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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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槍使いは強かった

 ツバサがこの世界で感じていることは、いくつもある。


 身体が軽く、よく動くこと。

 今のところは、時間や年とか、意外と日本の常識が通じること。

 技にせよ知識にせよ、学習速度が異常なこと。

 女の子が美人ばかりなこと。

 風向きの村のご飯は、問題なくおいしかったこと。


 多数の感じていることが、この世界の成り立ちなのか、それとも異界の旅人としての補正なのか。それは分からない。

 常識が分からず、平均も分からず。手さぐりで探していくしかない。

 だからこそ、修行や鍛錬は怠らず、情報は余さず得なければ。そう考えていた。

 9割は、妹のために。

 残り1割は、自分のために。



 と、いうわけで。

 敵の攻撃はそれなりに余裕をもってかわせるし、槍もつかめた。

 防御面のテストは、さすがに痛いと洒落にならないのでまたの機会にして。

 少し、攻撃面のテストもしてみようと思った。


 どうやら、ちょっと偉いらしい兵士の槍を握りしめたままで。

 大声で集敵(挑発)を放ったツバサは、両手に力を込めた。


「ぬっ、放せ!」


 握った槍を敵と引き合う。

 持って行かれる程ではないが、さりとて微動だにしない等と言うこともなく、槍が拮抗する。

 まだ若干の余力はあったが、筋力については化け物じみてるとかそんな様子はない。

 このガタイのいいおっさん兵士よりちょっと強いくらいか、とあたりをつけた。


 思考を遮るように、横合いから振り下ろされた曲刀を半歩ずらして避ける。

 続く別の男の長剣は、剣を握る小手を蹴り上げて撃墜。

 さらに殺到する男たちには


「よっ、せぇ!」


 槍を握った両手に力を―――精霊力をほんの少しだけ込めて、一気に振り抜く!


「ぬどわぁっ!」

「うわ!」


 槍を握っていた兵士を鉄塊に見立て、巨大なハンマーのように真横にフルスイング。

 槍の柄や兵士の巨体がぶつかった兵士たちが、槍を手放した兵士とともに次々に跳ね飛ばされた。


「なるほど、このくらいはできるわけだな」


 小声でつぶやくと、両手でくるりと槍を回し、刃物側ではなく柄の方を握りしめて構えた。



 冒険者のスキルとして、魔術の基本スキルである魔矢ボルトと同時に、武術の基本スキルも得ていた。

 名を、強打。単純に、武器で攻撃する時に破壊力が上がるスキルである。


 オーワンから説明を受けたツバサは、しかしこう疑問を持った。

 破壊力が上がると言うが、具体的に何が強化されているのだろう? と。

 オーワンも持ちえなかった答え―――そもそも疑問さえ持っていなかった―――を探して何度か試してみたところ、武器の性能が上がるわけではなく、筋力のような形で使用者が攻撃一回分だけ強化されている、という形だった。

 その性質さえ理解していれば、武器を振ろうが、盾で敵を押そうが、棒を振り回そうが一回分の行動には変わりない。

 応用は容易かった。


『そんな考え方は初めて聞いたし、そんな考え方でスキルを改造できる人間など聞いたこともない。

 ツバサくんは意外とセンスがあるのかもしれんな』

『無駄に凝り性の人種なもんでね』


 研究し、工夫し、極めることに長ける日本人は、つまるところ人種全体がオタクであると言えるのかもしれない。


 ツバサ自身もまた、そこまで濃いつもりはないが、ライトでもオタクだ。

 気になったことは調べるし、気に入ったものは突き詰める。

 無意識にでも使い道や効率の良さを探ってしまうのは、ゲーマーとしてのサガかもしれなかった。


『そのうち、裏ワザでも探してみるか』


 だいたい最近のゲームは、裏ワザらしい裏ワザではなく、テクニックや考え方の一部というレベルのものを声高に裏ワザ呼ばわりしてるばかりで非常に嘆かわしい。

 壁を抜けたり、理不尽にワープしたり、当たり判定がなくなったり、573個のコマンドでフル装備になったり自爆したり。

 そう言った古き良き時代がうんぬんと言い出した辺りで、ツバサの後頭部に由梨の幼女ちょっぷが突き刺さったのであった。



 槍を構えたのには、理由がある。

 武器としては全然練習をしておらず、間違いなく剣の方が慣れているが、槍であれば振り回すだけでも一定の間合いは確保できるからだ。


 そんな素人考えのスイングが役に立つのか立たぬのか、まずは野球のバットのように振り回してみる。

 身長より長い槍の旋回に慌てて距離を取る兵士と、他の兵士にぶつかって下がれず腹部を強打される兵士。

 なんとも足並みは揃っていない。


(集敵の効果か、それとも雑魚ってことか。

 怒り方も人それぞれっぽいしなぁ)


