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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
51/62

ツバサは言い訳をした

「違うんだよ」


 ツバサは言った。

 その言葉が何を意味するかを知りながら。

 いや、知っているからこそ。


「違うんだ、そうじゃないんだって」


 目線の高さは、同じかむしろ相手の方が低いくらい。

 それでも、遥かな上から見下ろすがごとき眼差しを受けながら。


「ほんとだよ、嘘じゃないって。

 違うんだよ、言い訳じゃなくて違うんだって!」


 ツバサは、その言葉フレーズを繰り返した。




『違うんだよ』から始まる発言は、9割以上が言い訳であり。

 ゆえに、言い訳をする時は『違うんだよ』から始めなければならない。



 これはツバサのどうでもいい持論の一つである。

 このため『違うんだよ』のことは『言い訳フレーズ』と呼ばれており、ツバサの周囲の人間は何度この言葉フレーズを聞いたか分からない。

 まあそれだけ言い訳が多いという意味かもしれないが。


 言い訳フレーズ。

 言外に『これから言い訳するんだけど、言い訳って自覚してるから大目に見てね』という気持ちがこもっている。


 それは例えば、現代日本。

 発車間際に駆け込み乗車をした少女が、周りの視線に曖昧な笑みを浮かべ。

 言外に『ごめんなさい、でも自分がちょっとマナー違反をしたのは自覚しているから許して下さい』という気持ちをこめるのと同じである。


 いや、曖昧なはにかみって、深層心理を突き詰めればそういうものだったんだよ? 昔は。

 己が劣ることは分かっているので、あんまりいじめないで下さい。という謝罪であり牽制であり、ある意味では態度の大きさであった。

 少なくとも、昔は。

 現代だと、同じ状況で同じ笑みを浮かべたとしても『どうだ間に合ったぞ私って時間ぴったりですごいわ』かもしれない。

 時と所が変われば、同じ語でも意味合いは変わり。

 同じように、同じ笑みでも意味合いは変わるのかもしれない。




 さておき。

 この世界―――否、元の世界で最もたくさんこの言葉ちがうんだよを聞かされてきた由梨は。

 己の目の前で、正座して縮こまりつつ。

『これから言い訳するんだけど、言い訳って自覚してるから大目に見てね』という顔をした兄を無言で見下ろした。


「いや、だからね?」


「……」


「マーリィのせいで、スフィと、二人部屋にされちゃったしね?」


「……」


「オーワンのせいで、お金、なかったしね?」


「……」


「マーリィの、善意で、スフィと交渉してくれちゃったしね?」


「……」


「ぼくの知らないとこで、勝手に契約されちゃったしね?」


「……」


「言う事、聞かないと、いけなかった、し、ね……?」


「……」


「その……ね?」


「……」



「……」


「……」



 重い、おもーい沈黙が場に下りて。


 無言で見つめ合う、兄妹。




 一秒か、一分か、針のむしろなひと時が過ぎゆき。


 これまで沈黙を貫いていた妹が、ゆっくりと口を開き。




「ゆうべは、おたのしみ、でしたね?」


「いやぁぁぁぁぁぁっ!?」




 この後。

 妹は思いつく限りのことで、滅多刺しにするわけなのだが。

 兄は自分の致した事実と現実に、ただただ正座をして刺されるに身を任すのみであった。



 すなわち、人は彼をこう呼ぶ。


『賢者』である、と。




「違うんだよ、賢者じゃないんだよ!

 いや、確かに賢者かもしれないけれど、それは意味が違うんだよ!


 ほんとほんと、嘘じゃないって、違うんだって!」


ツバサの言い訳は、荒ぶる妹様の心に届いたのか。

それは彼女と大精霊のみが知るばかり。


次回『バーニアはくれなかった』


―――朝起きたら、ご飯を食べて王都へ出発だ


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