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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第二章 うさ耳兵士のご奉仕はいんぼうでした
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アールド=ガードナーは戦った

 アールド=ガードナーの自慢は二つある。

 もちろん二つどころではなく自慢できる点は無数にあるのだが、謙虚な己は二つだけに絞って人に語ることにしていた。


 もう一つは、類まれなるはやさだ。


 そもそも長距離走で同い年の子供に負けたことはないし、村で一番足の早い辻向かいのデスベスとも正々堂々と戦った。

 職としては兵士となったが、世が世ならば足の速さだけで一旗あげることができた可能性もある。

 あれから十年、今では兵士長と呼ばれ、部下から慕われている。

 長と名はついたが、今も戦場の第一線で活躍し、若い頃と変わらぬはやさを維持している。

 とある一部に限っては、あの頃よりはやくなったと言ってもいいだろう。ある一部では。


 今追いかけているスェンディ軍の斥候と思しき奴ら。

 奴らは身軽であり足も遅くないようだが、己の脚力を持ってすれば追いつくことはたやすかろう。

 一番槍として、一番に敵に当たり、一番多くの戦火を挙げる。そうすればきっとひょっとしたらいきなり貴族になってしまうかもしれない。


 未来は輝きまくっているのだ。



                      ◇



「ふはは、待てぇ斥候めぃ!」


 走る三人を追う兵団。その中で一番先頭を走る男が、笑いながら山賊のような声をあげた。


 走る三人、というのは正しくなかったか。

 実際に走っているのはツバサとマーリィの二人であり、由梨はツバサに背負われている。

 軽装と重装の差はあれど、足手まといが二人。まだ追いつかれこそしていないが、差は開かない。


「っていうか、そもそもなんで追われてるんだよ!」

「ツバサがえっちだからです!」


 ツバサの行った挑発行為のせいか、走り続けたためか、赤い顔に荒い息でそれでも文句を言うマーリィ。

 的外れとも的を射ているとも言えない回答に仏頂面になるツバサに、続けて背中の由梨が声をかける。


「おにぃちゃん」

「なんだ、由梨?」


 ぺちぺちと、しがみついていた頭を叩き。


「おにぃちゃん、はげたら、おんなのひと、よりつかない?」

「ハゲない! だからむしるんじゃない、今だって寄りついてない!」


 なおもむしり続けようとする由梨の手から髪を守りつつ、そら見ろ、あのおっさん達をとばかりに元気に追ってくる兵団を示す。

 確かに、今寄りついているのは多数の男たちであった。


 逃げつつも微妙に軌道修正して街道を走るツバサ。それを追い、兵団もまた元々の進軍ルートである街道に入った。

 あたりに馬車や旅行者はなく、ただ走る双方。まるで、古いアニメかドラマのような光景だ。


 ただ、これはアニメやドラマではない。

 兵士の振るう槍が当たれば怪我をするし、刺されば血が出る。

 数秒棒立ちするだけで、相手がその気なら簡単に命を落とすのだ。


(斥候、とか言ってたな)


 追われる理由がなくなれば、危険は去るのだろうか?

 斥候と呼ばれたということは、この兵団の戦闘相手が居るということだろう。

 それも魔物ではなく、人間の軍隊のような相手が。


「オレ達は斥候じゃない、ただの旅人だよ!」

「斥候は皆そう言うもんだ!」


 言われて、なるほどと思わず頷いてしまう。確かに斥候が自分の正体を明かすわけはない。

 それでも足を止めず、また口も止めずに声を張り上げる。


「だいたい、斥候だったらそれっぽい道具とか馬とかあるんじゃねぇのかよ!」

「馬に頼るなど軟弱者め、オレなら馬などなくとも斥候を務められる!」


 がっちゃんがっちゃんと、金属鎧の音を立て。

 耳をすませば、どすどすという足音さえ立て。

 山賊のような声でがなり立てる、先頭の兵士。


「たとえ馬があろうが、お前の声や足音で斥候が務まるわけないだろ!」

「なにをー!?

 このアールド=ガードナー様の俊足、しかと見るがいい!」


 ふんぬー!とか聞こえたと思うと。

 アールド=ガードナーとやらの足音が、少しずつ、近づいて、


(……近づいて来ないな)


 向こうも向こうで精いっぱいなのだろうか。

 必死で走っているようだが、差は一向に変わらない。


 不毛な鬼ごっこは、さながらマラソンのごとく。

 ツバサに分からない後方集団から少しずつ鎧を着た兵士が脱落していく中、死にそうなマーリィが声をあげた。


「前方、壁、です!」

「町だか宿場かな、このまま逃げこんでいいのかな?」

「わかり、ません!」


 ツバサ達3人に対し、最初に見た兵団の規模はおそらく百~二百ほどか。全員が走って来てるわけではないようだが、悠長に振り返って数える余裕はない。

 遠くに辛うじて見える程度の外壁と、おそらく外壁の中にあると思われる物見櫓。

 視認できる距離とは言え、少なく見てもあと1キロはあるだろう。


 ちらりと確認すれば、だいぶ足取りも重く、ツバサに引っ張られてなんとか走っているマーリィ。

 手を離して一人で走らせれば、おそらく5分もせずに転ぶだろう。


(それ以前に、5分も走り続けられないだろうな)


 頭部に対する由梨の草むしり攻撃こそ止んだが、それ以外には何一つ状況はよくなっていない。

 実際には兵士がぼろぼろと脱落し始めているのだが、こちらもマーリィがすでに脱落しかけている。

 かくいうツバサだって、お荷物二つのハンデがあるのだ。このまま走り続けて建物まで辿り着けても、そこで門前払いとなると非常に厳しい状況だろう。


「マーリィ、由梨を任せるから歩きででもちょっとずつ町に向かってくれ」

「はあ、ツバサ、は?」

「この状況、時間を稼ぐしかないだろ」


 先程はつい突っ込んで会話が途切れてしまったが、そもそも自分たちは斥候ではない。

 攻撃を防ぎつつ説得できれば、なんとか見逃してもらえるんじゃないだろうか?


