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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
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黒い熊たんは味も炭

 着火、っていうとさ。

 最初に思い浮かぶのは、やっぱり着火マンなわけで。

 導火線とか点火口とか、着きの悪いガスコンロとか。

 そういうのに火を着けるもんなわけだ。


 まあマッチでもライターでもいいんだが。

 あ、タバコは絶対禁止な。半径5mに近寄るなよな。××の体に悪いから。


 ともあれ、着火マンの火ってやつは、せいぜい1~2センチくらいで。

 つまりは、燃えるものに火を着ける、それだけしかないわけだ。


 そういう風に思っていたんだけどさ。

 改めて、着火って、なんだろうね、と。

 オレはこの時、そんな事を思ったわけなのだよ。



―――   ―――   ―――   ―――   ―――   ―――



「……な……」


 目の前の光景に、オレは言葉をなくした。


 オレの両手から出た火は、地面に届き、地面を焼き進み、ヒグイグマに到り。

 その体を劫火で包み、巨大な火柱を上げ。

 さらにそばの木々も巻き込んで燃え上がった。


「……」


 これを……オレが?


 思わず力が抜け、地面に座り込む。


 夢にしても、熱く、あまりにも炎が鮮やかで。火の匂いが生々しくて。

 ゲームにしても、初めて放った魔法のあまりの威力に、ただ茫然としていた。


 と、座り込んで茫然とするオレの耳に


「あ、あつい……」

「ん?」


 かすれたようなスフィの声が届いた。

 熱気にローブをはためかせ、帽子を微動だにせず。呻く。


「我が弟子よ、よくやったな。

 我はこれにて失礼しよう」

「え、弟子?」

「さらばだ」


 そのままオレと炎を置き去りに、どこかへ行ってしまうスフィ。


 ぽかーん……




「って、ぽかーんじゃなくて!

 この火、どうやって消すんだよ!」


 思わず突っ込みつつ立ち上がる。

 ヒグイグマだった塊は、炎の中で黒い何かとして地面に横たわり。

 周辺の木々は、今なお激しく燃え続けている。


「か、かじだー!」


 山じゃないから森火事か?

 逃げないとオレまでやばいじゃないかよ!


「オさないカけないシょうかしない……

 いやちがうだろ! 消火しなきゃ!」


 水! 水!


 見回しても目に入るのは木々のみ。

 方角も分からない森の中。

 代わり映えしない景色の中、違いといえば木が燃えているか燃えていないかだけだった。


「う、うわぁぁぁ、水、やっぱり逃げよう!

 ちがった、水を探しに行こう!」


 慌てて立ち上がったオレの足元に―――



 ひゅんっ どすっ



「うひゃぁぁっ!?」


 何かが飛来し、突き刺さった。

 地面から生えた棒、その先には羽のようなもの。


……矢、か?


「動くな、次は当てる」


 怒気をはらんだ低い声がどこかから響き、オレの動きを押しとどめた。

 この矢を、オレに当てるってこと、だよな?


「こんなの当たったら死んじゃうだろ!」

「黙れ、この人間め!」



 ひゅんっ、どすぅっ



「ぎゃーーーー!」


 いま、いま、いま、頬、かすっ、かすっ……!


 なんとか顔を動かせば、鼻が触れるほど近くに、木から生えた細い棒。

 先端には羽。


 矢、だろう。背後の木に突き刺さっているんだろう。

 オレの顔数センチ、こんなもんが刺されば死ぬなんてもんじゃないだろう!


「ぁ、……」


 口を動かしたが言葉にならなかった。

 ぎりぎりと頭を動かし、よくわからない前方を向く。


 と―――

 激しく燃えていた木やヒグイグマの残骸に、上から水が降っていた。


「雨?」


 見上げてみるが、オレは濡れていない。

 雨が降っているのは、木々が燃えていた辺りのみだ。


 森火事で焼け死ぬ、ってのだけは免れたってことか?

