ツバサの修練 七日目
七日間……というと、やっぱり一週間と感じてしまうんだけど。
こちらでは、七日間は一週間プラス1だ。
まあ、だから何?って言われるとなんでもないんだけど。
ともあれ一週間、みっちり鍛えた感じだ。
つい一月前までの生活と比べると、あまりにも違うなぁ……と思うんだけどね。
でも、毎日不安を抱え、ひたすら祈るように看病を続けてた日々と比べれば。
元気な由梨と一緒に生きられるんだ。大抵の頑張りはどうってことないさ。
ついでに、美人の母親エルフちゃん付きだしね!
ついでだよ。あくまで、由梨のついでに。
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一週間と一日続いた修練。
知識面では、文字の読み書きの最低限を覚えた。
いや、英語とかと比べたら、ありえないスピードだよなーとは思うんだけどさ?
異世界補正とでも言うんだろうか。
文法が日本語とほぼ同じってのはあったけど、それにしたってありえないスピードだった。
なんか、この世界なら記憶力がすごいとか、オレって天才になれるんじゃないだろうか。
あ、でも精霊力は知力関連には無力って言ってたっけ。
つまり、オレの秘めたる実力が発揮されたという
―――やめよう。自分でもありえないと思うから。
戦闘面では、ジョブにこそついてないが、衛士のスキルを教わった。
そもそも、ジョブとスキルの関係ってやつが、そこそこ融通が利くらしくてさ。
○○のジョブが一定レベルになると××のスキルを覚える、って形式ではあるんだけど。
それはあくまで、知らなかったスキルの知識を知るってだけらしいんだ。
だから、知識として得れば、レベルが満たなくても使えるし。
逆に、適正がないとか、ぶっちゃけ苦手とか、練習する気がないとレベルはあっても満足に使えないらしい。
そんなわけだから、ジョブについていなくても、知っている人から知識は習得できるわけで。
逆に、知識やスキルを得ることで、そのジョブにつける確率も上がるそうだ。
もちろん、本人の適正やらなんやらは必要らしいけどね。
でなきゃ、ジョブの研究者とか居たら、全ジョブ習得できちゃうからなぁ……
下級とか一般的なジョブは比較的誰でも覚えられるに近いが、上級職やレア職は知識があっても駄目らしい。
よく分からないし、実体験もしてないから。
そんなもんかー、くらいに聞いておいたよ。
そういうわけで、講義の方は今日の午前中で一応の合格をもらい。
午後には、オーワン・テルスから及第点ということで卒業となった。
この一週間で殴られた数は、百や二百じゃきかない。
避けたり防いだ分も含めれば、間違いなく四桁だろう。
逆に、こっちが殴って攻撃を当てた回数は、オレの名誉のために伏せておこう。
ゼロじゃないからね!
修練は、基本的に剣と拳で行われた。
左腕にバックラーをつけつつ、長剣を両手で扱うスタイル。
場合によっては片手で振るう必要もあるんだが、剣の重さを考えるとちょっと厳しかった。
でも装備は剣と小盾だけど、肉弾戦はひたすら防御や回避中心。
剣の扱いも、攻撃を受け流す方ばっかりみっちりと叩き込まれていた。
攻撃面は、無唱言の魔術もあるしな。
魔術の練習も順調だ。
動作・詠唱を省略せずとも、少しは威力を調節することに成功。
また、魔術を改造?できるのはなかなか楽しく。オタク魂が燃えた。
基礎の魔矢は、ほんの少し頑張ると、十数本の矢を一斉に放つことができた。
だが別々に動かすには、精霊力よりもセンスとか同時に別々の制御を行う思考力の方が必要そうだ。
オレには無理そうだな。やっぱり物量で火力馬鹿路線をするしかない。
本来は殺傷能力のない照明についても、一度コツを掴めば色々といじることができた。
持続時間を一瞬にして明るさを強めた、通称『フラッシュ』は無唱言で放つといい感じの目くらましになる。
……オーワンのおっさんには通用しなかったけどな。
なんでも、精霊力のうねりとか集まり方で、エルフのおっさんからすればばればれらしい。
テルスには時々効いてたあたり、おっさんが特別な気がしなくもない。
そのうち、精霊力の見方とか、隠し方なんかも勉強したいところだ。
マーリィさんにでも相談しよう。
という名目で親睦を深める。完璧。
ちなみにテルスには、この短期間で魔術の改良に成功するとかありえないと言われた。
おっさんも驚いたし褒めてくれたので、魔術改造って一般的に余裕で誰でもって内容じゃないらしい。
いや、普通に面白いんだけどな?
TRPGであれこれ戦略考えてたのとちょっと似てる。
まあ、そんなわけで。
長かった修行を終えて、ようやく全てから解放され。
オレは一人、大きく身体を伸ばした。
「っふぅ……いや、きつかったなぁ」
しかし一週間もすれば、不思議と身体も慣れるもの。
殴られた痛みや筋肉痛も今では全然ないし、ちょっとやそっとで息が切れることもない。
筋力や体力も、向こうの世界での全盛期以上に高まっていると思う。
今なら、手刀で瓦とか割れちゃうかもしれない。
こう、手がぶつかる瞬間に。無唱言で手の先に魔矢を発する感じで。
あ、そうか。
魔術じゃなく、最初から武術を使えばいいんだ。
精霊力のあるこの世界なら、素手で熊を倒すとかも普通なんだろうな。
実際に熊と戦ったし。
「さて、っと」
明日にはもう旅立ちだ。
マーリィさんと由梨も、挨拶回りや旅の準備を終えているらしい。
お昼ごはんの時にそう言っていた。
この一週間は、テルスの家に泊まっていたが、昼と夜の食事はオーワン宅。
マーリィや由梨を含め、5人での食事となっていた。
ちなみに、調理は全てオーワンの担当。
こっそり聞いたんだが、マーリィさんは料理が全く駄目らしい。
教えてくれたテルスの雰囲気から言って、裁縫以外の家事もあまり具合がよろしくないようだ。
あんなに綺麗で穏やかな母親なのに、そんなところが駄目だとは。
これはこれでアリ。
一方、由梨の方はさすがは精霊の子と言ったところか。理不尽なまでの非凡さが容赦なかった。
最初はオレと一緒に居たいからと午前の授業にくっついてきただけだったんだが。
オレの隣で一度聞いただけで、すでに一通りの文字を読めるようになっている。
他にも、すでに照明くらいは魔法が使えたり、今の年ですでにテルスより精霊力が強いらしかったり。
色々めちゃくちゃだ。
こちらの世界でまだ生後数週間、向こう換算でもおそらく2歳くらいの由梨。
さすがに書く方は、手の大きさとかの問題でまだ厳しいが。
でもあと一年もしたら、様々な分野で早くも負けそうだ。
兄としての威厳を保つためにも、頑張らねば。
そんなこんなで、準備期間も終わり。
今夜はオレとマーリィさんの旅立ちのために、村をあげて祝ってくれた。
オレ自身はテルスとオーワン以外に挨拶する人も居ないが、それでも嬉しいもんは嬉しいよな。
先日の宴と同じようにテーブルや料理が並べられて。
オレは先日と同じように、オーワンの隣に立つのだった。
ついに迎えた旅立ち前夜。
門出を祝して別れを惜しみ、人々は一夜の宴に酔いしれる。
まだ鮮明に、一週間程前の有様を記憶に刻んだままで。
次回『旅立ちの前夜だからと言って』
―――自重しない、懲りない面々




