ツバサの戦争 五日目
会話については、自動翻訳されてるみたいで問題なし。
文字については、午前中の授業で毎日急ピッチで教わってるよ。
あと、文化や生活については、ほとんど教わってないけど、最低限だけ。
今日は、その中で覚えたもののいくつかをこちらで御紹介。
曜日。
金曜日がなくて、月・火・水・木・土・日。
日曜日が祝日だな。
季節。
春夏秋冬で4季節。
曜日もだけど、呼び方が元の世界と同じなのは、意味自体が同じなのか、自動翻訳なのか不明。
日付。
季節+12週間。春の第何週、という呼び方。
誕生日。
日付の表し方をそのまんま利用。
誕生日って言うよりは、誕生週って考え方かな。
……由梨の誕生日は、元とこっちと、どっちで考えればいいんだろ?
――― ――― ――― ――― ―――
「今日は、魔法の基礎についておさらいしておこう」
「ようやくたこ殴りから脱した……」
ここまで四日間、毎日のようにオーワン&テルスにぼこぼこにされ続けた。
いや、だいぶ殴られなれて、防いだりかわしたり逃げたりやり返したりできるようになってるんだけど。
それでも、ただひたすら殴られ続けるというのはあまり楽しくない。
「魔法を扱うには精霊力を用いる。
己の精霊力に形と方向性を与え、望む現象を起こすのが魔法であるといえるだろう」
地面に座り、オーワンの講義を聴く。
午前中と違うのは、ここが外だってことくらいだな。
「精霊力を操る術を総じて魔法と呼ぶが、現在では魔術と武術に区別されている」
「ん?」
「その区別は概念的なものだな。
主に身体を使った物理戦闘に作用させる力が武術。
それ以外の全般が魔術といった感じだ」
「この前言ってた、かばったり敵を引き付けるのも武術?」
「そうだな。
引き付けは武器で殴るわけではないが、武術に分類されているはずだ」
単純に、戦士のスキルか魔法使いや僧侶のスキルか、って感じっぽいな。
「魔術と武術を、総じて魔法と呼ぶが。
魔法を扱うために必要なものが何かわかるかね?」
「何って……精霊力?」
「そうだ。
何はなくとも、精霊力がなければ始まらない」
さすがにそれくらいは分かった。
オレの返答に、まずは及第点とばかりに頷くオーワン。
「精霊力がない場合には、魔法は使えない。
基本的には休憩して時間が経つのを待つしかないが、精霊力をなんらかの手段で回復する必要がある」
「うん」
MP切れってことだな。
「では、少ない精霊力で敵を倒さなければいけない場合はどうしたらいい?」
「んーっと……」
ゲームで考えてみる。
コマンド型のアレとか、剣を振るアレとか、敵を踏むアレとか。
……後の2つは、あんまり参考にならないが。
「力をためる、一回の魔法でたくさんの敵を巻き込む、消費MPを減らす」
「えむぴー?」
「おっと。精霊力の消費を抑える、だ」
一瞬怪訝そうな顔をされてしまうが、すぐにうなずき。
「力をためるというのは良く分からないが、回答としては問題ないな。
効果的に魔法を使うと共に、効率的に精霊力を使うことが重要となる」
「あ、あと」
「ん?」
「そもそも、魔法を使わないで殴って倒せば精霊力使わないよな?」
オレの回答に苦笑すると、オーワンは何事もなかったように続けた。
「魔法を扱うには、集中、詠唱、動作という準備行動と、魔法名を口にしての発動が必要となる。
これらの行為は主に、魔法の精度を高め、消費する精霊力を抑えるためにあるものだ」
「ふむふむ」
「精霊力を集中させることで、速やかな発動を助け。
詠唱と動作で、精霊力に取るべき道筋を示し、無駄のない変換により少しでも消費を抑える」
なるほど……
少し考えて、オレなりの解釈をしてみる。
「あらかじめ、型にあった形に捏ねておくみたいな感じ、かな?」
「まあ、そうだな。そんな認識で良いだろう」
一つうなずくと、
「いつもそのくらい、自分で考えて理解が早いと教えるのも楽なのだがなぁ」
「悪かったな」
ひたすら知識を詰め込まれても、覚え切れないっての。
今だって、ゲームとか料理にあてて考えてるから分かりやすいだけだしな。
「もちろん集中や詠唱をすることで、魔法発動までに必要な時間は長くなる。
状況によっては、威力や精霊力の消費と引き換えに、時間短縮のための省略も必要なことだ」
「なるほど。
オレの場合、節約とか消費を減らすってとこは、あんまり気にしなくて良さそうだなぁ」
「確かに、莫大な量の精霊力を有し、消費よりも時間を優先する場は多いだろうが。
それでも戦闘中以外に魔法を使う時は、あまり手を抜かずきちんと詠唱をするようにな」
