人かエルフか異世界か
三者面談。懐かしい響きだ。
最後に行ったのは……よく思い出せないな。
教師と、オレと、××と。
……オレは親として行ったんだっけ? それとも学生だっけ?
先も見えず、ゆらゆらと漂う思考。
さながら、陸地も影もない大海原に投げ出されたクラゲのように。
思い出せない過去に、けれど不安も不満もなく。ただただ気楽に漂っていた。
――― ――― ――― ――― ―――
正面におっさん。
テルスが3人分のお茶をいれてテーブルに置くと、おっさんの横に座った。
……イケメングリーンはいれるお茶も緑だった。さすがの徹底ぶりだ。
「さて、まずは自己紹介しよう。
私の名前はオーワン、この風向きの村の村長をしている」
「ツバサです」
名前を名乗り、それから。
「記憶喪失みたいで、名前以外覚えてません」
「なんだと?」
驚いてテルスの方を向くおっさんことオーワン。
「未確認です。名前についても今初めて聞きました」
「テルス。お前はもう少し、他人や物事に興味を持ちなさい」
「……申し訳ございません」
軽く頭を下げるテルス。
来る途中、話しかけてもずっとだんまりだったもんなぁ。
「であれば、何から説明したものか。
ふむ……」
脅される前には怖かった顔も、今では気のいいおじさんという風。
ひげのない顎に手を当て、しばし思案顔。
「まず、そうだな。
君の記憶が戻らなければ確定とは言えないが」
「はい」
「君からすれば、この世界は『異界』である可能性が高い」
「異界……ですか?」
「そうだ。場合によっては異世界とも呼ばれるらしい」
「異世界!」
そっちの方がしっくり来るな、異世界!
来ちゃってるよ異世界いせかい!
「異世界! エルフ! 美少女!」
「……異世界でエルフで、美少女で?」
「女の子といちゃいちゃしまくりハーレムとかいいですよね!」
「ははは、さすがは若者だ」
渋面のテルスと笑うオーワン。
おっさんは話が分かるのに、部下のイケメングリーンは駄目駄目だな本当に。
「イケメンの貴様には下々の苦しみなど分かるまい!」
「そうじゃそうじゃ!」
「……長よ、その発言はあなたにそぐわぬ内容ではないかと推測します」
「うるさい現在進行形いけめんめ!」
現在進行形というオーワンの言葉に、さらに眉間の皺を深くして。
「いけめん、というのがなんだかは良く分かりませぬが。
大方、女性に好まれるとかそういった意味なのでしょう」
「このイケメン、頭までイケメンだと……!」
未知の言語をこれほど容易く言い当てるとは、このイケメングリーンめ!
「いや、己はもてもてであるという認識や、己への僻み=もてないブサ男という図式により答えを導き出したということかユルスマジ!」
「そうじゃそうじゃ許すまじじゃ!」
断固として抗議する!
僻んでいる自覚はあるんだとか呟きが聞こえた気がしたが超気にしない!
そんなオレ達2人を見て深く深くため息をつくと、テルスは面倒そうに口を開いた。
「人の民よ、長にはかつて2人の伴侶が居た。
どちらもそれはそれは美しい女性であった」
「おっさんも敵だぁぁっ!」
涙ながらにおっさんに掴み掛かるオレ。
あんた、オレの仲間じゃなかったのかよぉ!
「そんなことはさておいて、だ」
「流すなよこんちくしょう!」
オレの怒りをさらりと流し、おっさんが続ける。
「ハーレムが欲しいのであろう?
私の話を聞いて損はないと思うぞ?」
「先輩、宜しくお願いしまっす!」
オーワンはやけに重々しく頷くと、この世界―――異世界について語りだした。
「ツバサが異界の旅人であると仮定して話をしよう」
「異界の旅人!」
「この世界には、異界より召喚された人間が現れる。
この人間たちの多くは、勇者と呼ばれる」
「勇者!」
うおー、テンション上がるんじゃないかこれは!?
いちいち反応するオレに、楽しそうなオーワンと、鬱陶しそうなテルス。
「古くは魔王の討伐に始まり、世界を救うような偉業を成し遂げた勇者もいる」
「魔王!」
「あるいは、ほとんど戦ったり外に出ることなく、町の中でその日暮らしだった勇者もいるらしい」
「ひきこもり!」
「ひきこもり、と言うのか?
ともあれ、異界の旅人は勇者として、この世界で生きる。
志半ばで倒れるものもあれば、目的を果たし元の世界へ帰ったもの、この世界で末永く暮らしたものもいるらしい」
「ハーレム!」
露骨に嫌そうな顔をするテルス。負けないもん!
オーワンは楽しそうに頷くと、そうだと告げた。
「うおー、まじでか!」
「魔王を打ち倒し、世界の危機を救った英雄となれば、そりゃあもう女に事欠くことはなかろう」
「ですよね、ですよね!」
「そこまでいかずとも、異界の旅人は総じて強大な力を持つ。
もてるということにかけて、強さは大きな優位性となろう」
「チート万歳!」
「……チート?」
「異界の旅人ルールです!」
「なるほど」
通じてしまった。さすがはチート。
「異界の旅人の力は、大きく分けて2つだ。
1つは、その身に宿した精霊力の大きさ」
「精霊力?」
そういえば、スフィも言っていたな。
オレの異常な精霊力がどうとか。
「世界に満ちる力、精霊の力。
生命、魔術や魔法、その他人の生きる礎となる全ての力が精霊力だ」
「精霊力……」
「異界人は、我々よりも強大な精霊力を有している。
十倍や二十倍で効かないくらいの、な」
「えっと、精霊力が強いってことは、何もかもが強いってこと?」
「まあそうだな。
基本的には、魔法が強い、肉弾戦も強い、生命力もしぶといってところか。
学力的なものを除けば、だいたい何もかもが強いであっている」
テストの点だけは駄目ってことね……
いや、もう関係ないんだけどさ!
