かせたメイド達を褒めるべきであろう。さすがはメイド。


 いや、違う。メイドさんは、今はいいんだ。

 今見るべきは床ではなく、埃でもなく、メイドさんでもなく。

 確かに地面付近から見上げているために、今もし近くをメイドさんが通ったらとか、ネルがスカートだったならとか、そういうのはいいんだ。


 今見るべきは、目の前のマーリィ。

 いや、近すぎて柔らかそうなふわふわのポニーテールしか見えないんだけれど。見るべきはマーリィじゃないかな。

 少なくとも、斜め上にいるっぽい王冠男とか、足元の方でわなわな震えてる由梨じゃないはずだ。


 ああ、そもそも違うか。今は、何かを見るべきじゃないんだ。

 目を閉じるのがマナーなんだよな、こういうときは。


 目の前、触れ合う程―――というか、触れ合ってる、目の前。

 まったく下心なく、ただ危ないと、助けようと伸ばした手で抱き留めた、マーリィ。


 位置関係がずれて居たため、惜しくも唇―――とはいかなかったが。


「お、おにぃちゃん、しぬの!」

「ひ、ひやぁぁ!」

「あらまぁ」


 エルフの母娘の絶叫いかり絶叫こんわくを聞きながら。その他の誰かの呟きを聞きながら。

 マーリィの額に唇で触れたツバサは、とりあえず瞼を閉じた。




―――色々ありました。


 真っ赤になった美女マーリィが『ばか……』と呟きながら目を逸らしつつも手を引いて助け起こしたり。

 真っ赤になった幼女ユリが『おにぃちゃんしぬの、おにぃちゃんころして、おにぃちゃんもしぬの!』とぺちぺち叩きながら叫んだり。

 真っ赤になった王冠男が『余の側室に、おのれぇぇぇ』と叫びながら兵士の剣を抜こうとして取り押さえられたり。


 色々あって、時間も過ぎて、だいぶ遅くなり空は暗くなって。

 月は細く細く。日本風に言うならば、暁月とも呼ぶべき下弦の月。

 一ヶ月の終わりまで間もなく、月光は弱く暗い夜であった。



 そういうわけで、色々あったが、仕切り直し。

 一同は改めて、先ほどの部屋―――先ほどは入れなかった、両開きの扉の向こうの部屋に集っていた。


 王冠男は偉そうに椅子に腰掛けている。そのすぐ横の椅子に、にこにこした美女が同じく腰掛ける。

 座った二人より少しだけ手前に、おそらくは儀礼用の鎧姿のネルが立ち。

 さらにそのネルより前、階段状の段差の下に宮廷魔術師であるシードと偉そうな騎士が立っていた。


 彼らの前方には、まず絨毯に膝をついたマーリィが居る。

 その斜め後ろに、ツバサとスフィがそれぞれ同じ体勢で控え。

 由梨はツバサの隣に同じ姿勢で座ったまま、ばれないようにツバサの腹を抓り続けていた。

 地味に痛い。


不帰かえらずの森より参った、エルフのマーリィ殿とその御一行でございます」

「うむ」


 シードの紹介に、王冠男が頷く。


「隣は妻のレヴァーナ。

 余はダガード。

 よくぞ我らがスェンディに参られた」

「ようこそお越し下さいました」


 王冠男改め、ダガード。その妻レヴァーナ。

 おそらくはスェンディ王家に属する二人が、そろって頭を下げた。

 あわせて、ネルとシード、室内の騎士達が一斉に頭を下げる。


「マーファリエと申します。マーリィとお呼び下さい。

 後ろに控えるのはツバサとスフィ。幼子が―――」


 由梨に目をやり、ほんの一瞬だけ目を伏せて


「私の娘のマユリエラでございます」

「む、むすめだと……」


 思わず立ち上がると、よろけるように一歩踏み出し。

 愕然とした表情で手を伸ばすダガード。


「で、では後ろの人間が」

「あなた、どうなさいました?」

「ぃ、いや、なんでもない」


 妻の言葉に、己の格好や場の状況に気づいたのだろう。

 ツバサを、一瞥して。憎々しげに顔を歪め、一つ舌打ちをすると席に戻った。


「伺いたい話も色々おありかと存じます。

 しかし時刻もだいぶ遅くなってございます」


 席に戻ったダガードを見て、控えめにネルが口を挟む。


「そうだな。ならば―――」

「はい。

 今宵は、不帰の森の客人を招いて、ともに夕食などいかがでしょうか」

「む、夕食か」


 いや、そんなことよりも余は個人的に―――とか言いたくなるのを、ぐっと飲み込む。


 まだだ。まずは、見極めねばなるまい。

 なぁに、手の届く場所にエルフがいるのだ。

 そして自分は、ありとあらゆるものを概ね持っている。

 失敗はあるまい。拒まれることなどあるまい。

 いざとなればなんとしてでも―――そのためにも、まずは情報を得なければなるまいて。

 それに、度量が大きく、なんでも出来るところも見せねばなるまい

 なんせ余はこの城の王のようなものなのだ。


「いかがでしょうか、父上」

「その通りだな。

 彼女らは150年来の我が国の友人である、失礼のなきよう最大限のもてなしを!」


王冠男の暴走が招いた、ツバサとマーリィの触れ合い。

羞恥?と怒り?で真っ赤な一同に囲まれて、ツバサの明日はどこへ行く。


次回『エルフはもてなされた』


―――今、男の器が試される



          □ □ □ □ 



お、も、て、な、し。


「おもてなし!」


ってやろうかと思ったけど自重した。


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