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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
46/62

おっさんは伝説だった

 テーブルのこちらには、マーリィ+由梨、ツバサ、スフィの順に。

 向かいには、ローブ姿、ネル、兵士の順に。

 コップの中身は先ほどのまま、つい18分/3分ほど前と全く同じように着席して向き合う面々。


 そう、全く同じように着席しているが。

 まるで間違い探しのように、数点だけ差異があった。


 一つ。ローブ姿であったホビットのバーニアが、フードを取っていること。

 一つ。スフィのコップだけ、中身が空であること。

 一つ。兵士ダイゼンが、猿轡を噛まされ椅子に縛られ、まるで誘拐されてきたお嬢様のようであること。



 いや、もういい加減話を進めようよ?

 そう言ったバーニアとネルの手により、ダイゼンが『隔離』され。


「ロープはまだ余ってるからね?」


 という言葉が、ツバサの耳から入り脳内に届く頃には


「あまり騒ぐと君も縛るよ?」


 と変換されていたのだった。




 と言うことで、仕切り直しといこう。


「そこで静かにしているのが、スェンディ王国 第二兵団副団長のダイゼン殿だ。

 古株で口うるさいが、まぁいいんじゃないかな?」


 割と投げやりなバーニアの説明に、むーむーとどこからか抗議の呻きが聞こえた。


「私とダイゼンは、もちろん人間族だ」

「あと、ダイゼンも姫様も独身だよ」

「バーニア、それは今は関係ないだろう?」

「ちなみに私も独身なんだ。ははは」


 ぎんっ、と。バーニアの軽口に、由梨の眉が吊り上った。

 しかし高さと目線の関係で、それに気づいたものはいない。

 良かったやら、悪かったやら……



 由梨の視線の先のバーニアは、一言で言うと「残念な美女」という感じであった。

 軽めの雰囲気、気楽な表情、付き合いやすそうな雰囲気と声音。

 人懐っこい童顔は、性別年齢問わず好印象を与える。

 体型はローブのためよくわからないが、特に太っている様子はない。

 ツバサ達には分からないが、この世界で魔術師と言えば、冒険者としてもそうでなくとも需要が高い。

 色々な意味で、一家に一台的な魅力ある人物であった。


 ただし、では恋愛対象としてどうかと問われると、そちらはなかなか難しい問題となる。

 顔はいい。

 スタイルも、特に悪そうではない。

 だが、髪型がアレである。

 いかな美人と言え、頭が抹茶ソフトではネタか冗談かと言ったところだ。

 少なくとも、日本人であるツバサ(と由梨)からすれば残念というか珍妙というか、恋人向きでない風であった。


 なお、誰も期待しないであろう中年独身親父ダイゼンにも一行だけコメントを記しておく。

 後日、由梨いわく『ふぉーの、ぴんくの、まんねんばしゃおるすばんのせんしみたい』ということであった。

 まあそんなことを言う由梨自身は、その『万年馬車お留守番の戦士』を使っていたのだが。それはこの世界の話ではないと言うことで割愛する。


「さて、次はそなた達の番だ。自己紹介くらいはしてくれるのだろう?」


 ネルの言葉に、一度だけツバサとマーリィは視線を交わし。

 由梨だけは、よく見るとバーニアを睨んでいるが気にせずに。


「ツバサです。人間族、旅人。

 記憶喪失で、気づいたら森にいたところをエルフに拾われました」


 先程考えた、若干偽りの経歴を語った。


「エルフのマーリィと申します。

 訳あって、ツバサさんと一緒に旅に出ることにしました」

「スフィだ。占い師をしている」


 ツバサの後を、マーリィ、スフィと続き


「ゆりです。翼おにぃちゃんの、よめです」


 相変わらず、由梨だけが空気を読まずにぶちかました。


「は……?」

「ああああの、子供の言うことなので、気にしないで下さいね?」


 マーリィのフォローに、まぁそんなもんかと納得する面々。

 由梨の心の中の舌打ちが聞こえた気がしたが、まぁそんなこともなかろうと気を取り直し。


「それで、不帰かえらずの森と呼ばれていることと、ち――オーワン様のことを伺ってもよろしいでしょうか?」

「ふむ。そなた達は呼び名を知らなかったわけか。

 まあずっと交流もなく森から出てくる者も居なかったのだから、仕方ないか」


 一つ頷くと、ネルはバーニアに説明を促した。バーニアも頷き、口を開く。


「150年前の大戦のことはご存じですか」

「ええ、存じております」


 知らないよ?という顔のツバサをとりあえず無視し、マーリィが頷く。

 それを見て話を続けようとするバーニアを、しかし遮ったのは由梨だ。


「しらないよ。なにがあったの?」


 由梨ぐっじょぶ!

