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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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城門は開かれた

 城門前で、馬車が一度止まる。

 しかし馬車から降ろされることもなく、すぐにまた馬車は進み始めた。


「おしろ、おっきいね?」

「そうね。話には聞いていたけれど、すごいものね」


 はしゃぐ由梨に、自身も城を見上げつつマーリィが答える。

 風向きの村で見た一番大きい建物と言えば、規模なら彼女らが暮らしていた家、高さでも櫓程度だ。

 こんな巨大なものは、建造物でも自然物でも見たことがない。


「我が城は、周辺の諸国に比べれば小さい方だ。小国であるからな」

「これより大きいって、一体どれほどの人が暮らしてらっしゃるんでしょうか?」

「城内に暮らしているという意味で言えば、国によりけりだ。

 兵士や使用人を住まわせている国もあれば、住居から通っている場合もある」

「ここはどっちなんだ?」

「大半の兵士は居住区に住んでいるな。逆に使用人は大半が城に住んでいる」


 ゆっくりと進んでいた馬車が、静かに止まった。

 車外から掛けられる声にネルが応じる。


「さあ着いたぞ、降りてくれ。

 着いて早々ですまんが、早速会っていただきたい人がいる」

「おーさまー?」

「まずはマーリィ殿がエルフであるか、魔力の測定をしていただきたい。

 私はエルフであることを疑っていないのだが、頭の固いものが多くてな」

「分かりました」

「手間を取らせてすまない」


 謝罪するネルにやんわりと返し、まずマーリィが降りた。

 由梨、ツバサと続き最後にスフィ。


「こちらだ、ついてきてくれ」


 案内しようとする兵士も侍女も手で制し、ネル自身が彼らを案内する。

 戦争中ゆえか、城内には兵士も侍女も多かった。

 すれ違う者たちの、困った顔、疑わしい顔、物珍しそうな顔。

 それらを意に止めず突き進み、辿り着いた扉の上には『魔導兵室』と書かれていた。


「ここは?」

「魔導具を扱う魔導士達の詰所のようなものだ」


 中に通される。

 四名程居た者たちがネルに気づいて立ち上がり頭を下げる。


「おかえりなさいませ、ネル王女。準備はできております」

「相変わらず準備がいいな、シード。

 彼女が不帰かえらずの森のエルフ、マーリィ殿だ」


 ネルに紹介されたマーリィが、一歩進み出て頭を下げる。


「マーリィと申します」

「私はスィオード=モデアス。この城で宮廷魔術師をさせていただいております」


 対する魔術師は、やや長身の壮年の男性だった。

 やや長めの茶髪だが髭はなく、耳の長さも普通。彼らの乏しい情報から判断するなら、外見上は人間と思われる。

 やや高めだが温厚そうな声をしていた。


「それでは早速で申し訳ありませんが、こちらの指輪をつけて何か簡単な魔術を使っていただけますでしょうか」

「わかりました」


 指輪を受け取り、右の人差し指にはめる。

 かなりぶかぶかだったが、まぁ装飾品ではないから別にいいだろう。


「魔術はなんでもいいのでしょうか?」

「もちろん、エルフ独自の攻撃魔術!」


 力のこもった声と眼差しで即答するシード。

 狭いという程ではないが、さすがにこの室内で攻撃魔術は無謀すぎるのではないだろうか。


「おへや、こなごな?」

「おっと、そうだね。

 粉々になると困るから、攻撃魔術は今度見せてもらうよ。使う魔術はなんでもいいです」


 ツバサと手をつないだ由梨の言葉に、思わず叫んだシードは失敗とばかりに笑った。

 それを受けて頷くと、マーリィはナイフを抜きその刀身に指をあて


「それでは。

 今ここに精霊の瞬きを 照明ライト


 マーリィの放った魔術が、ナイフの刀身に光を灯した。

 直視するには少し眩しい輝き。それを消すため、彼女はナイフを鞘に納める。


「これで良かったのでしょうか?」

「ええ、問題ありません」


 マーリィに頷くと、なんの変化も見せていない指輪を受け取り。

 シードもまた、指輪をはめて照明ライトを唱えた。


 部屋の壁に灯りがともされる。

 と同時に、彼が身に付けていた指輪がぼんやりと光っていた。


「魔力の使用を感知して、このように光るのです。

 マーリィ殿が魔力を用いずに魔術を使われたこと、よく分かりました」


 シードの言葉に、当然とばかりにネルが頷く。


「きらきら、きれーだね」

「そうか、ありがとう」

「……わたしも、きらきら、ほしーなー?」


 じっと見つめる幼女。


「これは大事なものなのであげられないけれど。

 今度何か、ちょうどいいものがないか探しておくよ」


 きらきらとした眼差しの破壊力に、シードは笑顔で安請負をした。


「おじちゃん、ありがとう!」

「ユリ君はどこでも元気でいいな」

「おうじょの、おねーちゃんも、いつもありがとう!」


 特に何をしたわけでもないが、自分にも笑顔でお礼を言ってくれる由梨。

 ネルもまた笑顔で返すと、自分も今度、何か用意しようなどと考える。


 着々と、由梨の地盤固めは進んでいるのだった。


王城へと到着した一行。

魔導具に触れ、精霊力を操ることを証明し。

一方で由梨は、着々と足場を固めていく。


次回『都市は備えられた』


―――お城関係者がいっぱいで、覚えるのが大変です


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