この世の春、モテ期
ちょっと、恥ずかしかったり怒らされたのは、良かった。
でないと、もしかしたら、また泣いてたかもしれないから。
生きてて良かった気持ちは本当なんだよ。
でも、納得いかないんだよ!
テルスが散ってオレが号泣してたシーンを、エルフのほぼ全員で鑑賞会してただなんて……!
なんて怒りも忘却し、今回はオレのサービス回なのです☆
――― ――― ――― ――― ―――
テルスが生きてたことを知り。
その後、オレの状態について説明を受けた。
精霊力の枯渇状態。
オレの凶悪なだるさは、病気ではなく疲労みたいなものだったらしい。
急激に精霊力が減少し枯渇した状態で、もうちょっとやりすぎたら死んでたそうだ。
さらっと言われたが、本当に恐ろしい……
無我夢中でフルパワーだったんだが、今後はもう少し調節ってやつを覚えよう。
ともあれ、精霊力は少しずつ自分の中から生み出されたり、外部から取り込めるとのこと。
精霊力の枯渇に対しては、当分安静にしてるしかないそうだ。
そこでふと思い出した、我が師匠スフィのこと。
聞いてみたら、オレを村まで運んだ後、滞在を拒否してふらりと森に消えたそうだ。
『許可されるなら宴には参加しよう』と言い残して。
もちろん、話を聞いたオーワンは許可したそうだ。
火クラゲ(名前忘れた)を倒したのはスフィなんだしな。
そんなわけで。
食事と、最低限の情報だけ聞いたオレは、ひたすら安静に過ごすこととなった。
オーワンに頼まれたエルフのセーンさん(男)は、暇なオレにこの世界の文字を教えてくれた。
会話は自動翻訳(異界の旅人のスキルらしい)でなんとかなるが、文字はそうはいかない。この世界で過ごすなら、覚えることは必須だろう。
オーワンは、たまにセーンさんの代わりに文字を教えてくれた。主に性的な部分を。
テルスは日に2度来て、果物の差し入れをしてくれた。元気そうだった。
マーリィさんは、マユリちゃんが寝てる時にたまに顔を出してくれた。いつも綺麗だった。
後の時間は、ほとんど食っちゃ寝で過ごした。
そんな、だらけた日々を送ること二週間(6×2=12日間だね)
ようやく体が動く程度に回復したオレは、短い闘病生活とおさらばした。
ほとんど布団に居たせいで、身体がすっかり固まって鈍ってるな。
でも鈍ってるだけで、テルスの訓練後と比べても衰えたり弱くなった感じは特にない。安心した。
ちなみに、オレが最初に目覚めた時、蝕天から丸二日以上が経過していたとのことで。
蝕天から、元の世界で言うところの半月ほどが経ち。月も半月となり。
今夜、先送りにされていた勝利の宴が催されることになった!
いやー、オレの回復を待っててくれたとか、嬉しいよね!
火クラゲ側はオレとスフィ以外全滅だったし、ガルゴジラ(だっけ?)の方もオーワン以外全滅してたそうで。
なんだかんだで、MVPと言える働きだったらしい。
最大の功労者抜きで祝勝会というわけにはいかぬとの長の言葉で、今日まで開催が先送りだったのだ。
オーワンに感謝だな。
村の中央、大きな広場。
見張りと赤子以外の全エルフが集まる中、中央に立っているのはオーワンとオレだ。
「皆の者、此度の戦い、本当によくやってくれた!
蝕天から日が開いてしまったが、今宵は祝勝会だ」
オーワンの声に歓声をあげるエルフ達。
大人しくて知的ってイメージのエルフ達だったが、宴の席では人間と一緒だ。
「今回の蝕天は、過去に類のないほどきつく激しいものであった。
恥ずかしながら、私さえ主の攻撃で気を失ったほどだ」
あちこちから、静かなどよめきがあがる。
オーワン、気絶してたんだなぁ。そう言えば全然姿見なかったよな、忘れてたけど。
「だが、リーファディオル様が遣わした異界の勇者、ツバサのおかげで我らは勝利を収めた!」
一斉にあがる歓声。拍手喝さい。
喜びや賞賛の声に、調子にのって腕なんかあげてみる。
お、もっと盛り上がった。楽しいなこれ!
「さあ、今宵は無礼講だ。
戦いに出たものも生活を守ったものも、皆等しく楽しんで欲しい!」
皆に、酒とジュースの杯が配られる。
予め酒は飲めぬと辞退しておいたおかげで、オレのはジュースだ。
「異界の勇者ツバサと、リーファディオル様に感謝を!」
「「感謝を!」」
乾杯の言葉はなく、皆が杯を掲げ。
それが、宴の開始の合図となった。
「こんばんは、勇者様!」
掲げた腕を戻し、ジュースを一口含み。
さて―――と思う間もなく、オレの前に数人の女の子達がやってきた!
「お、おお?」
「すっごい強い主を、お一人で2体も倒したのですよね」
「とってもお強いんですね!」
こ、これは……!
「ははは、ツバサくんは早速もてもてだな。
お前達、ツバサくんはまだ病み上がりだからな。座らせて、食事をお持ちしてあげなさい」
「はい、わかりました」
「ツバサさん、こちらへどうぞ」
「ツバサさま、何か召し上がりたいものはございますか?」
オーワンの言葉に、意外とてきぱきと動くエルフ子ちゃん達。
若干のだるさはあるが、そんなに辛いわけでもない。でもちやほやされちゃう。
一番近くのベンチに座らされると、両脇に腰を下ろして身体を寄せてくるエルフ子ちゃん達。
隣に座れなかった2人は、一人はさらに隣、もう一人は椅子を持ってきて斜め前に陣取った。
おおお、いい匂い、あったかい、これだけでも幸せすぎる!
どっちを向いても可愛い子ちゃん、どっちを向けばいいんだくうう!
「勇者様、ご気分はいかがですか?」
「あ、ああ、すっごくいいよ!」
もう、すっげー気分いいよね、みんなのおかげで!
って、言っちゃおうかな、言っちゃおうかな?
うん、自重なんかしてたまるか!
爽やかなはずの笑みを浮かべて。
「君たちが居てくれるからね」
「「きゃー!」」
ちょっとわざとらしいオレの言葉に、黄色い声をあげるエルフ子ちゃん達。
うおお、自重しなくてよかった!
「勇者様、まだお加減よろしくないのですよね。
私が食べさせて差し上げます!」
「あ、えっちゃんずるーい!」
「飲み物が欲しければ、あたしに言って下さいね」
4人の美少女エルフ子ちゃん達に囲まれて、まさに春、まさにモテ期!
「勇者様、あーん?」
「あーん」
「ツバサさま、こっちもですよぉ」
「ツバサさん」
「ツバサ様」
エルフのかわい子ちゃんに囲まれてうはうはのツバサ。
ちょっと冷たい視線や周囲の好奇の目にも気づかぬ幸福は、しかし。
帰ってきた師匠によって、見るも無残に―――
次回『帰ってきた衆道』
―――エルフ子ちゃんハーレム、とならないのがツバサクオリティ。