「ん、そうなの?」
「消費を節約するクセをつける、という意味もあるが。
詠唱を繰り返すことで、精霊力に形を取らせることに馴染むということがある」
「なるほど。めんどくさがっても良いことはないわけだな」
「そうだな」
釘を刺されてしまった。
長い目で見れば、手抜きしても良いことはない。
魔法も結局、素振りとか練習と同じなんだな。
「あと、これは君に限った話になるかもしれないが」
「なに?」
「普通、詠唱や動作は省略しても、魔法名を口にする『唱言』は省略できない。
魔法を中心に戦うものは、口を塞がれたら無力化するのだ」
「なるほど。さるぐつわとか噛まされたらおしまいなわけだな」
「そうだ。
しかし、君ほどの精霊力を有するならば、唱言抜きでも魔法を使えるかもしれない」
「ほほー。奥の手みたいだな」
「うむ。
省略の順序は、普通は動作・詠唱・集中となる。
動作をせずに魔法を使うものは多数だな。私も普段はしない」
そんだけ、省略しても影響が小さいってことだな。
「威力を調節するためにも、自分自身で色々練習し、適当な使いどころを見つけるべきだろう」
「わかった。
まずは、影響の少なそうなので試せばいいってことだな」
「うむ。実践に入るとしよう」
オーワンがそういうと、テルスが懐から皿を取り出した。
「照明の魔法は使えるね?」
「ああ、覚えてるよ」
照明は、着火の次に覚える冒険者の生活用魔法だ。
名前の通り、何かに魔法の灯りをともす。
「では、詠唱・唱言ありとなしで、それぞれ灯りをともしてみよう。
うまくいったら儲けものだ」
「了解」
テルスの用意した皿に手をかざし、唱える。
「今ここに精霊の瞬きを
照明」
「うわっ」
「くっ」
「目がぁ、目がぁっ」
突如皿の中に生まれた強烈な輝きに、オーワンとテルスの悲鳴が聞こえる。
2人の声も聞こえるだけで、オレ自身も目を灼かれて何も見えない。
今回は意識して、特に集中とかしなかった、んだが……
「眩し過ぎだ、ばか者」
「うむ。ツバサくんには、加減を覚えてもらわんとな」
おそらくテルスが皿を裏返したんだろう、瞼の向こうの明るさが少し落ち着いた。
それから、しばらくというかだいぶ経って。
ようやく落ち着いたオレは、裏返しのまま伏せられた皿に手を翳した。
「それじゃ、両方省略でやってみるな」
「うむ、好きにやるがいい」
2人はオレの背後で、背中を向け、両目を手で押さえている。
……そこまで露骨にしなくてもいいだろうが。顔面に灯りともすぞ。
「んじゃ、やりまーす」
魔法を使うオレ自身も、目を閉じて、左腕で顔を覆い。
右手だけを、伏せた皿に向けて。
「んしょ」
照明、っと。
……とりあえず、目が痛いことはない。
おそるおそる、腕をどかして皿を見ると―――
「お、いい感じじゃないか」
「ふむ?
おお、ちょうどいい具合だな」
「私が使ったときと同じ程度だ」
皿の上には、街灯と同程度の灯りがともされていた。
もちろん目の前で見るには少し眩しいが、それでもちょうどいいと言えるだろう。
「これで唱言抜きでの発動も確認できたな」
「ああ、ちょうどいいな」
「いや、威力調節のためとしては、省略をしないようにな?
あくまで緊急時の手段であり、省略して魔法を使えることは人に知られていない方がいいだろう」
「あー……」
まあ、言われてみればそうだよな。
奥の手はできるだけ人に知られてない方がいいよな。
「まぁ仕方ないよな。
最低限、唱言ありで威力調節できるように練習するよ」
「うむ。
まだまだ君の学ぶべきことは多い。これからも頑張ってくれたまえ」
重々しく言って、そううなずくと。
「ではこれより、定例の防御訓練を始める」
「結局やるのかよ!」
「うむ。
眩しかった礼をたっぷりしなければならんからな」
「あ、くそ、やれって言ったのはオーワンじゃんかよ!」
ちくしょう、今日は戦闘中に魔法使ってやるからな!
しかし、真面目に戦闘しているオーワンはやはり別格で。
無詠唱・無唱言の魔法なのに、使おうとしたところを察知されて叩き落されました。
いや、目くらましに照明をつけようとしただけなんだけどな。
そんなこんなで。
結局今日も痣だらけになってるけれど、私はまだ元気です……
修行は順調。そんな五日目でした。
魔法の基礎や概念を学び、ようやく調節を知ったツバサ。
増えた痣の数だけ、確かな成長を見せる。
旅立ちの日は、もう間もなく。
次回『ツバサの修練 七日目』
―――旅立ちの前日。兄妹は、母は、何を思うのか




