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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
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精霊の子

 この世界の精霊、大精霊ってやつは、元の世界での神とほぼ同じだ。

 むしろ、実際に言葉や力を現す分、神様なんて不確かなもんより遥かにわかりやすい。


 見たこともない神様なんて、あてにしてたらおしまいだからな?



 でも、元の世界で『神の子』っていうと、単純に超すげーってだけだけど。

 実際に精霊が居るこの世界で『精霊の子』というのは、超すげーでは済まないらしい。

 なんせ、実物が居るわけだからな。



―――   ―――   ―――   ―――   ―――



「精霊の子?」

「そうだ。

 エルフの大精霊が授けた、父親のない子供なのだよ」


 重々しいオーワンの言葉に、マユリさんが少し暗く俯いた。

 わしゃわしゃのポニーテールからのぞくうなじが綺麗だ、なんてことを考えてしまう。


「精霊の子は、通常のエルフと比べてもかなり早く育つのだ。

 それこそ、周りから見て不自然に見える程にな」

「ふーん。

 早く育つことに、特に問題とかあるの?」


 マーリィさんと、オレと母親を交互に見つめるマユリちゃんを見ながらオーワンが続ける。


「基本的には、ない。

 だが―――」


 そこまで言うと、オーワンは一度言葉を切ってお茶に口をつけた。

 オレも同じく、少し冷めたお茶をいただく。


 お茶を飲み、さらに一拍。次に口を開いたのはマユリさんだった。


「エルフの、私たちの故郷の伝承にあるのです。

 精霊の子は、異界の勇者の供として生まれ、勇者と共に旅立つ定めを負う、と―――」

「……」


 異界の、勇者。ってことは。


「マユリが精霊の子であることは、ここにいる3人とテルスしか知りません。

 しかし育ちを見れば明らかなので、村人の中でも何人かは予想はされてることでしょう」


 エルフとしては、精霊の子は伝説に等しい存在らしい。

 大精霊の子であり、大精霊の関与した伝承に歌われる存在。

 それはもはや、大精霊自身であるかのように扱われる。


 マーリィさんが、マユリちゃんを抱く腕に力を込めて。

 オレの方を見て、必死に続けた。


「マユリは、父親はなくとも私の娘なのです。

 私は母として、マユリと共に生きたいのです!」

「……」

「村の長としては、私は精霊の子を勇者の共としなければならないと思っている。

 しかし祖父としては、まだマユリはあまりに幼く、せめて大人になるまで待って欲しいと思っているのだ」


 重い表情に、暗い空気。

 2人は、オレがマユリちゃんを連れ去ると思ってるんだ。


 エルフの伝承の通りに、異界の勇者が、精霊の子を。


「お願いします。

 私達から、私から、マユリを奪わないで下さい!

 あなたの物になれというなら、この身でもなんでも捧げます。ですから―――」

「私からも、頼む」


 悲壮な、沈痛な、そんなマーリィさんの顔と声。

 オーワンも、苦々しい表情をしている。


「……そうか」


 オレは、自分の感情がなんとなく分かって、自嘲気味に呟く。


「マーリィさんは、オレをそういう人間だと思ってるわけか。

 会話も多くなかったし、見知らぬ外の人間、しかも異世界の人間とは言え」


 裏切られた、なんて言うつもりはないけれど。


「そういう風に見られていたのは、少しショックだ」


 苦笑とともに、ため息を吐いた。


「あの、いえ、そういう意味じゃ―――」

「いや、いいよ」


 はっきりと、手のひらを向けて。

 言葉を遮る。否定を拒絶する。


「エルフの伝承で、精霊の子は異界の勇者のお供となる。

 伝説の精霊の子が生まれ、伝説……かどうかは知らないが、勇者もどきが現れた。

 なら、連れて行かれると考えるのは、間違いじゃないんだろう」


 それでも、少し、心が苦しいけどね。

 声に出さず、心でだけ小さく付け足した。


「オレは、この村の外、この森の外のことは何も分からない。

 この世界のことが何も分からない。

 種族も、風習も、常識も、仕組みも、何も分からない」


 そう、何も分からないんだ。

 オレは、この世界の人間じゃないんだから。


 2人とも、マユリちゃんも、黙って聞いている。


「伝説が何を言おうが、精霊が何を言おうが。

 一緒に居たいと望む親子を引き裂き、旅に出たくないと言う者を無理やり連れ去るほど」


……少しだけ、言葉を選んで。

 結局、一番適した言葉は見つからず、肩をすくめて苦笑した。


「無感情ではないつもりだよ」

「……」

「それに、そんなことを盾に、無理やり女性を抱く趣味もない」


 マーリィさんが小さく謝罪の言葉を口にした。

 そのことについては、気にしないことにした。お互いのために。


「まあ、マユリちゃん自身が『使命に目覚めました!』とか言ってついて来たがるなら、話は別だけどね。

 エルフにとって、その伝承がどれほど重たいのか、オレには分からないから」


 マーリィさんの腕から力が緩んだからか。

 マユリちゃんはじたばたともがくと、テーブルの上に手を伸ばした。


「―――ありがとう、ツバサくん。

 君が思った通りの人物で、安心したよ」

「よく言うよ、不安そうな顔してたくせに」


 まだ落ち込んでいるマーリィさんの代わりに、マユリちゃんの手の前の湯飲みをどかしてあげる。


 暗い表情のマユリさん。

 安堵したような、苦しげな、そんな曖昧なオーワン。

 マユリちゃんだけは、明るく、あるいは必死に、オレに向かって手を伸ばし。


「大きく育ってなー、マユリちゃん?」


 オレは、何の気なしに指を伸ばして。


 必死に手を伸ばすマユリちゃんに、オレの指を掴ませた。




 その瞬間―――


ようやく触れた、幼子の手。

握手にもならぬ、指一本を握られただけの触れ合いは。

ツバサに、今まで知らなかった未知の世界を指し示す。


次回『妹の手』


―――未知の世界 イコール ロリぃ扉、ではありません。念のため。


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