 できた妹のフォローに喜びつつ、バーニアの続きを待つツバサ。


「勇者と魔王との大戦がありました。

 通称として、前大戦と呼ばれています」


 前大戦。

 魔王と、召喚された勇者との大戦。


「ゆうしゃ? まおう?」

「勇者は、神や大精霊によって異世界から召喚された、異界の旅人と呼ばれる者たちだな。

 魔王は、魔物達の王、蝕天の世界の親玉とされているんだよ」

「その、前大戦がどう関わって来るんだ?」


 バーニアの言葉に、先を促したのはツバサ。


「150年前の大戦で、魔王を退けた勇者の一行。

 オーワン様は、その勇者のパーティの一人だな」

「な、なにぃぃぃっ!?」


 初めて聞かされる、驚愕の過去。

 あの、親ばかで祖父ばかで、どSで意外と家庭的なおっさんが。

 かつては嫁が二人いたと言い娘もすごい美人の憎らしいおっさんが。

 実は、勇者のパーティの一員であったと。


「ゆるせん!」

「そう言えば君は、さっきオーワン様をおっさん呼ばわりしていたね」

「お? あ、ああ。村でお世話になったからな。

 伝説とか英雄と言うより、親切なおっさんだった」


 エロ親父とか、すけべ親父とか。そういう、憧れる人達を敵に回すような表現は控えた。


「本当に、あの森の中にオーワン様がいらっしゃるのだな。

 いや、感慨深いものだ」


 150年。

 伝説と言えば伝説だが、人間以外の種族も生きる異世界。生きて過去を伝える者もまた存在する。

 微妙に現実的で手の届きそうな過去の年数とは、いかほどのものであろうか。


「オーワン様は大戦の後、仲間の内の女性二人を娶り、隠居されたのだ。

 新たな時代を迎えた人間達の王国に背を向け、来るべき時に備えるとおっしゃり、森を閉ざして」

「……なるほど」


 勇者の仲間ということは、すなわち英雄の一人であるということ。

 そんな人間の王国での栄誉を捨て、森の中でひっそりと生きる。

 いったい何を考え、どんな未来を描いたのだろうか。


「それ以来、不帰の森からエルフが姿を現すことはなく。

 また森に入ろうとした者も、ある程度より奥へは進めず人里とは隔離されたと言っていいだろう」

「話はなんとなく分かったけど。

 それって、不帰かえらずって言うよりも、侵入不能だったんだよな?」


 普通と言っていいのか分からぬが、現代日本の創作異世界で『かえらずの森』と言えば、入ったら出て来られない、魔境や地獄のような場所を指す。

 話を聞く限りでは、不帰と言うよりは入れずの森とでも言った方が正しい気がする。


「まあ呼び名については諸説あるが。

 オーワン様が、森を閉ざす、入って来るな、命の保証はしないと。そう告げられたゆえ、そのように呼ばれているらしいな」

「そうなのですね」


 森の中しか知らないマーリィにしても、森の外の話、あるいは森の外での父親の話は興味深かった。

 そんな様子に、ツバサが疑問をさしはさむ。


「マーリィ、知らなかったんだな?」

「ええ。森から出たこともありませんでしたので」

「あー、と言うか……

 マーリィって、まだ150歳もなかったんだな」

「……へ?」


 ツバサの言葉に、数秒考え込み―――


「もうっ、私はまだそんなに年取ってません!」


 怒りか照れか、マーリィの放ったうらけんは。

 蹴り跡のついたツバサの顔面を捉え、その身を椅子ごと後ろへなぎ倒したのであった。



御大層な通り名のオーワンの実態が、ついに明かされる。

その驚愕の内容と、マーリィの年齢に物理的に吹き飛ぶツバサ。

遅々として進まぬ話し合い、終着点はいずこか。


次回『エルフは招かれた』


―――めんどくさがりのツバサが、設定つめこみ回とパスする日は近い


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