 いや、でも今度は矢で撃たれそうなんだけどさ。



 やがてしばらくして完全に火が消えると、雨は止んだ。

 どこからか一人の男が現れ、火の消えた木々に手を触れる。


 良く見れば、奇妙な恰好の男だった。


 ゆったりとした長袖の服を腰のところで縛り、長ズボンにブーツ。それは奇妙でもなんでもない。

 葉をあしらったデザインの、上下ともに緑一色の服。それもまぁ、趣味の範囲で許せる。

 短い髪から覗く肌は、色白だが普通だ。髪は服よりも鮮やかな緑。染めてるとして、まぁ、ぎりぎり。


 その髪から覗く耳が、細くて長かった。


「エルフ?」

「……」


 その男は答えない。木々を調べている。

 背中に負われた矢筒と手にした弓が、先ほど矢を撃ってきた相手であろうと教えてくれた。


……今なら、動いても矢で撃たれない?


 いや、でも動いてどうしたらいいかわかんないな。無意味な賭けはやめよう。


 仕方ないので男を見ていると、やがて男は何事かを呟いた。

 すると、焼け焦げていた木々の表面が、まるで早送りのように焦げが落ち元の木の色を取り戻していく。


「すげー……」


 何本かの焦げた木々に処置をして、男は最後にヒグイグマだった塊を見下ろした。


「魔物に襲われて、魔法で撃退したということか」

「あ、ああ、そうだと思う」


 顔こそ向けられていないが、もしかしたら質問されたのかもしれない。

 魔物だの魔法だのまだまだ夢かゲームかと思っているが、とりあえず答える。


 夢だよな?

 ゲームだよな?


……現実じゃないよな?


「だが人間、貴様は森の木々を焼いた。報いは受けてもらう」


 エルフの男はそう言うと、ヒグイグマの塊にナイフを突き立てた。

 解体してる、ってところだろうか。

 穿り返してぐりぐりやっている。


 ちなみに、肉を焼いたいい匂いも、血なまぐさい匂いもしなかった。


「ひ、ひいい。

 報いってあれですか、やっぱり矢の的ですか!

 それでもって木々の肥料にされるんですか!」


 やがて塊から何かを取り出した男が懐にしまう。

 ナイフも仕舞うと、こちらに向き直った。

 悔しいが美形だ。線の細いイケメン系。目つきとかは怖いが、イケメンならこんな顔でもモテモテなんだろう。


 実にむかつく。


「……木は死んでいない。だからお前も死なない」

「あぶねえええぇ、木が燃え尽きてたらオレも殺されてるのかよ!」

「……」

「いや、なんとか言ってくれよ!」


 なんだこいつ、やばいよ、木と人間の命が等価だよ!

 イケメンのくせにやばいよ、いやイケメンだからやばいよ!


「おとなしくついてくるのと、無理やり連れて行くのとどちらがいい。選べ」

「……無理やり、って、なんでしょう?」


 どう考えてもろくでもない雰囲気だが、一応ご質問してみる。


「射抜く。引きずる。連れて行く」

「射抜くって、普通に死んじゃうよ!」

「死なない、時もある」

「そういう問題じゃないだろー!?」

「ちなみに射抜くのは頭だ」

「死なない時ないだろ、それ!」


 突っ込みどころ多いなこいつ!


「ついて行きます、おとなしくついて行きます!」

「いいだろう、ついてこい」


 そう言うとイケメンはオレに背を向けて歩き出した。

 一瞬逃げようかとか殴りかかってとか考えたが、実行できる気はしなかった。

 だって、どちらにしても射抜かれちゃう未来しか浮かばなかったんだもん!


初めての魔物に恐怖した次は、まさかの初めてのイケメン。

ハーレム成分もなく、性別不明のキャラも消え、残されたのは男だけ2人。

歩く先はどこなのか、性別とか放送禁止用語とか色々アレがソレで大丈夫か!?


次回『エルフとエルフとエルフがたくさん』


―――耳だけでエルフ決定とか、先人の偉大なる業績に畏敬の念を禁じえません


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