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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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ツバサは言いなりになった

「え?」


 宿の―――と言っていいのか分からない、駅の受付カウンターの宿泊受付窓口。

 そこの主人の言葉に、ツバサは間抜けな顔を見せた。


 元々間抜けであるとか、そんなスフィ的感想はさておき。

 意味が分からない、あるいは受け止められていないツバサの様子に、手にした硬貨を返しながら再度同じことを繰り返す。


「こんな硬貨は見たことないから、うちで使うことは出来ないよ。

 どこの国の硬貨か知らないが、泊まりたければこの国で流通している金を持ってきてくれ」


 放心気味のツバサの手に、件の硬貨を握らせる。


 ツバサが差し出した硬貨は、風向きの村でオーワンから渡されたものだった。

 彼のセリフが脳裏によみがえる。


『ツバサ君がいざって時に困らぬよう、少しだが金子きんすも用意しておいた。

 どうしても困った時だけ使うといいだろう。

 だが、このお金はできるだけ使わず、己の力と甲斐性のみで旅を続けてくれることを願っているよ』


 今回の事態が『どうしても困った時』に当たるとは思えないが。

 しかし使えない金を持たされるとは思いもしなかった。


「……仮に、この金しか持っていないとしたら、どうしたらいいと思う?」

「うちとしては、面倒なお客さんは外で野宿を進めるわけだな。

 まあ王都スェンディに行き、各種ギルドなり商人なりに見せれば誰か買い取ってくれるかもしれん」


 もし本当に、その硬貨に価値があるならな、と付け加える宿の親父。

 彼の言によれば、少なくともここら一帯の国の硬貨ではないとのこと。

 南方の国家群か、北方の国家群か。あるいは東方か。いずれにせよ、今この場では使えない。


 人里に来て知る、無一文の己。

 ドアから心へ、一直線に隙間風が吹き込むような気分だ。


「えっ……と、連れの女性二人の宿代は?」

「そちらについては、すでにバーニア様が食事付きで払って下さっている」


 なるほど、部屋に通すには部屋を借りねばならない。ネルが保護した手前、彼女が支払ってくれたらしい。

 二人の宿泊に問題がないことを喜ぶべきか。己の宿がないことを妬むべきか。


 いやいやいや。

 妬んだりはしないよ、二人は暖かく安全で安心だよ? 心の温度が上昇中だよ?


「とりあえず、食事抜きで彼女たちと同室ってのはいかがでしょう……」

「一人が子供とは言え、二人部屋に四人も泊まって欲しくないんだが。

 王女様らの客人のようだし、駄目とは言わんよ」


 布団は用意できんがな、と付け加える親父に一応礼を言う。

 そうと決まれば、二人にお願いしに行くだけだ。




「いやです!」


 ばっさり。


「いや、あのマーリィさん、そこをなんとか」

「ありえません!

 変態でえっちなツバサと同じ部屋で寝るとか、どう考えても無理です!」


 ずばっ。ばしゅっ。ぐさっ。

 情け容赦なく、マーリィの言葉がツバサを切り裂く。


「おにぃちゃん、いっしょのほうが、いいよ?」

「マユリ?」

「は、はい」


 ツバサを切り裂いた後。

 返す刀を、変態な兄の援護に回った愛娘に突きつけ。


「あなたには、女性としての慎みや淑やかさが足りていません。

 生まれてまだ半年も経ってないとは言え、余計な知識や記憶を有しているようですから。

 女性として、もっと常識と良識を身に付け、身も心も美しく育ちなさい」

「で、でも、ひとりだけ、おいだすとか、かわいそうだよ?」

「変態な男性と同じ場所に居るとか、ありえません!

