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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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旅人は森から来た

 テーブルのこちらには、マーリィ+由梨、ツバサ、スフィの順に。

 向かいには、ローブ姿、ネル、兵士の順に。

 コップの中身は改めて足され、つい15分ほど前と全く同じように着席して向き合う面々。


 そう、全く同じように着席しているが。

 まるで間違い探しのように、数点だけ差異があった。


 一つ。ツバサの顔に、蹴り跡があること。

 一つ。由梨のちっちゃなおててが、ツバサのふともも(頬には手が届かなかったのだ)を一生懸命抓っていること。

 一つ。マーリィとツバサの間の距離が、先ほどよりも少しだけ遠いこと。


 由梨の絶叫やツバサの慟哭ツッコミ、マーリィの蹴りなどなど。

 あれらの嵐を考えれば、その後の様子としては軽度な差異である。

 誤差どころか、気のせいと言っていいレベルかもしれない。


 この部屋は、この宿に二部屋ある大部屋のうちの片方である。

 宿泊客も他にないと言うことで、ネル達が一時的に借り受けて会議室として使っていた。


 さておき。

 随分と暗くなった窓の向こうを一度見てから、ようやくと言うべきか、ネルが口を開いた。


「さて、まずは我々の自己紹介からだな。

 私の名前はネブルフォーデ=フィナ=スェンディだ。

 今は一介の兵士に過ぎぬ、敬語も不要でネルと呼んでくれ」

「ネブルフォーデ様、流石にそれは度が過ぎますぞ」

「固いことを言ってくれるな、ダイゼン。

 煌びやかな生活より槍を振り回す方が似合っているのは、皆の知るところであろう?」

「槍を繰る姿が素晴らしいことは認めますが、それでもあなたはこの国の王女なのです。

 もう少し―――」

「ダイゼン殿、そのくらいにしようではないか。ここは城内ではないのだからな」


 なおも言い募る兵士ダイゼンを、ローブ姿の涼しげな声が遮った。

 言いながら、頭に被っていたフードを取り払う。


「そふとくりーむ?」


 現れた顔を見た由梨の第一声は、ソフトクリームだった。

 おそらく長い緑髪が、頭の上でソフトクリームのように巻いて積まれている。

 日本人に対しては、抹茶ソフトと言った方がよりわかりやすいだろう。

 これがもし、茶色だったならば……


 いや、茶色だったらチョコソフトだよ?

 もしこちらに小学校とかあるならば、いじめられていたかもしれないが。


「そふと……なんだい、それは?」

「うぅん、なんでもないの」


 異世界にソフトクリームはないらしい。そんな限定的でどうでもいい情報を仕入れつつ、由梨は被りを振った。

 次に口を開いたのはツバサである。


「……エルフ?」

「違う違う、私はホビットだよ。

 私の名前はバーニア、ホビットの身ながらスェンディで魔術師をしている」


 驚いたような、感心したような顔をするツバサとマーリィ。由梨は俯いていて表情が見えなかった。


(ホビットも居て、エルフみたいな耳なんだなぁ)

(他の亜人にも、私たちみたいに耳の長い種族がいたのね)


「やはり旅人と言えど、魔術師は珍しいかい?」

「え?」


 そんな旅人三人組の驚きは、スェンディ三人組が想像しているものとは実は違ったようだ。


「魔術師って、珍しいの?」

「いえ、そんなことはないと思いますが……」

「あー……」


 ツバサの質問に、やんわりと否定するマーリィと呻くスフィ。対照的とまでは言わないが、明らかに異なる反応だ。

 彼らのそんな反応が面白いのか、バーニアは言葉を続ける。


「確かに、我々ホビットからすれば特別珍しくはないと思うが。

 人間種にとっては珍しいと思うんだがなぁ」


 ひょっとして、驚かれなかったことが残念だったのだろうか。

 コップに口をつけ、ちょっとだけ拗ねたように言うバーニアが可愛らしい。


「ん、他の人もホビットなの?」


 ネルの耳も、まだ名乗ってない兵士ダイゼンの耳もツバサと同じく普通の人間。

 もしかしたら見て判断つかないだけで異種族かもしれないが、少なくとも耳が尖っている種族ではないだろう。


「何を言っているんだ。

 君たちもホビットだろ……う?」


 目線でマーリィを示し、言葉の途中で首を傾げる。

 あれ、おかしい。目の前のこの女性は、なんだか耳が尖り過ぎているのではないか?


「いいえ、私とマユリはエルフです。ツバサはにんげ―――」

「エルフだと!?」


 声を荒げて立ち上がるダイゼン。


「え、え?」

「まさかお主らは、不帰かえらずの森のエルフなのか!」


 ダイゼンの勢いに押され、気持ち後ろに下がっているマーリィとツバサ。

 揺れたコップを回収し、いつも通り平常運転のスフィ。

 なぜかバーニアを睨んでいる由梨。これもある意味平常運転と言えるのかもしれない。


「かえらず?」

「あ、オレ達が出てきた森が、そんな風に呼ばれてる、んですよね?」

「……そうだ」


 マーリィの疑問に答えつつ、言葉の後半はネルに確認を取る。

 王都スェンディから北東に位置する森。

 マーリィにとっては故郷の。

 ツバサにとってはスタート地点の。

 そしてスェンディ三人組にとっては―――


「『風の標』のオーワンと森の大精霊の作り出した、百五十年に渡り人間を退ける不帰かえらずの森。

 まさか、そこからエルフが出てくるなどと―――」

「あれ、オーワンのおっさんって有名人なの?」

「おっさんだと!?

 オーワン様をおっさん呼ばわりなど、何事であるか!」


 立ち上がる際に跳ね飛ばされた椅子が、倒れて床に転がるのもいとわない。

 何気なく―――本当に、意図せずぽろっと呟いたツバサの言葉に、青筋立てる勢いで絶叫するダイゼン。


「え、え……?」

「あ、あの……」


 否、青筋立てる勢い、ではなく。実際に青筋立ってる。明らかに血圧上がってる。たくさんツバ飛んでる。

 ダイゼンの目の前に居たスフィは己のコップを避難させ、ツバサとマーリィはその剣幕に二の句が継げなかった。


「前大戦の勇士!

 エルフの最強闘士!

 そして―――」

「そして?」


 先ほどの由梨のように―――ただしこちらはこの中で一番背が高い―――仁王立ちで拳を握り、目を吊り上げて。

 心の内より迸る、万感の想いを解き放つ!


「独身男性の星、ハーレムの主、『諸手に花』のオーワン!」

「ちょ、それ!」

「いやぁぁぁっ!」


 短期弟子ツバサは突っ込み、実の娘マーリィは叫び。


「いや、叫ぶところはそこじゃないだろう?」


 呆れた顔のネルを挟んで、バーニアもまた呆れ顔で小さく突っ込むのであった。


旅人三人組の漫才が終わり、改めて持たれた話し合いの場。

しかし今度は、この場に居ないオーワンが(兵士経由で)これでもかと引っ掻き回す。

軌道修正なるのか、そもそも軌道修正は要るのか?


次回『おっさんは伝説だった』


―――いつかツバサは、伝説を越えられるのだろうか



          □ □ □ □ 



 あとがきがわりに、独白?と今後の予定?などを活動報告&ブログにぺたりしました。

 気が向かれましたら、是非。

 せっかくのクリスマス&お正月、なんかしたいものですね。


 いや、クリスマスも年末もお仕事なんですけど。


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