旅立ちへ向けて
人生は旅、と言うけれど。
この世界でならば、旅こそが人生なのかもしれない。
赤子の由梨と、2人。
ずっと一緒に歩いていこう。
……でもなぁ。
由梨は可愛いけど、エロ分としては全然足りないんだよ……!
たまりまくる性欲と欲求不満で、毎日狂いそうなんです!
由梨と二人きりで常に監視の目とか、ある意味で耐えられるんだろうか。
やっぱり、美人で可愛くて綺麗でおっぱいも大きい、そんなエルフちゃんがついてきてくれないかなぁ。
――― ――― ――― ――― ―――
「思い出したよ」
オーワンのいれてくれたお茶を一口飲んでから、オレは切り出した。
「記憶か?」
「ああ。
リーファ……リーファディオルによって、一時的に封印されてたんだ」
「なるほど」
予想していたのか興味がないのか、変化のない表情からは分からない。
「妹の由梨を、この世界へ転生させてくれる。
そういわれて、オレはこの世界へやってきたんだ」
「二人で転生か……」
何事か、ごにょごにょと呟くオーワン。
言葉の内容は、オレには聞こえなかった。
「由梨は、若くして、病気で死んだんだ。
蘇生はできないが転生なら出来ると言われて、オレはリーファにそれを願った」
「……それゆえの精霊の子であり、それゆえの勇者の供ということか」
深い深い溜息。
言葉にできない苦悩が、オーワンの上にのしかかっているようだ。
「連れて行く、のだろう?」
「由梨が望むのであれば、連れて行く。
あるいは、由梨が大きくなるまで、この村で暮らしてもいい」
オレ自身、由梨とは離れたくない。離れる気はない。
だけど、一緒に居られるなら、場所や過ごし方に文句は言わないさ。
由梨がここで暮らしたいなら、極端な話、この村に骨を埋めたっていい。
「ツバサくんがこの村に住むことを、リーファディオル様は望んでいないだろう」
「え?」
あれ、そうなの?
オレの好きにしていいって言ってたよな?
「前回の信託の時に言われたのだ。
旅人の存在と、旅立ちの補佐を」
「信託とかあるんだな」
「ああ。
月が替わった後、一週間したらリーファディオル様の声を聞くこととなっている」
天の影のことや魔物・戦いのこと、その他指示や予言など。
大精霊は、様々なことを教えてくれるそうだ。
「あるいは、望んでいないのではなく、そうならないと予想しているのかもな」
「そうか」
リーファには大きな借りがあるんだ。
望まぬことは、できるだけしたくないなぁ。
「ついさっき、精霊の子を連れていかないと言ったばかりで手のひらを返してることは、心苦しいんだけどな」
「仕方ないのだろう。
やはり、大精霊の伝承は覆るものではなかったのだ」
卓上の拳が、握り込まれるのが見えた。
……辛いよな、そりゃぁ。祖父なんだし。
「それでも、エルフである運命ならば、我らは従うのみだ」
「……」
病室の由梨は、滅多に手を握ったりしなかった。
それでも。
「運命なんて言葉では、オレは納得できない」
「?」
「オレは無力で、何もできなかったけれど。
由梨が死ぬことが運命だったとか、認めるわけにはいかないんだよ」
由梨は、最後まで穏やかだった。
小さい頃から死が身近にあって、死を受け入れていたのかもしれない。
それでも、オレは納得しない。
「最愛の妹の死を諦めて受け入れるなんざ、死んでもごめんだ」
「君は強いのだね」
どこか、寂しげな、優しげな、疲れて呆れたような微笑。
「子供で、聞き分けが悪いだけだよ」
オレは小さく首を振って、苦笑で返した。
その後は、オーワンに問われるまま、昔の生活を話して聞かせた。
幼い頃の由梨。
4年前に両親が行方不明―――爆発事故で遺体が見つからなかっただけだ―――になり、2人で生きてきたこと。
由梨とオレの高校時代。
大学に進学した後の、バイト生活。
由梨の入院、闘病生活。
趣味の話。
あれこれ話しているうちに、マーリィさんが戻ってきた。
「おかえり、マーリィ」
「ただいまです、お父様」
話しつかれたのか、抱きかかえられて眠っている由梨。
マーリィさんは、真っ赤な目で、それでも柔らかく微笑んだ。
「この子ったら、お乳も飲まずに寝てしまって。
よほど必死だったのでしょうね」
我が子を見つめる、愛情に満ちた優しい眼差し。
それだけでも、由梨がうまくやったことが分かりほっとする。
「お父様」
「なんだね?」
優しげな瞳で答える父親。あるいは祖父。
諦めとは違うけれど、覚悟し受け入れた、そんな目をしている。
「私は、この子と共に、ツバサ様の旅について行きたいと思います」
「お、おお?」
オーワンより先に思わず声を出してしまう。
いや、だって!