 やはりマユリには、一度しっかりと教育とお説教が必要ですね」

「ふ、ふぇぇ」


 珍しく年相応の声と表情で兄を見る妹。

 しかし頼みの綱の兄の方こそ、滅多切りにされ妹を頼りたい状況だ。


「とにかく、非常事態だの命の危険があるだの言うわけでもないのに、ツバサと同室なんて絶対に嫌です。

 頼まれたって断ります、絶対に断ります!」

「はあぁ……

 わかった、悪かったよ」


 ツバサ自身の性格や言動もさることながら。

 どうしても、二人の間には由梨が居てマユリが居る。

 マーリィから嫌われることは当然であり、避けがたいことなのだろう。少なくともツバサはそう思っていた。


「仕方ない、適当にどこかで野宿するよ。

 明日の朝にはここに顔を出すから。二人は暖かくしてゆっくり休んでくれな」

「……お金、スフィさんかネルさん達に借りればいいんじゃないですか」


 確かに男女で同室などありえないと思う。

 でも、父親が旅費として使えない硬貨を渡したという事情を考えれば、多少は考慮してもいいはずだ。

 冷静な部分で少しだけそう考えつつも、感情的にけして受け入れられないマーリィ。

 そんな自分に、もやもやとした何かを感じつつ。ちょっと不機嫌な気分で、打開策を提案する。


「もちろん、それは考えたんだけど。

 借りた後が怖いんだよなぁ、二人とも」

「怖い?」


 マーリィの疑問に、ああと頷いて


「スェンディの城に行くことは決まったが、何が待ってるか分からない。

 最悪、兵士を振り切って逃げたり、立ち回りが必要になるかもしれない」

「そんなこと考えてたのですか。

 なら、どうして誘いを受けたのですか?」

「いや、さっき連中に言った通りなんだけど。

 はっきり言うなら、このせ―――時代でのエルフの立ち位置が分からないからだよ」


 一度、口にしそうになった言葉を飲み込んで言い換える。

 その差はマーリィには分からなかったから、気にせず疑問を投げた。


「どういうことですか?」

「三人組によれば、この150年ほどエルフは森から出て来なかった。

 街の人からすれば、エルフってのはおとぎ話じみた存在なんじゃないかな」

「たった150年で?」

「エルフの尺度なら、まぁそう考えるのかもしれないけどさ。人間にとっては十分長いよ」


 この世界の人間の寿命は分からないが、おそらく元の世界より長いことはないだろう。


 人間の寿命はさておき、そもそもこの世界の『平和さ』自体が分からないのだ。

 月が昇るたびに魔物が大量発生し。

 過去には魔王との戦いがあり。

 森を出るなり、戦争に出くわした。


 風向きの村チュートリアルで学んだ世界知識は、残念ながら全く役に立っていない。


「珍獣扱いで好奇の目に晒されたり、囃し立てられるぐらいならまだいい。

 希少種だということで、さらわれて売られたりするかもしれない」

「そんな、考えすぎよ」

「オレもそう思うんだが。

 可能性がある以上、二人の安全を考え、出来るだけ危ない橋は渡りたくないんだよ」

「……」


 最初、ツバサが城へついて行くと言ったとき。

 確かに今説明されたようなことは聞かされたが、マーリィは『ああ、美人の王女様が居るからついていくのか。こんな奴と一緒で本当に大丈夫なのかな』などと考えていた。

 もちろん、彼女が何を考えていたかなど、ツバサに分かるわけがない。

 ただ、分かるわけがないからこそ、罪悪感と言うか、少しだけ申し訳ない気持ちになった。


「そういうわけだから、あんまり借りとか作りたくないよな。

 小銭を借りたせいで、借金に縛られて呪われたりしたくないし」

「そうね、わかったわ。

 私が貸せれば良かったんだけど、ごめんなさい」

「いや、お金についてはお互い同じ状況だろうし。

 野宿でもないのに、オレと同室が嫌だってのも当然の反応だから別にいいさ」

「う……ん」


 決まった以上、食い下がったりはしない。話が終われば、後は今夜の寝床を探し、夕食を用意するだけだ。

 さっぱりとしたツバサに、今更ながら感情的に断ったことに対しても罪悪感を覚える。

 確かに、一緒に泊まるのは無理でも。同じ断るにしても、断り方はあったんじゃないだろうか。


「じゃあ、スフィさんは?」

「スフィは……なぁ……」


 怖い。

 色んな意味で怖い。

 敵か味方かと問われれば、間違いなく味方だと思う。

 信頼もそれなりにある。


 でも、色んな意味で、怖い。


 ちなみに、当のスフィはすでに部屋を取り、自室でくつろいでいるはずだ。

 ツバサと二人部屋で、割り勘の予定であった。


「でも、お金を借りなくても二人部屋の予定でしたし。それが一番いいのでは?」

「うー……ん」

「わたしも、はんたい、だよー」


 マーリィへの恐怖がようやく落ち着いたか、避難していたベッドの上から由梨が小声でツバサに賛同した。

 意見としては近しいものがあるが、その理由については定かではない。由梨もまた、由梨の価値観で判断しているのだ。


「まぁ、なぁ……でもなぁ」


 先程までのしっかりした考えと一転、スフィに対しては煮え切らない態度のツバサ。

 いったい何がそんなに気になるのだろう?

 いや、夕方に色々騒いではいたが。けして仲が悪いわけでも、嫌ってるわけでもないのだろう。

 まぁ言ってることの一部はよく分からなかったし、なんとなくいかがわしい気配はあったが。


「もう、はっきりしないわね。

 いいわ、ツバサが何を気にしてるのか分からないけど、私が聞いてきてあげる」


 ツバサの返事を待たず、部屋を出ていくマーリィ。


 彼女にすれば、師匠らしき相手に頼みづらいツバサのため、少しでも先ほどの罪滅ぼしのつもりで。

 善意とおせっかい故の行動であったのだ。

 まさか結果がどうなるかなど、これっぽっちも考えていない。


 もしも彼女に、もう少し知識・・があれば。

 夕刻の、由梨とスフィの会話の内容や、ツバサのツッコミの意味が正しく理解できたのであろう。

 しかしそれが分からない程度には、彼女は清純であり、箱入りであり、乙女であった。

 良くも、悪くも。


 残されたツッコミ役のツバサは、乙女とは言い難い由梨と顔を見合わせ


「えっち、だめ、ぜったい!」

「いきなり何を言い出すんだ、お前は」


 割と的を射た発言に、声程の元気はなくテーブルに突っ伏すのであった。




 その後、清純乙女マーリィが頑張って交渉した甲斐もあり。

 ツバサは、スフィに宿代をしてもらえることになった。


 そのかわりにマーリィがスフィと結んできた条件というのが、ツバサが一晩、スフィの言うとおりに付き合うこと、であった……


スェンディ王国と、この世界への警戒心。

そんな真面目さを見せたツバサへ、マーリィも少しだけ心を開く。

そんな優しい心が招いた結末は、いかなる未来へ至るのか。


次回『スフィさんの時代が来た』


―――次回はお待ちかね? エロ回?


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