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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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バーニアはくれなかった

 ツバサ達にあれこれあったのと同様、ネル達スェンディ軍にも色々あった。


 とは言えこちらは予め予定されていた行動、さしたる影響はない。

 宿でツバサ達と明日のことを決めた後、宿場に居たネル達一行は、一部の兵士を残して野営地へと戻った。


 野営地、と言ってもそれほど大がかりなものではない。

 ネル達の先遣隊は、総勢150名程。

 宿場に泊まれる規模ではなく、またいざという時に宿場を巻き込むわけにもいかず、彼らは宿場の外壁より外に野営地を作っていた。


 当初の予定から外れたことがあったとすれば、ネルの帰還である。

 戦力の低下は否めぬが、もともと王女の出陣には皆が反対していたのだ。これについては構わないだろう。

 斥候の情報と共に、接敵したツバサとネルによっても敵軍の規模は分かっていた。十分に勝算はある。


 昨夜の定時連絡で、不帰の森のエルフと遭遇したので、ネルと共に城へ向かわせる旨は伝えてあった。

 特に増援の要請などもしていないが、さしたる問題ではなかろう。



 野営地での朝食後、ネルとバーニア、それにネルと共に城へ向かう護衛兵は宿場へ向かった。

 馬車を借りる手配を兵に任せ、食堂に向かったネルとバーニアが見たのは、なんだか妙な雰囲気を漂わせる旅人達であった。


 こいつら、大丈夫なのだろうか。


 人間男ツバサ。なんだか顔色が悪い。無言。誰とも顔を合わせないように俯いている。

 エルフ女性マーリィ。どことなく困った顔。無言。ぱっと見、一番まとも。

 エルフ幼女ゆり。おかんむりでぷんぷん。無言。時々ツバサをフォークで刺す。

 不審者スフィ。妙に動作が軽快で快活。ときどき含み笑い。もちろんローブに三角帽。


 できれば見なかったことにしたかったが、そういうわけにもいかない。

 せめてもの抵抗とばかり、食堂の外で彼らが出てくるのを待った。




「ネル様とツバサ殿達の護衛、よろしく頼みますよ」

「はい」


 護衛兵のリーダーらしき女性の返答に頷くと、バーニアはネルの方を向いた。


「ちゃんと真っ直ぐお城に帰ってくださいね?

 寄り道したり、敵が居たからと言って戦ったりしないで下さいね?」

「……わかった」


 不本意なんです! と書かれた顔で、しぶしぶ頷くネル。

 馬鹿じゃな―――いや、わりと馬鹿ではあるが。その分、必要以上の判断を自分でしようとはしない。

 きちんと護衛が手綱を握ってくれれば問題はないだろう。

 そもそも敵軍は宿場を挟んで反対に居るのだから、馬車で移動するネル達が敵に遭遇する確率は低いはずだ。


「それから、ツバサくん。約束していた入眠薬だ。

 効き目が強いから、子供が飲む場合は四分の一くらいにしてくれ。

 悪用はしないでな?」

「ありがとうございます……」


 暗い表情で薬を受け取るツバサ。

 その部分だけを切りぬいてみれば、やばい取引に見えなくもない。


「……大丈夫かね?」

「た、たぶん大丈夫かと」


 表情の暗さは、馬車への恐怖なのだろうか。

 まあ効きの強い薬である、揺れる馬車でも半日くらいはぐっすりと眠れることだろう。

 昨夜の出来事など知らないバーニアは、のんきにそんなことを考えていた。


 なお、護衛と見張りを兼ねて兵士も一部宿に泊めていたのだが、特別な報告は受けていない。


「わたしのぶんはー?」

「ツバサくんに渡したよ」

「え、どうしてわたしにくれないの……?」


 うるうるしたおめめで、抹茶ソフトなバーニアを見上げる由梨。

 予想外の反応に、思わず言葉を詰まらせる。


「お薬は、子供には危ないものだからね?」

「どうして、ゆりのこときらいなの?」

「いや、あの、ね?」

「ゆりもほしい……」


 じいぃぃぃ。

 自分を見上げる無垢な瞳から、思わずバーニアは目を逸らした。


「つ、ツバサくん。そういうわけで、姫様をよろしく頼む!」

「おねーちゃん、ゆりのこときらいなんだ……」


 逃げようとするバーニアを、しかしちっちゃなおててが掴む。


「ゆりちゃん、どうしても気持ち悪かったら、ツバサお兄さんからもらってね?」

「ゆりが、きらいなんだ……」


 瞳で訴える。

 ぜったい、にがさないもん。なくもん。


「あぁぁ、あのね、ゆりちゃん?」

「う……うぅ……」


 なくぞ。ないちゃうぞ。

 いいんだな、ないちゃうぞ?


「ツバサが寝てしまったら、ツバサから薬をもらえないと思うわけだ。

 すまないが、我にも一つもらえぬかね?」

「お、ああ、そう言えばそうでしたね」


 確かに正論である、スフィの言葉。

 それはいったい誰の援護であったのか。


「つまり、ゆりには、どうしても、たべさせたくないんだ……」

「あっ、ちが、そうじゃなくて、だからね?」

「ふえ……」


 泣く寸前。

 泣くぞ、泣くぞという雰囲気を見せ、口元をゆがませる由梨。


「なに、我が受け取っておくから、ツバサが寝ていたら我から渡そう。

 だからこんなところで泣くものでない」

「う…うー……」


 涙を隠すように俯いて、呻き。

 ちょっと肩を震わせる由梨。両手は俯いた顔に当てられ、おそらく目元をこすり。


「た、助かる。それでは皆、よろしく頼みました。

 馬車に乗りたまえ、急いで出発だ!」


 その隙にバーニアは薬をまとめてスフィに押し付け、彼らを追い立てて出発するよう指示を出した。

 俯いていた由梨も、ツバサに抱えられて馬車に乗せられて。

 ツバサ達、不帰の森ご一行とネルが乗り込むと扉が閉められた。


「スェンディの王城まで、ご武運を!」


 幾人かの兵に見送られ、馬車とそれを囲む護衛の騎兵は。

 一路王都へ、街道を西の方角へと進んで行った。




「子供の相手はひやひやするよ……」

「お疲れ様でした、バーニア様」

「ああ、ありがとう。

 それでは我々も、隊に戻り役目を果たすとしよう」


 泣きそうな由梨から解放され、ほっと一息のバーニア。

 効き目が強く危ないからと渡さなかったのだが、まさか泣かれるところだとは思いもしなかった。

 子供は好きだが、やはり扱いが難しい。そんなことを再確認するのだった。



 当然だが、バーニアは知らない。由梨がなぜ、なんのために薬を求めたのかを。

 せいぜいが、他の人はもらってるのに自分はもらえないから不機嫌になった、そのくらいにしか考えていなかった。


 当たり前である。

 見た目はまだ人間の三歳児程度。

 生後年数で言えば、まだ半年にも満たぬのだから。

 幼児が欲しがりぐずる理由など、その程度にしか考えていなかった。


 この後、薬が由梨の手に渡った末にもたらされる顛末を、予想することなどできるはずがないのである。



夜間の余韻か何なのか、旅人達の朝は暗い。

俯く者、怒る者、笑う者、戸惑う者。そして目を背ける者たち。

そんな一幕を経て乗り込んだ馬車は、王城へと向かい。


次回『ツバサは眠っていた』


―――幼女は、望んだ薬を手にいれられたのだろうか。


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