マーリィさん、超絶美人エルフなんですよ?
白いうなじも柔らかそうな髪も、ちょっとおっとりした優しげな表情もたまんないんですよ?
スレンダーなのにおっぱい大きめですごい柔らかくていやらしそうなんですよ!
「お前がそうしたいなら、そうするといい。
ツバサくん、娘と孫をよろしく頼むよ」
出遅れたオーワンが、ちょっとオレを睨みつつ重々しく頷いた。
「もちろんです、オレも由梨と二人きりよりもずっと心強いし嬉しいです!」
由梨は愛してるけど、エロ成分は昔以上に皆無だからな。
マーリィさん大歓迎とは別なのだよ、別!
あ、それからこの世界の常識とかあれこれもあるし、由梨の世話とか色々もあったよね。
「えっちなことをしたら、マユリに言いつけますからね?」
喜ぶオレに、笑顔の釘が刺さる。
由梨に言いつけられるのは……あんまり、嬉しくない、よなぁ。
「や、やだなぁ。
ぼくは合意の上でしかしませんよ!」
「する気なんだ……変態です」
しまった、早まったか?
「はっはっは。
娘に手を出したくば、私を倒してからにするんだね」
このじいさん、目が笑ってねぇ!
「娘を傷つけるようなことがあれば、地の果てまでも追いつめて死ぬより酷い目にあわせてやろう」
「ひいい」
こえー、じいさんの迫力半端ねぇ!
「し、しかしだね、いつごろ旅立とうかねマーリィさん?」
「準備は必要ですが、月が替わる前には旅立ちたいですね」
「そうだな。
次の蝕天よりも前に村や町に入っていないと危ないだろう。まずは一番近くの町を目指すといい」
マーリィさんの言葉に頷くオーワン。
そうか、しばらくしたらまた次の蝕天が来るんだった。
「王都なんちゃら、でしたっけ?」
「王都スェンディだ。
だが、王都よりもまずは町に向かうといいだろう」
「近いんですか?」
「森を出てから街道を探せば、1日2日程度で宿場町につく。
そこで周辺の町を聞き、どこへ向かうか決めるといいだろう」
現役で宿場町とかあるのか。ファンタジーというか、歴史的というか。
移動が徒歩中心だからってことなんだろうなぁ。車とかないだろうし。
「マユリを連れて行くのですから、結構な準備が必要になりますね。
大きくなった時のための洋服なども予め作っておかないと」
「服とか全部手作りなんですね」
「ええ。村人の分は得意なものが作りますが、マユリの分は私が作っています」
「すごいなぁ」
服は買うしか考えなかったが。
なるほど、そういうものなんだな。
「ならば、来週の祝日というところでどうだろうか。
一週間以上あれば、マーリィも準備が整うだろうし、ツバサくんもみっちり鍛えられるだろう」
ぞわり。
オーワンの言葉に、そんな風に背筋が逆立つ気がした。
あれ、オレやばい?
「いいですね。
ツバサ様、それでいいでしょうか?」
「あ、あー、うん。そうだね、いいんじゃない、かな?」
オーワンが、マーリィさんに気づかれないように笑みを浮かべた。
言葉に乗らない、笑顔に秘められた凄みにちょっとがくぶる。
「それまで毎日、私とテルスでみっちり鍛えてやろう。
ふふふ……腕がなる」
ちょっと、本当に指の骨がべきべきいってるよ!
ていうかこのおっさん、エルフのくせに格闘キャラというか筋肉キャラじゃねーかよ!
「では私は、マユリのオムツを替えて寝かせてきますので。
失礼しますね」
「よしきた、いってこい。
私はテルスを呼んで、今日の特訓を始めるとしよう!」
ひいいー、もうかよ!
まだ泣きはらした後はあるけど、それでも笑顔で退室するマーリィさん。
っていうか見捨てないで! 一緒に連れて行って!
「いやあの、おひるごはんの時間じゃ……」
「さあ行くぞツバサくん。
娘と孫の平和を守るため、君を死ぬまで鍛えてやろう!」
「死んじゃう、それ死んじゃうから!」
オレのツッコミに、両肩をがっちり掴んで満面の笑み。
「むしろ、死ね?」
「ひぃやぁぁぁっ!?」
面白い事が大好きだから、からかっただけなのか。
本心で、オレに亡き者になって欲しいのか。
最後まで分からなかったけれど。
翌日から毎日、筋肉痛で死ぬほど悶絶することとなるのだった……
主人公を蚊帳の外に、母と娘は話をまとめ。
主人公の知らぬところで、美人エルフが連れに加わった。
前途洋々、妄想炸裂、バラ色の旅路は近い。
次回『ツバサの七日間戦争』
―――ただし、旅立ちまでに死ななければ




