母親と赤子
なんなんだ、あのリーファの最後の発言は。
あの発言を最後に、ぷっつり記憶が途絶えていて。
つまり、第二段階に向けて、記憶を封印されたってことなんだろうけど。
なんだよあのあからさまな次回予告は!
あれだろ、どうせ喜んで食いついたらマッサージとかしょうもなくてベタなオチなんだろ?
上げて落としてオレを見て笑うんだろ?
分かってるよ、そんなことは!
なめんなよ!
分かってるけど、期待せずにいられないんだよ!
期待したい、信じたいんだよ!
オレはロリじゃないけど、立派な男の子なんだよ!!
――― ――― ――― ――― ―――
「これで、おにぃちゃんの、けんぞくだよ」
オレの唇を奪った由梨は、どこか恥ずかしそうに、幸せそうに微笑んだ。
その笑顔だけで嬉しくて、オレも微笑みを返す。
「……おかげであれこれ思い出したんだが。
オレでも覚えてなかった眷属についてを、どうして由梨が知ってたんだよ?」
「りーふぁさまがおしえてくれたの」
「なるほど。
オレの前だけじゃなく、由梨の前にも現れてあれこれ説明したわけか」
「うん。
おにぃちゃんのちからとか、けんぞくのなりかたとか」
オレ自身が、眷属を得られるとか分かってなかったわけだし。
由梨が一人目の眷属になってくれなかったら、全部詰んでたわけか……おそるべし。
いや、もちろん由梨が眷属で不満はないからな?
胸がでかくてエロ可愛い子の方が良かったぜーとか思ってないからな?
「あとは、おにぃちゃんのせーかんたいとか、ぞくせいとかこのみとか」
「待てい!」
何聞いてんだよと妹に突っ込めばいいのか?
それとも、何教えてんだよと突っ込めばいいのか?
なんで知ってるんだよか?
「やくにたたなかったの……
ぜんぶ、しってた」
「さらに待てい!」
どうして妹に性感帯とか知られてないといけないんだよ!?
我が妹ながら、相変わらず突っ込みどころ多いだろ。
「えへぇ」
「笑ってごまかすんじゃありません」
ぐりぐり……は可愛そうなので、ぷにぷにする。
きゃっきゃと喜ぶ姿は、普通に赤子なんだがなぁ……
「でも」
「なぁに?」
頬をつつく手を止め、撫でる。
「生きてて……と言っていいのか分からないけれど。
今生きていてくれて、嬉しいよ」
「……うん。
わたしも、おにぃちゃんと、いっしょにいられてしあわせ」
由梨を抱きしめる。
抱き合う、というには由梨のサイズが圧倒的に小さかったけれど。
由梨もまた、ちっちゃな手を伸ばしてオレに触れる。
力が入り過ぎないように、必死で気を付けながら。
安堵とか幸福とか懐かしさとか後悔とか。
いろんなもので、少しだけ涙が出た。
「おにぃちゃん」
「ん、どうした?」
「おか……まーりぃさんのところに、いってくるね」
それは、言い直さなくても良かったんじゃないだろうか。
ちょっと思ったけれど、口には出さないでおいた。
「じゃあ連れていくよ」
「うぅん、ひとりでいくの」
行けるんだろうか、とは思ったけれど。
由梨の目を見て、あっさりと説得を放棄する。
「じゃあ、途中までついていこう。
さっきでかい音がしてたし、危ないからな」
「ありがとぉ」
笑顔の由梨に、頷いてやり。
抱いていた由梨を、地面に下ろしてやった。
由梨は一度四つん這いになって壁まで進むと、壁に手をついて立ち上がった。
「……さっきまで抱えられてたとは思えないなぁ」
「はいはいは、もうできたもん。
あと、けんぞくになって、ぱわーあっぷしたもん」
「パワーアップ、ねぇ……」
苦笑しつつ、伝い歩きをする由梨の斜め後ろに立つ。
「それじゃぁいこー」
「ああ、気を付けてな」
由梨とともに、家の中を探す。
盛大に机やら何やらひっくり返した後はあったが、オーワンもマーリィさんも居なかった。
仕方なく外に出てみると
「まーりぃさん!」
「まゆ、り……」
二人とも、玄関のすぐそばにいて、こちらを振り返る。
由梨が名前で呼んだからか、母親は泣きそうな顔をしていた。
祖父もまた、渋い顔をしている。
「はなしがあるの」
伝っていた壁から手を離し、小さい身体で仁王立ちの由梨。
倒れそうなほど顔を上に向けて、真っ直ぐにマーリィさんを見つめている。
「……わかったわ」
対するマーリィさんは、泣きそうな顔で。
それでも、由梨を、マユリを真っ直ぐに見つめ返す。
緊張し、張り詰めた空気の中で。
それでも由梨は、笑って見せた。
「ふたりきりで」
「うん」
―――きっと、由梨なら大丈夫だろう。
しっかりとした由梨の態度に、軽く頭を撫でてやり。
「じゃ、中に戻るが。
冷えないように気を付けろよ」
「ありがとぉ、おにぃちゃん」
オレはオーワンと共に屋内に戻った。
由梨だけじゃなく、マーリィさんも幸せになれる未来を願いながら。
未婚の母と、記憶を持って転生した娘。
そんな二人に想いを馳せつつも、全てを任せ退く兄。
男たちも男たちで、また複雑な想いを抱えて対峙する。
次回『旅立ちへ向けて』
―――風向きの村最大戦力、オーワン。参る




