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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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我は出番が欲しかった

「そもそもー」


 席に着くなり口を開いたのは、マーリィの膝の上の由梨。

 出されたジュースを両手で抱えつつ、二つ隣に座る三角帽子を見つめる。。


「すふぃのおじちゃん? おばちゃん?」

「スフィちゃん、でよいぞ」

「すふぃちゃんは、おにいちゃんの、なんなの?」


 由梨からすれば、最初に会ったのは旅立ち後の四日目。

 マーリィにしても、水晶玉で主との戦闘を見たのと、初回の宴でちらっと話が聞こえた程度だ。

 正面に座るネル達―――左からローブ姿、ネル、兵士の三人を完全に無視して、自分の疑問を優先する由梨。

 見た目は三歳程度、子供などそんなものかと彼女らも特に口を挟まない。そういえば、ツバサも三人で旅をしていると言っていたが、宿に着いたら人が増えていたのだし。


「何、とな」

「うん。なぁに?」


 由梨の、傍目にはキラキラした眼差しに一つ頷くと


「我は旅の占い師にしてツバサの師匠」


 いつかの宴会と同じく、そこまでは良かった。

 そこまでしか良いところはなかったことを覚えていたツバサは、スフィの口をふさごうと手を伸ばし。

 しかしそれより早く、スフィは淡々と告げた。


「ツバサの初めての者にして、ツバサと尻を約束しあった者だ」

「それは違うって言ってんだろーっ!」


 今回も叫ぶツバサ。そのネタはもう聞いたよと突っ込むには、あまり余裕のないネタである。


 叫ぶツバサはさておき、スフィの発言内容に、がたっという感じに身を引くネル。

 務めて無表情を装う兵士とローブ姿。

 へ?といった風に、比較的分かってなさそうなマーリィ。

 表情が変わったか否かも見えぬまま、コップに手を伸ばしてジュースを啜るスフィ。

 そして


「なんですってー!」


 がっ!と拳を握りしめ。

 ぎっ!と眼を吊り上げて。

 由梨が椅子を下りて立ち上が―――立ち上がったはずだ。


(椅子の高さ+ふとももの太さ+由梨の座高) > テーブルの高さ > 由梨の身長


「ユリちゃんだったか、我からは君の背が低くて見えていないぞ」

「くぅ、やりなおしです!」


 マーリィに向かって、だっこだっこーと両手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねる。

 そんな仕草に微笑みつつ、抱え上げてふとももに乗せるマーリィ。由梨は座り直すと、こほんと一つ咳払いし


「な、なんですってー!」


 がっ!と拳を握りしめ。

 ぎっ!と眼を吊り上げて。

 今度はマーリィのふとももに座ったままで、スフィの方を睨んだ。


「おにぃちゃんの、はじめては、わたしのものなの!

 どうていも、ふでおろしも、わたしがちらすの!」

「ちげーよ、由梨のもんじゃねーよ!

 というか初めての人はスフィじゃねーよ!」


(初めてはウェナさ―――ウェナだよ!)


 後半は声に出さずに、心の中で叫ぶ。心中であっても律儀に敬称を取る辺りは、余裕なのか流石なのか、馬鹿なのか。


「!!

 いま、こころのなかで、ほかのおんなのなまえが!」

「!?」


 な、なぜばれたんだ!?というツバサの表情に、隣の由梨のかわいらしい眉がさらに吊り上った。


「しかし我が、この世界でツバサの初めてであることは事実である。

 我が手の中で、びくびくと五度も達して精をぶちまけたのだからな」

「!!!」

「ちょ!

 ちが、わな、ちが、」


 マーリィが、美しい眉をひそめ。

 スフィが、どこかにやりと笑う気配を見せ。

 ツバサは逃げ腰、由梨は怒りの化身。

 そしてネルと兵士たちは、もはや我関せずとばかりに窓の外を向いていた。


 外はだいぶ暗くなっている。

 今日は何時にこの話が終わるんだろう?

 何時ごろ休めるんだろう?

 そもそも軍としての打合せなど出来ていないんだけどどうするんだろう?

 この漫才、いつまで続くんだろう?


 そんな疑問を垂れ流しつつも、飛び火を恐れてか聞いてて面白いからか、それとも現実逃避か。三人は無表情で何も言わないこととした。

 多分、きっと、それが賢い。


「おにぃちゃん!」

「は、はい」


 そんな周りを見えず気にせず、由梨はツバサに指を突きつけると


「せきにんとって、けっこんして!」

「断る!

 しかも、この場合に責任取るとしたらウェナさんやスフィに対してだろうが!」

「うぇな……

 どろぼうねこの、なまえは、うぇな……」

「うあ、しまっ」


(ウェナ……逃げて……)


 距離も状況も忘れて、ウェナの無事を願ったのはツバサ友人マーリィか。


(でも、ウェナがツバサと……)


 おそらくあと数週間で遠く離れるだろう友人を思い浮かべ。

 そんな友人と、目の前の異界の旅人とのことを少しだけ考えてしまうマーリィ。


「じゃなくて、どうして、ことわるの!」

「当たり前だろう、お前はオレの妹だっての!」

「もう、ちは、つながってないもん!」

「……」


 少しだけ。

 本当に少しだけ、考えてしまう。

 血がつながっていなければ―――


「それに、わたしは、すごいよ!」

「何がだよ?」

「おっぱいは、ゆりのあたまぐらい、すごいおっきくなるんだから!」

「何を言ってるの、マユリ!」

「ほ、ほう……」


 由梨の頭。

 マーリィの胸の前にある、由梨の頭。

 つまり、マーリィの身体にあれぐらいの巨大な……


「す、すげぇ」

「でしょでしょ! さわっても、いいのよ?」


 由梨がマーリィの胸に埋もれるように顔を寄せる。

 それを見て、思わず想像する。想像してしまう。

 由梨の頭が、マーリィの胸であると。

 マーリィの胸で、巨大な夢と希望の塊が揺れていると!


「お、おお……」


 巨大な架空の胸に、思わずツバサの手が伸び。

 わきわきとした手が由梨の髪に触れるか触れないかの所で。


「ぁ、娘に近づかないで、変態!」


 我に返ったマーリィが、身を捻るように由梨の身体を引いて庇い。

 そのままの勢いで、椅子を跳ね除けつつ左後ろ回し蹴りをツバサの顔面に叩きこんだ。


「ぶぎゃっ!?」


 普段は全く使うことのない、父親直伝の格闘のわざ。

 効果は抜群だ!


 跳ね飛び、壁に激突して崩れ落ちるツバサ。

 由梨を抱いたまま、荒い息をついてツバサを睨むマーリィ。

 そして、ちょっとだけの心配と、浮気者への天誅を見届ける由梨。


 引き金となったスフィは、変わらずマイペースでコップに口を付け。

 スェンディの三人組は、暗い窓の向こうを見てため息をつく。




「―――我は汝を助けに来たのだ」


 他にはしゃべる者の居ない、かすかに埃舞う部屋で。


「まあ、助けになるか、火種になるかは知らんがな」


 始終ペースを変えなかったスフィだけが、飲み終わったコップを見せてお代わりを要求したのだった―――


王女と兵士とローブ姿。

スェンディ三人組を置き去りに、由梨とツバサは止まらない。

しかし話が進まぬのも困るわけで、そろそろ軌道修正しようと。


次回『旅人は森から来た』


―――軌道修正、できるんだろうか。


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