表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
57/62

都市は備えられた

「そういえばスェンディの町って、壁がいっぱいあるんだな」


 今度はネルとシードに連れられて、城内を歩く。

 相変わらずすれ違う兵士の視線を流しつつ、ツバサがネルに尋ねた。


「一般的な都市の作りだと聞いているが、ツバサは知らないのか?」

「ああ、記憶にないんだよ。

 なんであんなに壁が多いんだ?」


 スェンディの王城は、三重の壁に守られている。


 最初に馬車から見えた外壁が、都市としての領土の外周。

 基本的には畑や牧場地などの住居以外が占める、生産区となる。


 次の内壁から内側が、居住区。

 市民、貴族を問わず住居が立ち並び、また商店や施設なども全てここに含まれる。


 最も内側が、言わずと知れた王城。

 細く非常に高い尖塔を有する、石造りのこじんまりとした城であった。


 また、生産区も居住区も、ある程度先には都市を分断する壁があるのが見えていた。

 外壁と内壁、および内壁と城壁の間にも、それぞれ仕切り壁と呼ばれる壁が一枚ある。

 そういう意味では、三重ではなく五重の壁で王城は守られているのだ。


「一言で言えば、蝕天の被害を広げないためだな」


 王城以外の居住区と生産区は、一定毎に壁で仕切られている。

 これはどこに発生するか分からない蝕天に備えるためであり、もし魔物が包囲を突破した場合にも被害をできるだけ拡大させないためである。

 この世界では基本的に、どこの都市も似たような作りをしていた。


「蝕天の被害は、そんなに大きいのか?」

「ああ、馬鹿にならん」


 蝕天の日までに天の影の周りに壁を打ち立て、足場を用意する。蝕天の日には兵を配置し、魔物が出現するなり一斉に弓や魔術・魔導具を放つ。

 それが、兵士が蝕天に対応する場合の一般的な対処方法らしい。

 だが雑魚のみであればそれで事足りるが、ボスが居た場合は大抵包囲を破られて直接戦闘となるそうだ。


 それに、蝕天の数は一つや二つではない。

 広大な敷地内、兵士の数は有限。

 冒険者ギルドを通して天の影ごとに冒険者を派遣するが、その強さだってまちまち。

 敗走し、魔物が野放しとなるケースだってあった。


 最終的に精鋭の兵士や一流の冒険者が駆けつけるにせよ、どうしても移動には時間がかかってしまう。

 被害を少しでも広げないために、必要な処置であった。


「なるほど……

 国が広ければ広いほど、大変なんだな」

「そうだな。

 開拓する土地はあっても、開拓後の平和を維持することができなければ意味はない。

 と、文官らが言っていた」


 余計な付け足しにちょっと苦笑しつつ。

 風向きの村周辺で遭遇した、2体のボスを思い出す。


 攻撃するたびに爆発する赤くらげと、火を吐く恐竜。

 エルフ達も樹の上から弓を放っていたが、確かに倒せたのは雑魚だけだった。

 仕切りの壁がどれほどの強度か分からないが、被害を小さくできるならそれに越したことはない。


「エルフの方々は、蝕天に対しどのような対策をされていたのでしょうか。

 その辺りもよろしければお教え下さい」


 シードの言葉に、少し考えるマーリィ。

 今月の蝕天は、ツバサのためのものであったので除外するとして。それより以前を出して答える。


「大きな蝕天の数も1つ、2つでしたので。

 壁を作ったりはせず、ち――オーワン様が対処されてました」

「なんと、お一人でですか?」

「そうですね。

 供を連れて行く時もありましたが、大抵お一人で全て」


 オーワンが到着するまでの足止めや時間稼ぎはあったが。

 基本的にはオーワン一人、あるいはもう二、三人程度で戦う。


 これは、オーワンの強さが桁違いということもあるが、精霊力の減少にも関係している。

 オーワンを含めて蝕天で戦うものには、リーファディオルが秘術を施したからだ。

 仮初の肉体で戦うことで、本体は死んでも無傷となる秘術『森生庭園エルガルド

 人数が増えればそれだけ負担が大きくなり、多くの精霊力を必要とする。

 リーファディオルのことを考えるならば、戦うものは少ないほどいいのだ。


 もちろん、森生庭園エルガルドは秘術であるため、人間達には教えない。

 オーワンが強いから十分だと語るのみである。

 事実、オーワン一人で十分だったのだから。


 今回より前の蝕天を知らないツバサは、不思議そうな顔をしつつも。

 自分はエルフではないし、全てを正直に明かす必要もないだろうと黙っていた。


「さすがは前大戦の勇士だな。

 私も一度手合せ願いたいものだ」


 嬉しそうに言うネルの瞳には、憧れのようなきらきらとした光があった。

 そんな輝く表情を裏返したように、ツバサはそっと顔を背ける。

 セリフをつけるならば、うへえ、だ。


 脳裏には、笑いながら拳を振るうオーワンの姿。嬉々として死ねを連呼するオーワンの姿。

 確かに鍛えてもらい感謝はしているが、それとこれとは全くの別物である。

 あのおっさんは、苦手……とはちょっと違うが。

 ぶん殴りたい。やる前にやられるけれど、それでも。ぶん殴りたい。



 そういえば、王女はもちろんオーワンについても、本気で戦っている所を見たことはない。

 実際にやりあったら、どちらが勝つのだろうか?


(……流石にオーワンだろうなぁ)


 魔王と戦い生還した、前大戦の勇士。

 ネルも確かに一流であろうが、オーワンの秘めるオーラのようなものと比べると、まだまだかなと思ってしまった。


 もちろん、ツバサ自身はそのネルよりも遥かに弱かろうが。二人の勝敗とは関係なし。




 辿り着いた、他より豪華な両開きの扉。一目で、普通の部屋でないことが分かる。

 その扉の少し脇で立ち止まると、シードが切り出した。


「それでは皆様、こちらで少し待って居ていただけますか?」

「分かりました」


 頷くマーリィとネルに一礼し、兵士と話してまずはシード一人が入る。

 入ってすぐに、室内から何か叫び声が聞こえ―――


「エルフとな!?」


 突然、ばーんと扉が開かれ。

 王冠を被った人物が、一行の前に飛び出して来たのだった。


蝕天。月に一度の魔物の大発生。

人々は、備え、考え、戦う。

そんな歴史が、都市の作りに表れていた。


次回『長耳は求婚された』


―――なんてシリアスな空気は、扉と共に跳ね飛ばされた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