エルフとエルフとエルフがたくさん
耳さえ尖ってればエルフ。
もはやファンタジー界の共通認識にして絶対条件とも言える不変の真理。
先人の偉大なる業績に畏敬の念を禁じえません。
大抵、長寿とか若くて綺麗とかスレンダーとかスタイル抜群とか美形とか老いないとか。
ともかく、美しく理想的な姿として描かれるエルフ。
男なら、一度は抱きたい種族のトップグループを独走だ!
ま、個人的にはスレンダーエルフよりも、巨乳なエロフがいいわけなんだけど。
もうこの際、女の子ならいいよ!
どうしてイケメンだのおっさんだの、そんなのばっかり相手にしなきゃいけないんだよ!
――― ――― ――― ――― ―――
イケメンの後を歩くこと、30分から1時間ぐらいか。
一言も発さず、森の中を歩き続けるのはひたすら苦行だった。
だから、前方に門らしきものが見えた時には少し嬉しかった。
「森の中に村があるんだな」
「……」
相変わらず返事をくれないイケメン。
いいさ、オレだって男と話したいわけじゃないんだからね!
お前みたいな愛想のない奴じゃなくて、村にいる可愛い子から色々聞いちゃうもんね!
ああ、ちなみに縛られたり矢じりでぐりぐりされてるわけじゃないよ。
普通の格好で、普通に歩いてきた。ちょっと歩きづらかったけどね。
そういう意味では、最初は怖かったけど、このイケメンもそんなにひどい奴じゃない……のか?
「イケメンってだけで罪だけどな」
「……?」
なんとなく怪訝そうな顔をした、気がする。後頭部だからよく分からないけど。
そんな調子で、ようやく村への門をくぐる。
ふわりと、涼しい風と澄んだ空気が身を包んで過ぎ去った。
森の中の開けた場所に、柔らかく降り注ぐ日の光。
村の中には小川が流れ、植物の世話をしている人や小さな畑を耕している人などがいた。
その誰もが、全体的に色が薄く、耳が長くて尖っている。
ただ、服装については白かったり茶色かったり黄色かったり様々だった。イケメンのように全身緑の人は居ないっぽい。
髪だって金とか銀とか赤とか色々いる。全体的に色合いの薄い人が多く、イケメンみたいに鮮やかな緑とか居ないようだ。
ていうか服も髪も緑一色って、このイケメンちょっといかれ――特殊なんだろうか?
絶対に見間違えようがないのは便利そうだが、何か強い拘りでもあるのかもしれないかな。
そんなどうでもいいことを考えつつ、門の傍にいた人に指示を出し終わったイケメングリーンについて村に入った。
村の大きさは小学校とかのグラウンドぐらい?
隙間を大きく開けてまばらに建った家々の姿が、なんとものどかでいい雰囲気を出していた。
外で仕事をしていた人が、何かにびびりつつ目の前のイケメングリーンに挨拶する。
「お、おかえりテルス」
「ただいま」
このイケメングリーン、テルスっていうらしい。
軽く手を挙げて挨拶だけ返すと、村の奥へ向かってざくざく歩いていくテルス。
テルスに声を掛けた人がじっとオレの方を見ていたので、とりあえず挨拶しておいた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
警戒されてるのかな?
まぁいいや、よそ見してて射抜かれたくないし。男だし。
当然と言えば当然、村の中には耳が長く尖った人達がたくさんいた。
―――もういいや、エルフって呼ぼう。エルフ(仮)
女性は総じてすっげー美人で綺麗で、胸が小さいのがちょっと残念だった!
そんなエルフ女性達(ついでに男も)皆が皆、オレのことをじっと見つめてくるんですよ。
え、これは恋ですか? ひとめぼれフラグですか、うはうはですか!