 むしろ、後方の連中が後から後から詰めかけてくるために、手前の人間が離れるスペースがないのかもしれない。

 そんなことを考えつつ、4,5回素振りをするとさすがに誰にも当たらなくなった。


「えぇいどけどけ、オレの槍を返せ!」


 人だかりの中から、さっきのちょっと偉いっぽい山賊もどきが出てきた。


(なんか名乗ってた気がするけど、なんだっけな。雑魚っぽいから別にいいけど)


「我らに敵対するのみならず、我が槍を奪うとはこの盗人め!」

「敵対するつもりはないんだけど……さすがにこれは手遅れか。

 本当に斥候じゃなくて旅人なんだけどなぁ」


 気持ちの中だけ頭をかいたつもりになりつつ、完全に全周囲を囲まれて、さてどうしようかとちょっと悩む。


「黙れ黙れ!

 斥候だろうが旅人だろうが、ボーニア軍の一番槍、このアールド=ガードナー様をコケにしてくれたのだ。地獄を見せてくれる!」

「はぁ、元気だねぇ」


 そもそも、最初に居た風向きの村がそれなりにのどかで平和だから気にしてなかったのだが。

 もしかしてこの世界は、旅するだけで即襲われるほど危ない所だったのだろうか?

 だとしたら、由梨とマーリィを連れて歩くことを根本から見直さなければならないかもしれない。


「まずは我が愛槍、アールドスピアを返してもらうぞ!」

「ぶっ……」


 思わず噴き出した。

 よく見れば、兵士の中にも笑ったり目を逸らしたり変に無表情だったりする者たちが居た。

 皆、心は一つだ。


「あれか。乗る馬にアールトバロンとか、乗る飛行機にアールトウイングとか、そんな名前つけちゃうのか」

「アールトバロンではない、バロンアールドだ!」

「まじか!」


 本当にそれ系らしい。恐るべし異世界……

 いや、このおっさん個人が恐るべしなのか? わからん。

 あ、でも他の兵士の皆さんは呆れたり呆れたり呆れたりしてるし、このおっさん個人の問題か。

 というかそうであってくれ。


 そんな切実な願いを大精霊に祈ってる間に、ツバサは槍を力任せに奪われてしまっていた。

 思いつきで振り回していただけなので、別段思い入れはない。名前を付けたりもしていない。

 返して欲しいなら返してやっても構わない。それでツバサを攻撃してきたりしなければ、だが。


「ふはははは、我が槍に触れたこと万死に値する、しねぇ斥候!」

「触っただけで殺すとか、斥候から話も聞かず殺しちゃうとか、色々駄目だろう!」


 再度突き出された槍を盾で払うが、続く兵士達からも攻撃が降り注ぐ。

 かわし、受け、流し、払い。それでも服の先を刃が少しかすめて、これはちょっと厳しいかななんて思っていた時に。


「はぁっ!」


 爆音と悲鳴を撒き散らし、包囲の一角を斬り崩し馬に乗った騎士が雪崩れ込んできた。


「何奴!?」

「我が名はネブルフォーデ=フィナ=スェンディ。我が国に仇なすボーニアの先兵ども、逃げぬならば容赦はせんぞ!」



「ネル王女だと……!?」


 ツバサとアールドが睨み合いつつ動かぬ中、兵士の皆さんが浮足立つ。


 ネル王女。

 サフォード王国の第二王女にして、赤金の姫騎士の異名を持つ王国最強の一人だ。

 十分な準備をして魔導兵器で迎え撃つならともかく、こんな陣形も戦列も何もない状況で目の前に立たれて勝てる相手ではない。


 というか、馬騎士が接近するのに誰も気づかなかったのか。

 今から逃げて逃げ切れるのか。見逃してくれるのか。

 様々なことを囁き、心に覚え、兵士たちがそっと互いの顔を見合わせた。


 彼ら自身に自覚症状はなかったが、実はそれだけツバサの集敵の効果がすごかったということなのだ。

 スキルを使った本人さえ認識して居ないが、姫騎士の参入を許した時点で大勢は決した。スキルを使ったツバサに関係なく、ボーニア軍 対 ネル王女という図式における大勢だが。


「逃げるなら見逃してやる。

 我が槍の錆になりたい者だけかかってくるがいい!」



 敵軍である自分たちに、逃走を許すというネル王女。

 その言葉にツバサを取り囲んでいた兵士たちは一斉に逃げ出し、


「ネル王女を討ち取れぶぁふっ!」


 逃げずにネルに槍を向けたアールドだけが、同じく槍を持ったネルによって秒殺されたのだった。


弱い方の槍使いは退場し、強い方の槍使いが残り。

改めて、ツバサは槍使いと対峙する。

果たして王女は何をし何を語るのか?


次回『王女は放棄していた』


―――初の王女様登場に、ツバサのテンションは如何に


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