「全員がオレに向かってくるとは限らないし、余裕がないが。

 できる限り頑張る」

「わ、わかりました」


 ぜえぜえと荒い息をつき、心配そうな眼差しで、しかし返答以外の言葉を返す余裕もないマーリィ。

 そんな彼女に、少しだけさらにペースを上げて後続を引き離すと、由梨を押し付けて自分は追っ手を振り返った。


「行け!」

「は、はやく、おいついて、ください!」


 マーリィの言葉に、見えぬと分かっていながら頷き。剣は抜かず、素手のまま左手で盾を構える。

 追っ手の先頭だったアールドも、己の槍の間合いの少し手前で立ち止まり構えた。


「ようやく観念したか、大人しく我が槍の錆になれい!」

「だから、オレ達は斥候じゃなくて旅人なんだよ、いきなり追われたから逃げただけだって!」

「ぬかせ、そのような戯言が通じるものか!

 我が槍の一撃、受けてみよ!」


 突き出される一撃を、盾で弾いて受け流す。


「旅をしていたら、たまたまあんたらの軍隊が見えただけで。

 なんでそれだけで襲われなきゃいけないんだよ?」


 大振りの一撃は下がってかわし、突きも横に避ける。


「この辺りに居て、スェンディ軍と我らの戦を知らぬわけがあるまい。

 お前らの他に旅人などおらぬだろう」


 ツバサからすれば、一撃一撃はそれなりに早いのかもしれないが、予備動作が大きすぎて避けて下さいと言われてるようなものだ。


「そんなの、知らないってば、よっと」

「えぇい、ちょこまかと!」


 もともと身体能力に多少の自信があったとは言え、この世界に来てすぐの様子から比べればありえない速度で成長している。

 そんな己の成長を、疑問に思うこともなく。

 なんだか、思った程怖くないと言うか、すごくないと言うか、そんな感想を覚えていた。


 もしかしなくても、オーワンの攻撃と比べるからいけないのだろうが。

 テルスと二人がかりでの防御訓練たこなぐりは、間違いなくツバサを色々な意味で鍛え上げていた。


「アールド様! 逃げたもう一人を追いますか?」


(やべ、それは困る!)


「あの超美人か、あれもオレの獲物だ!」

「はっ、いえ、ですが」


 超美人。

 マーリィに対する評価が、ちょっと見ただけのアールドからしてもそうなるのは当然か。


 ポニーテールにしてあった髪は、解いて後ろで一束ねにし。

 今のマーリィは、旅装束として質素なズボンに上着のみ。

 アクセサリーらしいものも、顔の両脇の髪に巻いた細いリボンと、あとは胸元のリボン一つという格好だ。

 おしゃれやファッションというには大分シンプルではあるが、だからこそ引き立つのが素材の良さというもの。

 簡素だが身体のラインの出る服に包まれた、大きすぎない胸、細い身体。

 優しげな目元に透き通るような肌。白く細い指先。


 エルフであることを抜きにしても、町を歩けば五人に四人は振り向くだろう美貌。

 それに加え、由梨―――マユリがそばに居るからか、ほのかに漂うオーラとでも言うべき母性愛。

 今は戦闘中ゆえ雰囲気こそ緊迫したものであったが、彼女が超のつく美人であることは誰に聞いても疑うべくもないことであった。


 確かに、斥候を捕らえるという役目のみで考えれば、逃げた方こそきっちり追わなければならない。

 そんな常識を突っぱねる兵士長に、部下は困惑に呆れを振りかけた表情で尋ねた。


「ですが、斥候を逃がすわけにはいかないと」

「ちっ、ならここはお前らに任せるぞ!」


 いつの間にか、多数の兵士が追い付いてきており。

 一対一ならともかく、この数を相手取るには非常に厳しい状況。


(だが、やるしかないか)


 最後におまけとばかりに突きだされた槍を―――


「よ、っと」

「お、おお?」


 難なく弾いてかわせるならば、掴むこともできるはず、とばかりに。

 言葉通りに難なく右手で柄を掴み、大きく息を吸い込むとめいっぱい声を張り上げた。



「旅人と兵士の区別もつかないへっぽこどもめ、だからお前らは女にもてないんだよ!」



「な……」


「ん……」


「だ……」


「オレは嫁がいるもんねー」

「あ、てめー裏切りやがって!」

「殺す!」

「しね!」

「コロス!」

「斥候もお前も死ね!」

「なんだってー!?」




 第二回、集敵祭り。


 槍を片手でつかんだまま、怒りに燃える兵士の皆様と今度こそ戦闘が始まった。


鬼ごっこの末、足の遅いマーリィを逃がして頑張るツバサ。

誤解の解けぬ兵士の皆様に囲まれ、第二回集敵祭りが開催される。

周囲を囲まれてのリアルリンチに、スキルの一撃が光る!


次回『槍使いは強かった』


―――槍使い アールド=ガードナー、参る


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