しかしこちらが見つめ返すとみんな隠れたり逃げてしまい、なんだかちょっとしょんぼり。
その後もテルスは村人と挨拶を繰り返し。
オレの方は、挨拶しても皆に怪訝な顔とか逃げられたりとか変な反応をされて。
ちょっと心が傷ついた頃に、テルスの案内で一番奥の少し大きな家についた。
「村長の家とか?」
「そうだ」
「お、やっと返事があった!」
ずっと村の女性達に冷たい反応されて寂しかったんだよ。
たとえイケメングリーンであっても少し嬉しい。
オレの言葉に、ちょっと嫌そうな顔を向けてくるテルス。
ついうっかり答えてしまった、って感じだろうか。
「なんとなく勝った気分。ふはは」
「さっさと来い、射抜くぞ」
「ぅ、へーい」
片手を矢筒に伸ばしてみせるテルスに、射抜かれないとは思いつつ素直に従う。
通された部屋には、人間で言えば50くらいっぽいおじさんが椅子に座っていた。
「おかえり、テルス。そちらが連絡してくれた人の民かね?」
「はい。ヒグイグマと森の木々を、魔術で焼いた人間です」
「なるほど」
立ち上がったおじさん。背はオレよりも頭半分くらいでかかった。
かなり薄い金髪を後ろで一つに束ね、こわーい顔のまま青い瞳でじっとオレのことを見下ろしている。睨んでいる。
な、なんだろうね、これは自己紹介とかした方がいい、のかな?
「森を焼いた、か」
「はい」
あ、あれ? やっぱりそこが重要?
自己紹介とかすると、ひょっとして罪人の名前などうんぬんとか言われちゃうの?
「罪に罰を」
「うむ、罪に罰を!」
テルスの言葉に高らかに宣言をすると、傍らに立てかけてあった―――剣!?
「死ねい人の民!」
「ぎゃーーっ!」
……
「……、?」
閉じた目を、ほんの少し、おそるおそる開けると。
おじさんが仁王立ちして、こちらを無表情で―――
「ぷっ、あはははは!
見事な怯えっぷりだ、素晴らしいぞ人の民よ!」
「……へ?」
無表情だったのも一瞬、目が合うなり馬鹿笑いをし始めた!
「いや、悪い悪い、ちょっと試したかっただけなのだが。
ここまで見事におどおどして大絶叫してくれると、まるで私が悪いことをしたようだ!」
「……わ、悪いことしただろ!
殺されるかと思ったんだぞ!」
「ははははは、いやー悪い悪い。つい面白くてな」
「面白くてで済むかよ!」
な、なんなんだこのおっさん!
無表情だったのは必至に笑いを我慢してただけかよ!
「ていうかイケメングリーン、お前まで笑ってるんじゃねーよ!」
「……私の事か?
いやすまない、長が失礼したよ」
「お前も失礼だよ!」
なんなんだこいつら!
「はっはっは、何、これが罰ということで怒りを収めたまえ。
木と同じように燃やされるとかよりは、驚くだけで済む方が良いだろう?」
「む、むぅ、そりゃぁそうだが」
「テルスに一任すると、時々射抜くからな。
私が直々に罰を下すことにしてるんだよ」
「……本心は?」
「面白いことが大好きだ!」
ちくしょう、めいっぱいの笑顔で言い切りやがった!
しかもこういう奴嫌いじゃないんだ、もっとちくしょう!
「いやな、面白かったのは確かなんだが、他に知りたいことがあったのだよ。
それは今ので分かった、十分だ」
「……知りたいことって?」
「聞きたいことも知りたいことも、大量にあるのだろう?
時間はあるのだ、順番にゆっくり話そうではないか。まずは座りたまえ、人の民よ」
大爆笑の気配を鎮めたおっさんが椅子を示す。
そうだな、話が通じる相手が居るのなら。きっと聞きたいことは限りないはずだ。
オレは一つ頷いて椅子に座ると、おっさんの話に耳を傾けた。
イケメングリーンとおもしろおっさんに挟まれ、うはうはには程遠いツバサ。
おっさんの話なんかいいじゃない、早く可愛いエルフちゃんとー。
などとのたまう余裕はあるのか、そう言えば記憶喪失はなんとかなるのか?
次回『人かエルフか異世界か』
―――毎度毎度、タイトルと話の内容があってなくて忝い!