「話を戻そう。
精霊力の視える者からすれば、異界の旅人、特にツバサの精霊力は一目瞭然だ。隠すべくもない」
言われて、一つぴんときた。
「ひょっとして、エルフってみんな見えるの?」
「見える」
「なるほど、だから村の人たちに視られたり逃げられたりしたのか」
「そうだろうな。
我々エルフは、精霊力を視えるし、その輝きに惹きつけられる。
精霊力が強いということは精霊の加護が強い、精霊に愛されているということなのだから」
「……」
それって―――
「ひょ、ひょっとして精霊力が強いってだけで、もてますか先輩!」
「―――可能性は、ゼロじゃない」
にやりと笑うオーワン
「おおおお……!」
「少なくとも、顔がいいとか金持ちだとか、そういう一要素としてプラスに見られることは確かだろう。
エルフのような、精霊力の強い種族からはな」
「すばらしい!
異世界最高!」
「ただし、精霊力ではなく魔力を源とする種族からは憎まれることとなろう」
「……えーっと?」
「魔物に狙われやすいということだ」
オレの疑問に答えてくれたのは、テルス。
ヒグイグマさんの獰猛な勇姿が頭に浮かんだ。
「なに、それさえも精霊力にものを言わせて返り討ちにすれば良いのだよ。
ツバサくん、君の未来は明るいよ」
「わ、わかりました先輩!」
「はぁ……」
ためいきをつくイケメングリーン。
ふんだ、顔では負けても精霊力なら負けないんだからね!
「あ、オレの精霊力って、イケメングリーンと比べてどんなもんなんですか?」
「まだ底が見えないので、目算となるが。
おそらく、数百倍はあるだろう」
……
「は?」
「数百だ。
ちなみに、テルスはエルフの中でも非常に優秀だし、並みのエルフの精霊力でも人間の倍近い。
お前とこの世界の人間を比べたら、千倍に達するかもしれん」
「……なんというパワーインフレ」
さすがはチートということか。
「それなんだがな、ツバサくん」
「は、はい」
「異界の旅人というやつは、この世界の人間よりも精霊力が強いのだが。
それでも、数十、多い人でも百倍くらいだといわれているのだよ」
「え?」
「君の精霊力は、異界の旅人にしても強すぎるということだ」
「……はぁ」
いや、そんなこと言われてもよく分からないんだけどさ。
「なに、強いのだから今は気にすることもないだろう。
君はその力を振るって、魔物どもをなぎ倒し、女の子達にキャーすてきーと言われれば良いのだよ」
「わ、わかりました先輩!」
まあそうだよな、よくわからない設定とかどうでもいいよな。
この世界でなら、オレはイケメンの如くもてるみたいだし!
「そういうわけだからツバサくん、次の蝕天ではこの村の者たちと一緒に戦って欲しい」
「へ?」
「魔物が来る。ツバサが倒す。女の子が惚れる」
「ま、魔物……ですか」
「そうだ。
蝕天の日に魔物が現れる。出現場所までテルスらと共に赴き、湧き出す魔物を退治して欲しい」
ヒグイグマさん、にやりと笑う(妄想)
「ヒグイグマを完膚なきまでに焼き尽くしたあの力、我らに貸して欲しいのだ」
テルスが頭を下げた。
流石はイケメン、礼も優雅で躊躇いもない。
「形式が必要であれば、冒険者として雇ったという形でもいい。
ついでに、森を焼いた罰と、この世界の事について教える情報料という意味もつけよう」
「……なるほど」
ちょっと考えてみよう。
デメリット。
戦う場合、もちろん魔物が怖い。
でも、ヒグイグマくらいなら、なんとかなるんじゃないかな。一度倒してるし。
逆に、戦わない場合。
一番怖いのは、ここでこの村を放り出されることだと思う。
情報も道標も何もない。食料だってない。
……おなかすいてきたな、そういえば。
「ツバサよ!」
「は、はい」
考えるオレを遮るように、オーワンが力強く声をあげ立ち上がった。
「この村の綺麗なエルフ達が君の活躍を待っている!
かっこよく魔物を倒し村に平和を導けば、皆の英雄だ!」
英雄!
「戦いが終わった後。
君に惚れた、君と一生添い遂げたいと言い出すエルフが居れば、君の生涯の共として旅立たせることを約束しよう!」
ほれ……そいとげ……
「―――お、お、
おおおおおおお!」
背後で荒波が砕けた。
オレから噴出す光が暗雲を吹き散らし光を呼び込み世界の闇を祓う!
「やります、先輩!
オレは必ず、魔物を倒してエルフの可愛い子ちゃんをゲットします!」
「うむ!
無理やり拉致は認めない、あくまでエルフが望んだらだ。
おなごを惚れさせるくらいの目覚しい活躍を期待している!」
「はい!」
こうして、エルフの客人として戦線に加わることとなったツバサ。
果たしてかっこいい活躍ができるのか、ツバサに惚れる女性は居るのか?
そもそも、勢いで引き受けてるけど魔物に勝てるのか、話の裏とかないのか!?
次回『設定詰め込み回は余裕で読み飛ばしました』
―――ちなみに「忝い」は「かたじけない」と読むんだ!






